10.斎藤の嗜好品
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着替えながら夢主は部屋を見回した。
売り場の奥にあるこの部屋には様々な調度品が置かれている。
店は繁盛しているようだ。
西洋の陶磁器、色の付いた硝子洋灯、可愛い細工の施された小物入れ。
夢主がこの時代しか知らぬ者なら目の色を変えて部屋中を歩き回っただろう。
素敵な雑貨に囲まれ、楽しい気分で着替え終えた夢主は、汚れた着物を入れた桶を抱えて店を覗いた。
「あっ、着替えたんね、桶はそのまま置いてくれたらええよ」
「わかりました」
ぺこりと会釈をし、土間に桶を下ろして改めて妙のもとへ戻ると、折角だからと店の中を丁寧に案内された。
「いろんな物があるんですね」
「凄いやろぉ、でもなぁ、舶来品扱う店も増えてきたし、お父はんはそろそろ潮時かなんて言うてはるんよ」
「お店、閉めちゃうんですか……」
「ははっ、そうではないよ。違う店を開こうかと考えているのさ」
「お父はん」
「妙の着物、よぅ似合うとるやない」
着替えが終わったと知り、二階に上がっていた妙の父が店に下りてきた。
娘の着物を着こなす夢主を気に入り、嬉しそうに眺めている。落ち着いた青い小袖が良く似合っていた。
「はい、ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいんだよ、あのまま放ってはおけないからね、ははははっ」
間抜けな自分の姿を思い出し、夢主は思わず赤い顔で俯いた。
「あの、お店閉めちゃうって……こんなに面白いものが沢山あるのに」
「まぁ時代やね、京の実家から出て来て随分とありがたい商いをさせてもらったけども、そろそろねぇ。問屋は終わりだね。うっとこがせんでも、似たような店が沢山並んでますやろ」
「そうですか……」
「そうや。せやからな、次はこれってのをもう見つけてますさかい、見ててください。店を開けたまま準備を進めてますから、ある日突然店を変えて驚かせるつもりです。新しい赤べこを楽しみにしてくださいな」
「ふふっ、わかりました。楽しみにしています」
それがきっと牛鍋屋。夢主は妙とその父の笑顔に大きく頷いた。
そして、良くしてもらった礼に、自分でも買える品が無いか店内に目を向けた。
鏡や小箱が夢主の目を引く。
「わぁ可愛い……そういえば小箱が欲しいって思ってたんです」
「そうなん」
そっと手にした小箱は、鏡台の中で眠る今では懐かしい桜の陶器を入れるのに程よい大きさだ。
中を開くと赤い布が貼られていた。
「それはビロードって言うてな、綺麗やろう、外国の高貴な方も好む生地らしいんよ」
妙は夢主が恥をかかないよう耳元でそっと、それは少し手が届かない品かもしれないと、やんわり教えてくれた。
「そうですよね、品があってとっても綺麗です……お高そう……ふふっ」
品物が良すぎてと微笑んで箱を戻すと、ふと目を移した場所で良く知る物を見つけた。
「あっ……」
「あぁ、紙煙草やね。意外やわぁ、貴女煙草を吸うんですか」
「いえ……どちらかと言うと苦手なんです……」
苦手で、出来れば煙のそばにはいたくない。
……それでもいつかは一さんも吸うんだろうな……
煙草の箱を見つめて斎藤の事を考えていると、ガラガラと音を立てて扉が開いた。
「失礼」
「へぃ、いらっしゃいまし」
客の訪れに関原親子は人懐っこい笑顔を見せるが、夢主は目を見開いて驚いた。
「どうしてここが……」
「阿呆、家の前から足跡が続いている。それがこの店の前ででっかい跡を残して消えた。転んだんだろう」
突然店に現れ、助けた愛らしい客人にきつい口調で話しかける人相の悪い男に、店の主人は嫌な印象を受けた。
妙も同じく背の高い目付きの悪い男に戸惑っている。
売り場の奥にあるこの部屋には様々な調度品が置かれている。
店は繁盛しているようだ。
西洋の陶磁器、色の付いた硝子洋灯、可愛い細工の施された小物入れ。
夢主がこの時代しか知らぬ者なら目の色を変えて部屋中を歩き回っただろう。
素敵な雑貨に囲まれ、楽しい気分で着替え終えた夢主は、汚れた着物を入れた桶を抱えて店を覗いた。
「あっ、着替えたんね、桶はそのまま置いてくれたらええよ」
「わかりました」
ぺこりと会釈をし、土間に桶を下ろして改めて妙のもとへ戻ると、折角だからと店の中を丁寧に案内された。
「いろんな物があるんですね」
「凄いやろぉ、でもなぁ、舶来品扱う店も増えてきたし、お父はんはそろそろ潮時かなんて言うてはるんよ」
「お店、閉めちゃうんですか……」
「ははっ、そうではないよ。違う店を開こうかと考えているのさ」
「お父はん」
「妙の着物、よぅ似合うとるやない」
着替えが終わったと知り、二階に上がっていた妙の父が店に下りてきた。
娘の着物を着こなす夢主を気に入り、嬉しそうに眺めている。落ち着いた青い小袖が良く似合っていた。
「はい、ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいんだよ、あのまま放ってはおけないからね、ははははっ」
間抜けな自分の姿を思い出し、夢主は思わず赤い顔で俯いた。
「あの、お店閉めちゃうって……こんなに面白いものが沢山あるのに」
「まぁ時代やね、京の実家から出て来て随分とありがたい商いをさせてもらったけども、そろそろねぇ。問屋は終わりだね。うっとこがせんでも、似たような店が沢山並んでますやろ」
「そうですか……」
「そうや。せやからな、次はこれってのをもう見つけてますさかい、見ててください。店を開けたまま準備を進めてますから、ある日突然店を変えて驚かせるつもりです。新しい赤べこを楽しみにしてくださいな」
「ふふっ、わかりました。楽しみにしています」
それがきっと牛鍋屋。夢主は妙とその父の笑顔に大きく頷いた。
そして、良くしてもらった礼に、自分でも買える品が無いか店内に目を向けた。
鏡や小箱が夢主の目を引く。
「わぁ可愛い……そういえば小箱が欲しいって思ってたんです」
「そうなん」
そっと手にした小箱は、鏡台の中で眠る今では懐かしい桜の陶器を入れるのに程よい大きさだ。
中を開くと赤い布が貼られていた。
「それはビロードって言うてな、綺麗やろう、外国の高貴な方も好む生地らしいんよ」
妙は夢主が恥をかかないよう耳元でそっと、それは少し手が届かない品かもしれないと、やんわり教えてくれた。
「そうですよね、品があってとっても綺麗です……お高そう……ふふっ」
品物が良すぎてと微笑んで箱を戻すと、ふと目を移した場所で良く知る物を見つけた。
「あっ……」
「あぁ、紙煙草やね。意外やわぁ、貴女煙草を吸うんですか」
「いえ……どちらかと言うと苦手なんです……」
苦手で、出来れば煙のそばにはいたくない。
……それでもいつかは一さんも吸うんだろうな……
煙草の箱を見つめて斎藤の事を考えていると、ガラガラと音を立てて扉が開いた。
「失礼」
「へぃ、いらっしゃいまし」
客の訪れに関原親子は人懐っこい笑顔を見せるが、夢主は目を見開いて驚いた。
「どうしてここが……」
「阿呆、家の前から足跡が続いている。それがこの店の前ででっかい跡を残して消えた。転んだんだろう」
突然店に現れ、助けた愛らしい客人にきつい口調で話しかける人相の悪い男に、店の主人は嫌な印象を受けた。
妙も同じく背の高い目付きの悪い男に戸惑っている。