10.斎藤の嗜好品
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日常の食材は行商人から難なく買える。
歩きながら手にした食材を眺めて、とぼとぼと家に戻るが、まだ夫の姿は無かった。
「もういいや、今日はわざと遅く帰っちゃうんだから……」
いつもの慣れた食材の買出しを終えた夢主は、再び家を出て普段買わない物を手に入れようと慣れない道を歩いた。
訪れたのは久しぶりの小国診療所。なんだかんだ言ってもやはり夫の体が心配だ。
夢主は診療所で斎藤の症状を話し、必要な薬を分けてもらった。
恐らくはただの風邪、加えて日頃の無理が出ているだけだろうから、栄養を取らせてゆっくり休ませれば良いとの事。
それが一番難しいのだが……夢主はぼんやりと不機嫌だった夫を思い出し、いつもと違う角を曲がった。
ひとつ向こうの通りに出れば、知らない店ばかりが並んでいる。
「凄い……こんなにお店が並んでたんだ……」
以前沖田と付近を歩いた時も様々な店を見つけたが、この日も夢主は新たな店を数多く見つけた。
「ここは……舶来品の雑貨屋さん……?」
ふらふらと店から店を覗いて歩くうちに、面白そうな店を見つけた。
格子窓の隙間から見える店内の棚には、珍しい品々が並んでいる。覗いた拍子に光を反射した硝子の置物に、夢主はわぁと顔を綻ばせた。
何という店なのか、店を見上げた途端、見覚えのある名前が書かれた看板に驚き、体勢を崩してしまった。
「うぁっ!」
夢主はぬるっと滑る泥に足を取られ、みっともない声と共に大きく尻餅を付いた。
「やだぁ……泥が……」
着物はもちろん、斎藤の為に買ってきた薬の包みも泥にまみれていた。両手も既に泥の中にあったが、そのままには出来ないと汚れた手で包みを拾い上げた。
その時、目の前の扉が開き、にこにこと愛想の良い娘が一人、暖簾を押して顔を現した。
「あらぁ、大変やないの、大丈夫ですかぁ」
「すみません……」
店の前で人がひっくり返っていては迷惑だ。
夢主は商いの邪魔にならぬよう急いで立ち退こうと体を起こした。
「おや、若い娘さんが大変やないか。妙、ちょっと中に案内なさい」
暖簾から更に男が外を覗いた。夢主を助けるよう言われた女は男の娘で、妙と呼ばれた。
看板の名は赤べこ。赤べこの妙。夢主の中で、記憶の人物と目の前の人物が重なった。
よく見れば暖簾にも小さく、赤べこの文字が染抜かれていた。
「妙さん……」
「えぇ、関原妙いぃます。問屋と言いますか雑貨屋の娘です。中へどうぞ、そのままの格好では帰せへんわ。ちょっと待っててください」
一先ず手だけでも綺麗にと水を用意してくれた妙、夢主は手を洗い、言われるままに店の奥の土間にお邪魔した。
土間は小さな部屋に続いており、その向こうに店が見える。裏口と店を繋ぐ部屋だ。
「妙、お前の着物を貸してやりなさい。そこまで汚れていては拭くだけでは無理やろう」
「もちろんや、ちょっと待っててくださいな」
「あっ……」
そこまでしてもらうのは気が引ける。
しかし一方的でも妙を知っている夢主は言葉に甘えることにした。
確かにこんな状態で町中は歩けない。
「お待たせぇな、これ着て……それは良かったらうちで洗っておくから、着物返してくれる時にお渡しするんでどうかしら」
妙の提案に夢主はありがたく頷いた。
交換という形を取ったほうが妙も安心だろう。
「着替えてる間にその包みも新しいのに変えておいてもいい?」
「あっ、お願いします、何から何まで……本当にありがとうございます」
「ええの、ええのよ。うちの前で転んだのも何かの縁よ。ほな、うちはお店にいるから終わったら声、掛けてください」
綺麗な着物と脱いだ着物を入れる桶を渡し、汚れた包みを受け取った妙は店へと入って行った。
歩きながら手にした食材を眺めて、とぼとぼと家に戻るが、まだ夫の姿は無かった。
「もういいや、今日はわざと遅く帰っちゃうんだから……」
いつもの慣れた食材の買出しを終えた夢主は、再び家を出て普段買わない物を手に入れようと慣れない道を歩いた。
訪れたのは久しぶりの小国診療所。なんだかんだ言ってもやはり夫の体が心配だ。
夢主は診療所で斎藤の症状を話し、必要な薬を分けてもらった。
恐らくはただの風邪、加えて日頃の無理が出ているだけだろうから、栄養を取らせてゆっくり休ませれば良いとの事。
それが一番難しいのだが……夢主はぼんやりと不機嫌だった夫を思い出し、いつもと違う角を曲がった。
ひとつ向こうの通りに出れば、知らない店ばかりが並んでいる。
「凄い……こんなにお店が並んでたんだ……」
以前沖田と付近を歩いた時も様々な店を見つけたが、この日も夢主は新たな店を数多く見つけた。
「ここは……舶来品の雑貨屋さん……?」
ふらふらと店から店を覗いて歩くうちに、面白そうな店を見つけた。
格子窓の隙間から見える店内の棚には、珍しい品々が並んでいる。覗いた拍子に光を反射した硝子の置物に、夢主はわぁと顔を綻ばせた。
何という店なのか、店を見上げた途端、見覚えのある名前が書かれた看板に驚き、体勢を崩してしまった。
「うぁっ!」
夢主はぬるっと滑る泥に足を取られ、みっともない声と共に大きく尻餅を付いた。
「やだぁ……泥が……」
着物はもちろん、斎藤の為に買ってきた薬の包みも泥にまみれていた。両手も既に泥の中にあったが、そのままには出来ないと汚れた手で包みを拾い上げた。
その時、目の前の扉が開き、にこにこと愛想の良い娘が一人、暖簾を押して顔を現した。
「あらぁ、大変やないの、大丈夫ですかぁ」
「すみません……」
店の前で人がひっくり返っていては迷惑だ。
夢主は商いの邪魔にならぬよう急いで立ち退こうと体を起こした。
「おや、若い娘さんが大変やないか。妙、ちょっと中に案内なさい」
暖簾から更に男が外を覗いた。夢主を助けるよう言われた女は男の娘で、妙と呼ばれた。
看板の名は赤べこ。赤べこの妙。夢主の中で、記憶の人物と目の前の人物が重なった。
よく見れば暖簾にも小さく、赤べこの文字が染抜かれていた。
「妙さん……」
「えぇ、関原妙いぃます。問屋と言いますか雑貨屋の娘です。中へどうぞ、そのままの格好では帰せへんわ。ちょっと待っててください」
一先ず手だけでも綺麗にと水を用意してくれた妙、夢主は手を洗い、言われるままに店の奥の土間にお邪魔した。
土間は小さな部屋に続いており、その向こうに店が見える。裏口と店を繋ぐ部屋だ。
「妙、お前の着物を貸してやりなさい。そこまで汚れていては拭くだけでは無理やろう」
「もちろんや、ちょっと待っててくださいな」
「あっ……」
そこまでしてもらうのは気が引ける。
しかし一方的でも妙を知っている夢主は言葉に甘えることにした。
確かにこんな状態で町中は歩けない。
「お待たせぇな、これ着て……それは良かったらうちで洗っておくから、着物返してくれる時にお渡しするんでどうかしら」
妙の提案に夢主はありがたく頷いた。
交換という形を取ったほうが妙も安心だろう。
「着替えてる間にその包みも新しいのに変えておいてもいい?」
「あっ、お願いします、何から何まで……本当にありがとうございます」
「ええの、ええのよ。うちの前で転んだのも何かの縁よ。ほな、うちはお店にいるから終わったら声、掛けてください」
綺麗な着物と脱いだ着物を入れる桶を渡し、汚れた包みを受け取った妙は店へと入って行った。