10.斎藤の嗜好品
夢主名前設定
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「夢主」
「はい」
「お前先に帰ってろ」
「えっ……まさかこれから手合わせでもする気ですか、体調優れなくて帰って来たんですよね」
「違うと言っているだろう、いいから先に帰れ」
「でも……」
「しつこい、さっさと帰れ」
むっ……心配でハの字に下がっていた夢主の眉尻が、ピクリと吊り上がった。そこまで冷たくしなくても良いではないか。
夢主は夫の態度をそのまま返してやろうと無表情に、冷ややかな声で短く答えた。
「わかりました」
「あ、裏口は気をつけて下さいね。足を、滑らせないように……って、」
沖田はあからさまな態度の夢主を心配して声を掛けるが、夢主は振り返りもせず勢いよく去って行ってしまった。
「やれやれだな、それで、何故言わん」
「やれやれって……いいんですか、夢主ちゃん怒っていましたよ」
あぁっ?と潰れた声で聞き返す斎藤自身も機嫌が悪いと見える。
斎藤は今の気だるさの原因は、熱よりも夢主の指摘によるものが大きいと感じており、ごちゃごちゃ言うなと黙らせたかったのだ。
「怒っていたか。知らん、それより貴様だ。自分の事くらい自分で話すんだな、さっさとだ」
「うっ、分かりましたけど……どう言い出せばいいんですか、僕こういう話は苦手なんですよ」
放っておくなんて知りませよと夢主を案じつつ、この手の話に慣れているだろう斎藤に助言を求めた。
「フン、慣れない事をした報いだろ、傍から見ている分には面白いな」
「ちょっと斎藤さん」
「冗談だ、傍から見ればだ。あいつが巻き込まれちゃそんな事は言っていられん」
「うぅん、分かりました……そうだ、斎藤さんも協力してくださいよ!」
「なんで俺が」
「大事な奥様でしょう、いいじゃありませんか」
「一つ貸しだな」
「良くそんな事が言えますね」
「フン」
散々貸しを作っているのは自分か、斎藤は思い直すと日本刀の鞘を掴んで程よい位置に調整し、縁側に座った。
「話には乗ってやる。だが面倒はお断りだぞ」
「大丈夫ですよ、斎藤さんにはいつも通りでお願いします」
「ほう」
沖田が策を巡らすとは珍しく興味深いと、斎藤は自然と耳を傾けた。
何度でも思い返してはこじらせるのが得意な妻だ、対処は早いほうが良い。
そんな密談を知らず勢いで場を去った夢主は、沖田の助言虚しく足を泥に取られ、転びそうになっていた。
「危なかった……」
なんとか踏ん張って難を逃れた夢主は、先程沖田が話していた塀の穴を見つけた。
「わぁ、凄い……」
古く傷んでいた板が一部、外れて飛ばされていた。
体の小さな子供なら通り抜けられそうだ。
穴を横目に裏口を出て、我が家の塀を見る。真新しく丈夫なのか、目立つ傷は無い。夢主はほぅっと安心して裏口から庭へ入った。
「それにしても、本当に手合わせとかしてたらどうしよう」
夫の体を案じる夢主、家に上がり、大事なことを思い出した。
「大変、晩ご飯が……」
沖田の屋敷の片付けを終えたら夕餉の食材を買いに行くつもりが、怒った勢いで帰ってきてしまった。
「一さんを待ったほうがいいのかな……でもどうせすぐに帰って来ないもんね、いいや、行ってこよう……」
自分一人を帰らせて、男二人で何をしているのか。
稽古でなければ仕事絡みの物騒な相談か、はたまた女の話。女房の前で出来ない話となれば限られる。
除け者にされたと感じた夢主は、まさかと思うが腹が立ちついでに浮かんだ一番望まない答えに余計苛立った。
「総司さんの恋の相談なら私がいたって構わないじゃない、私がいたらいけないってどんな相談よ……まさか一さんが」
あれこれ考えて頬を膨らませ、夢主は家を出る仕度を整えた。
「はい」
「お前先に帰ってろ」
「えっ……まさかこれから手合わせでもする気ですか、体調優れなくて帰って来たんですよね」
「違うと言っているだろう、いいから先に帰れ」
「でも……」
「しつこい、さっさと帰れ」
むっ……心配でハの字に下がっていた夢主の眉尻が、ピクリと吊り上がった。そこまで冷たくしなくても良いではないか。
夢主は夫の態度をそのまま返してやろうと無表情に、冷ややかな声で短く答えた。
「わかりました」
「あ、裏口は気をつけて下さいね。足を、滑らせないように……って、」
沖田はあからさまな態度の夢主を心配して声を掛けるが、夢主は振り返りもせず勢いよく去って行ってしまった。
「やれやれだな、それで、何故言わん」
「やれやれって……いいんですか、夢主ちゃん怒っていましたよ」
あぁっ?と潰れた声で聞き返す斎藤自身も機嫌が悪いと見える。
斎藤は今の気だるさの原因は、熱よりも夢主の指摘によるものが大きいと感じており、ごちゃごちゃ言うなと黙らせたかったのだ。
「怒っていたか。知らん、それより貴様だ。自分の事くらい自分で話すんだな、さっさとだ」
「うっ、分かりましたけど……どう言い出せばいいんですか、僕こういう話は苦手なんですよ」
放っておくなんて知りませよと夢主を案じつつ、この手の話に慣れているだろう斎藤に助言を求めた。
「フン、慣れない事をした報いだろ、傍から見ている分には面白いな」
「ちょっと斎藤さん」
「冗談だ、傍から見ればだ。あいつが巻き込まれちゃそんな事は言っていられん」
「うぅん、分かりました……そうだ、斎藤さんも協力してくださいよ!」
「なんで俺が」
「大事な奥様でしょう、いいじゃありませんか」
「一つ貸しだな」
「良くそんな事が言えますね」
「フン」
散々貸しを作っているのは自分か、斎藤は思い直すと日本刀の鞘を掴んで程よい位置に調整し、縁側に座った。
「話には乗ってやる。だが面倒はお断りだぞ」
「大丈夫ですよ、斎藤さんにはいつも通りでお願いします」
「ほう」
沖田が策を巡らすとは珍しく興味深いと、斎藤は自然と耳を傾けた。
何度でも思い返してはこじらせるのが得意な妻だ、対処は早いほうが良い。
そんな密談を知らず勢いで場を去った夢主は、沖田の助言虚しく足を泥に取られ、転びそうになっていた。
「危なかった……」
なんとか踏ん張って難を逃れた夢主は、先程沖田が話していた塀の穴を見つけた。
「わぁ、凄い……」
古く傷んでいた板が一部、外れて飛ばされていた。
体の小さな子供なら通り抜けられそうだ。
穴を横目に裏口を出て、我が家の塀を見る。真新しく丈夫なのか、目立つ傷は無い。夢主はほぅっと安心して裏口から庭へ入った。
「それにしても、本当に手合わせとかしてたらどうしよう」
夫の体を案じる夢主、家に上がり、大事なことを思い出した。
「大変、晩ご飯が……」
沖田の屋敷の片付けを終えたら夕餉の食材を買いに行くつもりが、怒った勢いで帰ってきてしまった。
「一さんを待ったほうがいいのかな……でもどうせすぐに帰って来ないもんね、いいや、行ってこよう……」
自分一人を帰らせて、男二人で何をしているのか。
稽古でなければ仕事絡みの物騒な相談か、はたまた女の話。女房の前で出来ない話となれば限られる。
除け者にされたと感じた夢主は、まさかと思うが腹が立ちついでに浮かんだ一番望まない答えに余計苛立った。
「総司さんの恋の相談なら私がいたって構わないじゃない、私がいたらいけないってどんな相談よ……まさか一さんが」
あれこれ考えて頬を膨らませ、夢主は家を出る仕度を整えた。