10.斎藤の嗜好品
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片付けを終えた夢主と沖田は縁側に腰掛け、のどかに茶を啜っていた。
沖田は掃除の最中に外していた刀をそばに置いている。
今も昔も、斎藤も沖田も刀は常に手の届く所に置く。
時代が変わっても人々はそう簡単には変わらない。常に刀と共に生きてきた男達にとって、それは体の一部なのだ。
治安も決して良くはない。
未だに御用盗を名乗る強盗がいるくらいだ。山に行けば山賊、町の外れにはごろつき共、スリに追いはぎ、挙げればきりがない。
斎藤の革ベルトは便利そうだが、今も常に袴をつけている沖田は刀をいちいち腰から外さなければ座れない。
なんとも不便そうだと夢主は密かに思っていた。
「どうかしましたか」
ちらりと刀に目を向けた夢主に気付いた沖田は鞘に手を伸ばした。
「何か気になりますか、いつもと変わりませんけど」
異常が無いことを確かめて、沖田は刀を二人の間に置いた。
刀が床に接すると、重さが伝わる音が鳴る。
「触ってみたいですか」
「いえっ、そんな、怖くて刀は……」
「そうですか」
慌てて両手を振る夢主を笑って、沖田は再び湯飲みを手にした。
「刀ってやっぱりずっと同じ刀を使うんですね」
「そうですね……鈍れば研ぎに出して、細くなり過ぎれば実戦では使えなくなりますし、ヒビや欠けが出来れば使えません。まぁ拵えの一部をそのままに新しい刃をつけてもいいんですけど、普通は刀に合わせて作り直しますね」
「じゃあ総司さんの刀はずっと折れも欠けもせず使っているって事ですか」
「一度折れた刀がありますが……幾つか刀は持っていますけど、僕のお気に入りはこれですね。扱いにくいけれどとっても良く斬れるんですよ」
「良く……そうですか……」
夢主は笑顔で「斬れる」と言われ苦笑いを浮かべた。
苦い思いで沖田の刀を眺め、ふとある事を思い出した。
「そういえば以前、良い刀を褒美に頂いたって言ってましたよね」
「あぁ、菊一文字則宗ですね。会津候に頂いてとても大切にしていますよ。とても実戦で使う気にはなれませんね。刀を使わないなんて剣客としてはいけないのかな、あはははっ」
「そんな事は……」
今は沖田が眠る部屋の床の間に静かに飾られている刀だ。
記憶が確かならば、その菊一文字則宗は志々雄真実の腹心、瀬田宗次郎が手にしていたはず。
何処でどのように宗次郎の手に渡るのだろうか。沖田が生き延びた故に、宗次郎の手元へは渡らないのだろうか。
夢主は首を捻った。
「夢主ちゃん、大丈夫ですか」
「あっ……はい、すみません、なんでもないんです」
「ならいいんですけど……」
沖田は昨夜斎藤に釘を刺された遊里通いの件を気に掛け俯いているのだろうかと頭を掻いた。
説明しろと言われても何を話せば良いのだ、沖田はこんな時に上手く話をやり過ごしていた兄貴分の土方を思い浮かべ、あの話術が自分にもあればなぁと空を見上げた。
……助けてくださいよ、何て言い訳すればいいんですか、いい訳じゃありませんね、説明ですよ……
……仮にも一度はお嫁さんにって願った相手にですよ、僕は今花街で気紛れに遊んでいますなんて言えませんよ……
……抱いた女郎も幾人か……楼主の話では僕は土方さんに追いつけそうな人気ぶりなんですよ……
「ははっ」
「総司さん?」
「いえ……人気者……」
……花街で人気だなんて僕は馬鹿だな……
「はははっ」
突然空に向って笑う沖田に驚く夢主だが、その沖田の向こうに突然夫が現れて更に驚いた。
「一さんっ」
「斎藤さん!もうお帰りですか」
まだ日が傾く前だ。日中屋敷に現れたのは久しぶりだと沖田も驚いている。
何より土方に話し掛けていた沖田は、背の高い影が現れ心臓がドクリと跳ね上がった。
「一さん、お仕事終わりですか、やっぱり体が……」
「関係ない」
夢主に指摘されるほど体が重たくなる気がして、斎藤は冷たく言い捨てた。
「一さ……」
「それより沖田君」
あの件は話したのかと目で訊ねるが、沖田は取り繕ったような笑顔で小さく首を振った。
斎藤に冷たくあしらわれ沖田の戸惑いに気付かない夢主の前で、斎藤は「貴様……」と攻撃的な視線を沖田に送った。
沖田は掃除の最中に外していた刀をそばに置いている。
今も昔も、斎藤も沖田も刀は常に手の届く所に置く。
時代が変わっても人々はそう簡単には変わらない。常に刀と共に生きてきた男達にとって、それは体の一部なのだ。
治安も決して良くはない。
未だに御用盗を名乗る強盗がいるくらいだ。山に行けば山賊、町の外れにはごろつき共、スリに追いはぎ、挙げればきりがない。
斎藤の革ベルトは便利そうだが、今も常に袴をつけている沖田は刀をいちいち腰から外さなければ座れない。
なんとも不便そうだと夢主は密かに思っていた。
「どうかしましたか」
ちらりと刀に目を向けた夢主に気付いた沖田は鞘に手を伸ばした。
「何か気になりますか、いつもと変わりませんけど」
異常が無いことを確かめて、沖田は刀を二人の間に置いた。
刀が床に接すると、重さが伝わる音が鳴る。
「触ってみたいですか」
「いえっ、そんな、怖くて刀は……」
「そうですか」
慌てて両手を振る夢主を笑って、沖田は再び湯飲みを手にした。
「刀ってやっぱりずっと同じ刀を使うんですね」
「そうですね……鈍れば研ぎに出して、細くなり過ぎれば実戦では使えなくなりますし、ヒビや欠けが出来れば使えません。まぁ拵えの一部をそのままに新しい刃をつけてもいいんですけど、普通は刀に合わせて作り直しますね」
「じゃあ総司さんの刀はずっと折れも欠けもせず使っているって事ですか」
「一度折れた刀がありますが……幾つか刀は持っていますけど、僕のお気に入りはこれですね。扱いにくいけれどとっても良く斬れるんですよ」
「良く……そうですか……」
夢主は笑顔で「斬れる」と言われ苦笑いを浮かべた。
苦い思いで沖田の刀を眺め、ふとある事を思い出した。
「そういえば以前、良い刀を褒美に頂いたって言ってましたよね」
「あぁ、菊一文字則宗ですね。会津候に頂いてとても大切にしていますよ。とても実戦で使う気にはなれませんね。刀を使わないなんて剣客としてはいけないのかな、あはははっ」
「そんな事は……」
今は沖田が眠る部屋の床の間に静かに飾られている刀だ。
記憶が確かならば、その菊一文字則宗は志々雄真実の腹心、瀬田宗次郎が手にしていたはず。
何処でどのように宗次郎の手に渡るのだろうか。沖田が生き延びた故に、宗次郎の手元へは渡らないのだろうか。
夢主は首を捻った。
「夢主ちゃん、大丈夫ですか」
「あっ……はい、すみません、なんでもないんです」
「ならいいんですけど……」
沖田は昨夜斎藤に釘を刺された遊里通いの件を気に掛け俯いているのだろうかと頭を掻いた。
説明しろと言われても何を話せば良いのだ、沖田はこんな時に上手く話をやり過ごしていた兄貴分の土方を思い浮かべ、あの話術が自分にもあればなぁと空を見上げた。
……助けてくださいよ、何て言い訳すればいいんですか、いい訳じゃありませんね、説明ですよ……
……仮にも一度はお嫁さんにって願った相手にですよ、僕は今花街で気紛れに遊んでいますなんて言えませんよ……
……抱いた女郎も幾人か……楼主の話では僕は土方さんに追いつけそうな人気ぶりなんですよ……
「ははっ」
「総司さん?」
「いえ……人気者……」
……花街で人気だなんて僕は馬鹿だな……
「はははっ」
突然空に向って笑う沖田に驚く夢主だが、その沖田の向こうに突然夫が現れて更に驚いた。
「一さんっ」
「斎藤さん!もうお帰りですか」
まだ日が傾く前だ。日中屋敷に現れたのは久しぶりだと沖田も驚いている。
何より土方に話し掛けていた沖田は、背の高い影が現れ心臓がドクリと跳ね上がった。
「一さん、お仕事終わりですか、やっぱり体が……」
「関係ない」
夢主に指摘されるほど体が重たくなる気がして、斎藤は冷たく言い捨てた。
「一さ……」
「それより沖田君」
あの件は話したのかと目で訊ねるが、沖田は取り繕ったような笑顔で小さく首を振った。
斎藤に冷たくあしらわれ沖田の戸惑いに気付かない夢主の前で、斎藤は「貴様……」と攻撃的な視線を沖田に送った。