10.斎藤の嗜好品
夢主名前設定
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「それにしても夕べは凄かったですね。夢主ちゃんの家は大丈夫でしたか」
「はい、お家が飛んでいっちゃうかと思いましたけど」
「あはははっ、それは困りますね!」
「笑い事じゃないんですよ、普段はいいんですけど……障子の硝子がガタガタ鳴って怖かったですし、大きな物音が聞こえたり」
「あぁ、それうちの裏の板かもしれませんね。まだ外れているんですよ」
「えっ、塀の板ですか」
「気付きませんでしたか?」
「はい、一さんのことを考えていたせいかな……」
「斎藤さん?相変わらずお熱いですねぇ~」
「違うんですよ、今朝ちょっと……」
熱があったと伝えては、意地っ張りの夫が拗ねるかもしれない。
今朝のやりとりで機嫌を損ね睨みつけてきた顔を思い出し、夢主はむっと口を尖らせた。
「喧嘩でもしたんですか」
「いえ、そんなものでは……そういえば総司さんも一度遊びにいらしてくださいね、お家にまだいらした事ありませんよね」
「あぁそうですね、夢主ちゃんも斎藤さんも顔を見せてくれるので、つい忘れてしまいます」
「私、とっても気に入ってるんです。住みやすいお家なんですよ」
「そう、良かったじゃない」
思い出してしまった朝の小さな喧嘩、気にしても仕方が無い。
忘れてしまおうと夢主は他愛の無いおしゃべりをしながら、手を動かした。
斎藤はいつも通り署に着くと、すっかり定位置になった資料室に陣取っていた。
過去の不審な案件を探りながら、今後必要と思われる資料を頭に叩き込んでいく。
たいして重要でない文章は存在が確認できれば良い。必要になった時にまた目を通せば良いのだ。
「藤田さん」
部屋の外から声が聞こえ、ノックが続いて戸が開いた。
既に顔見知りの巡査仲間だ。更に加えるならば密偵仲間。川路の命で書類を運んだり、陰ながら斎藤の手伝っているらしい。
「随分と進んだのではありませんか」
「まぁな」
初めて資料室に足を踏み入れてから半年近く、確かに終わりが見えていた。
「だがこうして新しい資料が続々とやってくるからな」
「あはははっ、なんだか申し訳ないですね」
この男が来るという事は、新たな資料の追加という事だ。
大きな長椅子に座る斎藤は、やれやれと手にしていた書類を放り投げた。紐で纏められている書類は束のまま、座面に音を立てて落ちた。
「ははっ、お疲れですか。資料、ここに置きますね」
男は斎藤を見て腕に抱えた書類を机に置き、新たな山を作った。
「藤田さん、体調が優れないのですか」
「……何故」
なかなか鋭いな……さすがは密偵の端くれか……
斎藤が値踏みするように横目で捉えると、男は長椅子に近寄り、気まずく笑って落ちた書類を拾い上げた。
書類は斎藤に戻さず、そばの机の上に置いた。
「いえ、勘というやつですが……今日はもう宜しいのでは。たまには早く帰るのも良いでしょう。市中警備という名目ですよ」
「フン、市中警備など他の連中がしているだろう。熱があろうがそれくらいで帰るかよ阿呆」
「阿呆とはお厳しい。しかし一日手をつけなくてもたいして変わらないのではありませんか。藤田さんがお帰りになれば明日の資料の追加は来ないかもしれませんよ」
「ちっ……」
貴様が調整してやがるのか……
舌打ちをして睨みつけると、男の笑顔は澄ましたものに変わった。
「まぁいいじゃありませんか。私に風邪を移されても困ります」
「好かん男だ。顔を見ていると腹が立つな」
「おやっ、お帰りですね」
斎藤は男を無視して立ち上がり、扉の取っ手に手を掛けたが、僅かに振り返って腹の立つ笑顔にお返しだとばかりの歪んだ笑いを見せつけた。
「お前の顔が見えない所に行くだけだ」
男の乾いた笑い声を聞きながら、斎藤は警察署の資料室をあとにした。
「はい、お家が飛んでいっちゃうかと思いましたけど」
「あはははっ、それは困りますね!」
「笑い事じゃないんですよ、普段はいいんですけど……障子の硝子がガタガタ鳴って怖かったですし、大きな物音が聞こえたり」
「あぁ、それうちの裏の板かもしれませんね。まだ外れているんですよ」
「えっ、塀の板ですか」
「気付きませんでしたか?」
「はい、一さんのことを考えていたせいかな……」
「斎藤さん?相変わらずお熱いですねぇ~」
「違うんですよ、今朝ちょっと……」
熱があったと伝えては、意地っ張りの夫が拗ねるかもしれない。
今朝のやりとりで機嫌を損ね睨みつけてきた顔を思い出し、夢主はむっと口を尖らせた。
「喧嘩でもしたんですか」
「いえ、そんなものでは……そういえば総司さんも一度遊びにいらしてくださいね、お家にまだいらした事ありませんよね」
「あぁそうですね、夢主ちゃんも斎藤さんも顔を見せてくれるので、つい忘れてしまいます」
「私、とっても気に入ってるんです。住みやすいお家なんですよ」
「そう、良かったじゃない」
思い出してしまった朝の小さな喧嘩、気にしても仕方が無い。
忘れてしまおうと夢主は他愛の無いおしゃべりをしながら、手を動かした。
斎藤はいつも通り署に着くと、すっかり定位置になった資料室に陣取っていた。
過去の不審な案件を探りながら、今後必要と思われる資料を頭に叩き込んでいく。
たいして重要でない文章は存在が確認できれば良い。必要になった時にまた目を通せば良いのだ。
「藤田さん」
部屋の外から声が聞こえ、ノックが続いて戸が開いた。
既に顔見知りの巡査仲間だ。更に加えるならば密偵仲間。川路の命で書類を運んだり、陰ながら斎藤の手伝っているらしい。
「随分と進んだのではありませんか」
「まぁな」
初めて資料室に足を踏み入れてから半年近く、確かに終わりが見えていた。
「だがこうして新しい資料が続々とやってくるからな」
「あはははっ、なんだか申し訳ないですね」
この男が来るという事は、新たな資料の追加という事だ。
大きな長椅子に座る斎藤は、やれやれと手にしていた書類を放り投げた。紐で纏められている書類は束のまま、座面に音を立てて落ちた。
「ははっ、お疲れですか。資料、ここに置きますね」
男は斎藤を見て腕に抱えた書類を机に置き、新たな山を作った。
「藤田さん、体調が優れないのですか」
「……何故」
なかなか鋭いな……さすがは密偵の端くれか……
斎藤が値踏みするように横目で捉えると、男は長椅子に近寄り、気まずく笑って落ちた書類を拾い上げた。
書類は斎藤に戻さず、そばの机の上に置いた。
「いえ、勘というやつですが……今日はもう宜しいのでは。たまには早く帰るのも良いでしょう。市中警備という名目ですよ」
「フン、市中警備など他の連中がしているだろう。熱があろうがそれくらいで帰るかよ阿呆」
「阿呆とはお厳しい。しかし一日手をつけなくてもたいして変わらないのではありませんか。藤田さんがお帰りになれば明日の資料の追加は来ないかもしれませんよ」
「ちっ……」
貴様が調整してやがるのか……
舌打ちをして睨みつけると、男の笑顔は澄ましたものに変わった。
「まぁいいじゃありませんか。私に風邪を移されても困ります」
「好かん男だ。顔を見ていると腹が立つな」
「おやっ、お帰りですね」
斎藤は男を無視して立ち上がり、扉の取っ手に手を掛けたが、僅かに振り返って腹の立つ笑顔にお返しだとばかりの歪んだ笑いを見せつけた。
「お前の顔が見えない所に行くだけだ」
男の乾いた笑い声を聞きながら、斎藤は警察署の資料室をあとにした。