7.蛍火
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「そういえば総司さん、今夜お時間はありますか」
「夜ですか?さて……どうかしましたか」
夢主の瞳はきらきらと輝き、それはとても自分に向けられているものには見えない輝きだ。
斎藤が遅くなるが夜に何か果たしたい用事でもあのだろうか、しかもそれは目を輝かせるほどのもの。
沖田は首を傾けた。
「今夜、一さんと蛍を見に行くんですよ」
「あぁ蛍ですか!いいですね~あの人も風流だからなぁ」
「良かったら総司さんもご一緒にいかがですか。私、京にいる頃に見たことがなくて……ちょうど季節だなって思ったんです」
「蛍か……祇園の白川で見かけたことがありますね。……懐かしいな」
近藤の警護で祇園に付き添った帰り、祇園を流れる小川のほとりで蛍を見た記憶がある。
ご機嫌な近藤の傍で飛び交う蛍、とても幸せな光に見えた。
今、目の前で大切な者と蛍を楽しもうとしている夢主の瞳もとても幸せそうだ。
そこに加えてもらえるのは嬉しいが……にこりと沖田は微笑んだ。
「それじゃ」
「いえ、僕は遠慮しておきますよ、ありがとう。僕は蛍よりも違う光に誘われてみる事にします」
「別の光?」
「ふふん、そうです。斎藤さんと楽しんで来てくださいね」
「そうですか……」
意味有り気に見せる含み笑いを夢主は訝しんで見つめた。
沖田は二人の間に入るような野暮はしたくないと日頃から気を使っているのだが、蛍の明かりと聞いてふと今宵の過ごし方を決めた。
「そういえば総司さん……夕べはお出かけされたんですか、川辺でお見かけしたんですけど声が掛けられなくて」
「あははっ、見られちゃいましたか」
「はい、楽しそうにされていましたね。どちらに行かれたんですか」
「フフン、もう暫く内緒にしておこうかな」
夕べ川で見かけたのはやはり沖田だった。軽やかに機嫌良く歩く姿を見られたくないのかと思えば、そうでも無いようだ。
だがにこにこした沖田は口の前に人差し指を立てて、行き先は「内緒」と笑った。
笑顔で質問を拒む沖田に、それ以上訊けなくなってしまった。
夜、仕事を終え、くつろぎ姿に着替えた斎藤と夢主は夜の川沿いを歩いた。
上着を羽織らなくても暖かい夜だ。静かな川辺、ちろちろと穏やかなせせらぎの音が聞こえる。
夢主は沖田を誘ったが断られた経緯を話していた。
「本当に別の光と言ったのか」
「はぃ、別の光に誘われようかなと……」
「そいつは面白い」
斎藤はニヤリと愉快そうに口角を上げた。
細い月の下、夢主は僅かに斎藤の表情の変化を感じた。
瞳がキラリと小さくも光を湛える様子から、夫の機嫌が良いことが窺える。
「別の光って何ですか、蛍以外の光る生き物がいるんでしょうか」
「別の生き物……フッ、あながち間違いでも無いな」
「一さん?」
「まぁ彼も男だ」
斎藤は意味有り気に横目で話す。
夢主は見下ろされる視線にドキドキしながら見つめ返した。
「そっ……総司さんのこと、何かご存知なのですか」
フフン、鼻で笑う斎藤は目を細めるばかりでしっかり口は閉じている。
……一さんも教えてくれないんだ……
夢主が不機嫌にそっぽむこうとした瞬間、ふわりと漂う光に目を開いた。
「あっ……」
「蛍だな、お前が言った通り蛍の季節らしい」
思わず斎藤の腕に手を添えた。
黙って辺りを眺めていると、薄明かりの川の両岸、あちらこちらでほわん優しい光が膨らんでは消えている。
「凄い……たくさんいます、一さん!」
「……」
初めて目にする幻想的な情景に感極まり声を上げた夢主に、斎藤は己の口もとに指を立てた。落ち着けと諭す。
「騒ぐと蛍が逃げるぞ」
「ぁっ……すみません」
息が届くほどの距離で受けた言葉を、頬を染めながら夢主は素直に受け入れた。
やがて蛍達はしずかに川辺を舞い始めた。
岸から岸へ、葉から葉へ、自らの存在を誇るように力強く、そして儚げに優しく瞬いている。
夢主はたまらず岸の際まで近付いた。
蛍は二人を警戒もせず、すぐ傍らまでやってくる。足元の葉にやってくる蛍や、目の前を通り過ぎる蛍。
夢主はすっかり心を奪われてその光の跡を目で追いかけた。
「夜ですか?さて……どうかしましたか」
夢主の瞳はきらきらと輝き、それはとても自分に向けられているものには見えない輝きだ。
斎藤が遅くなるが夜に何か果たしたい用事でもあのだろうか、しかもそれは目を輝かせるほどのもの。
沖田は首を傾けた。
「今夜、一さんと蛍を見に行くんですよ」
「あぁ蛍ですか!いいですね~あの人も風流だからなぁ」
「良かったら総司さんもご一緒にいかがですか。私、京にいる頃に見たことがなくて……ちょうど季節だなって思ったんです」
「蛍か……祇園の白川で見かけたことがありますね。……懐かしいな」
近藤の警護で祇園に付き添った帰り、祇園を流れる小川のほとりで蛍を見た記憶がある。
ご機嫌な近藤の傍で飛び交う蛍、とても幸せな光に見えた。
今、目の前で大切な者と蛍を楽しもうとしている夢主の瞳もとても幸せそうだ。
そこに加えてもらえるのは嬉しいが……にこりと沖田は微笑んだ。
「それじゃ」
「いえ、僕は遠慮しておきますよ、ありがとう。僕は蛍よりも違う光に誘われてみる事にします」
「別の光?」
「ふふん、そうです。斎藤さんと楽しんで来てくださいね」
「そうですか……」
意味有り気に見せる含み笑いを夢主は訝しんで見つめた。
沖田は二人の間に入るような野暮はしたくないと日頃から気を使っているのだが、蛍の明かりと聞いてふと今宵の過ごし方を決めた。
「そういえば総司さん……夕べはお出かけされたんですか、川辺でお見かけしたんですけど声が掛けられなくて」
「あははっ、見られちゃいましたか」
「はい、楽しそうにされていましたね。どちらに行かれたんですか」
「フフン、もう暫く内緒にしておこうかな」
夕べ川で見かけたのはやはり沖田だった。軽やかに機嫌良く歩く姿を見られたくないのかと思えば、そうでも無いようだ。
だがにこにこした沖田は口の前に人差し指を立てて、行き先は「内緒」と笑った。
笑顔で質問を拒む沖田に、それ以上訊けなくなってしまった。
夜、仕事を終え、くつろぎ姿に着替えた斎藤と夢主は夜の川沿いを歩いた。
上着を羽織らなくても暖かい夜だ。静かな川辺、ちろちろと穏やかなせせらぎの音が聞こえる。
夢主は沖田を誘ったが断られた経緯を話していた。
「本当に別の光と言ったのか」
「はぃ、別の光に誘われようかなと……」
「そいつは面白い」
斎藤はニヤリと愉快そうに口角を上げた。
細い月の下、夢主は僅かに斎藤の表情の変化を感じた。
瞳がキラリと小さくも光を湛える様子から、夫の機嫌が良いことが窺える。
「別の光って何ですか、蛍以外の光る生き物がいるんでしょうか」
「別の生き物……フッ、あながち間違いでも無いな」
「一さん?」
「まぁ彼も男だ」
斎藤は意味有り気に横目で話す。
夢主は見下ろされる視線にドキドキしながら見つめ返した。
「そっ……総司さんのこと、何かご存知なのですか」
フフン、鼻で笑う斎藤は目を細めるばかりでしっかり口は閉じている。
……一さんも教えてくれないんだ……
夢主が不機嫌にそっぽむこうとした瞬間、ふわりと漂う光に目を開いた。
「あっ……」
「蛍だな、お前が言った通り蛍の季節らしい」
思わず斎藤の腕に手を添えた。
黙って辺りを眺めていると、薄明かりの川の両岸、あちらこちらでほわん優しい光が膨らんでは消えている。
「凄い……たくさんいます、一さん!」
「……」
初めて目にする幻想的な情景に感極まり声を上げた夢主に、斎藤は己の口もとに指を立てた。落ち着けと諭す。
「騒ぐと蛍が逃げるぞ」
「ぁっ……すみません」
息が届くほどの距離で受けた言葉を、頬を染めながら夢主は素直に受け入れた。
やがて蛍達はしずかに川辺を舞い始めた。
岸から岸へ、葉から葉へ、自らの存在を誇るように力強く、そして儚げに優しく瞬いている。
夢主はたまらず岸の際まで近付いた。
蛍は二人を警戒もせず、すぐ傍らまでやってくる。足元の葉にやってくる蛍や、目の前を通り過ぎる蛍。
夢主はすっかり心を奪われてその光の跡を目で追いかけた。