7.蛍火
夢主名前設定
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稽古が行われている道場から離れた台所では、夢主が五人分の食事を調理していた。
沖田に妻がいればこの役は妻が負ったのだろう。
夢主は元より沖田の昼の食事の面倒を見ていた。二人分も五人分も変わらない。
仮にも井上総司の妹としてこの町にやって来たのだから、出来る限り弟子達の面倒見役を務めようと決めていた。
稽古が終わったのを確かめて、夢主は道場に皆の食事を運んだ。
「みなさま、お疲れ様です」
膳を置き膝をつき挨拶をする初めて見る女人。
子供達は優しく微笑む大人の女の美しい姿にほんのり頬を染めて並び、座るとに名乗っては挨拶を繰り返した。
「先生の御内儀様でしょうか……」
師匠の顔色を伺いながら問う弟子に、夢主と沖田は慌てて首を振った。
否定するが苦笑いは隠せない。そう見えても仕方が無いだろう。
「実は僕の妹なんです」
「先生の妹君……」
「はっはい、夢主と申します。今は嫁ぎましたが近くに住んでおりますので、食事は私がお作りいたします」
弟子達は二人の顔を見比べ、ご兄妹……と確かめるように呟いた。
「総司さん、このままお食事に」
「夢主様!」
「はっ、はい……」
沖田に話しかける夢主を弟子の一人が突然強い口調で止めた。
「夢主様、兄様に向かって総司さんとは失礼ではありませんか!」
「左様にございます!なりませぬ!」
「えっ……」
幼い子供達からの叱咤に夢主は目を丸くした。
年上で家長の兄になんて口を利くのかと怒られたのだ。厳しく育てられた会津の子供達には許せなかったのだ。
「あぁっと……お話しておくべきでしたね。色々と事情がありまして、妹として共に暮らしてきたのですが、血は繋がっていないのですよ。それでまぁ色々と……色々とありまして。親しく呼んでもらうよう頼んだのは私です」
「色々と……とは、先生っ」
「そうですね、大人の事情なんです。私は容保公にお世話になりました。この夢主さんも同じです。申し訳ありませんがお話できるのはここまでです。以後、詮索は無用に願います」
「はっ……失礼致しましたっ!なんと不躾を……どのようにお詫びすれば宜しいのでしょうか、先生!」
「あぁぁっ、あのね……頭を上げてください」
訊いてはならない事を訊いてしまったと気付き、非礼を詫びようと床に頭を擦り付ける幼い弟子に、沖田は調子を狂わせた。
これ以上の詮索は無くなったが、こんなに真面目ではやりにくいなぁと夢主を見て笑った。しかし子供達の真っ直ぐな心と瞳には強く惹かれた。
「皆さんとても礼儀正しくて素晴らしいですね、ありがとう。私には勿体無いほどのお弟子さん達です。容保様に何と御礼を伝えれば良いか分かりません」
「先生……」
不安と期待を背負いやって来た三人の子供達は、今まで感じたことの無い緊張感の中で受けた稽古に、厳しさとその裏にある確かな優しさを感じていた。
稽古中のさり気ない所作から伝わる、師の計り知れない実力に、体中を駆け巡る昂ぶりを感じた。
この人こそ我等に本当の剣を教えてくれる師であると受け入れたのだ。
「総司さん、お疲れ様でした。どうですか、初めてのお子さん達へのお稽古」
「ははっ、正直驚きましたよ。あんなにしっかりした子供達がやってくるなんて。剣術の基礎は出来ているし、何より礼儀正しさに驚きましたね。僕はすっかり土方さんの子供の頃のような、悪童が三人やって来るものだとばかり思っていましたから」
きっと手に負えない厄介な童を容保は押し付けるのだろうと覚悟していたのだ。
所が熱い志を持った会津の侍をそのまま子供にしたような三人がやって来た。
「嬉しいですか」
「そうですね……嬉しいですよ。みんな真っ直ぐでいい子達です」
「……ふふっ」
「何でしょう」
「いえ、すっかり先生のお顔だなって。総司さんが急に大人になりました」
「あははっ、僕はとっくにいい大人ですよ。昔から斎藤さんなんかよりよっぽど大人ですから」
「ふふふっ、それは否定出来ないかも知れません、今はともかく昔は……一さんも色々……」
「でしょう?」
何やら思い出して二人はくすくす笑った。
今はすっかり落ち着いた斎藤だが確かに京にいた頃は色々とあったものだ。
振り回し、振り回された日々が懐かしい。
沖田に妻がいればこの役は妻が負ったのだろう。
夢主は元より沖田の昼の食事の面倒を見ていた。二人分も五人分も変わらない。
仮にも井上総司の妹としてこの町にやって来たのだから、出来る限り弟子達の面倒見役を務めようと決めていた。
稽古が終わったのを確かめて、夢主は道場に皆の食事を運んだ。
「みなさま、お疲れ様です」
膳を置き膝をつき挨拶をする初めて見る女人。
子供達は優しく微笑む大人の女の美しい姿にほんのり頬を染めて並び、座るとに名乗っては挨拶を繰り返した。
「先生の御内儀様でしょうか……」
師匠の顔色を伺いながら問う弟子に、夢主と沖田は慌てて首を振った。
否定するが苦笑いは隠せない。そう見えても仕方が無いだろう。
「実は僕の妹なんです」
「先生の妹君……」
「はっはい、夢主と申します。今は嫁ぎましたが近くに住んでおりますので、食事は私がお作りいたします」
弟子達は二人の顔を見比べ、ご兄妹……と確かめるように呟いた。
「総司さん、このままお食事に」
「夢主様!」
「はっ、はい……」
沖田に話しかける夢主を弟子の一人が突然強い口調で止めた。
「夢主様、兄様に向かって総司さんとは失礼ではありませんか!」
「左様にございます!なりませぬ!」
「えっ……」
幼い子供達からの叱咤に夢主は目を丸くした。
年上で家長の兄になんて口を利くのかと怒られたのだ。厳しく育てられた会津の子供達には許せなかったのだ。
「あぁっと……お話しておくべきでしたね。色々と事情がありまして、妹として共に暮らしてきたのですが、血は繋がっていないのですよ。それでまぁ色々と……色々とありまして。親しく呼んでもらうよう頼んだのは私です」
「色々と……とは、先生っ」
「そうですね、大人の事情なんです。私は容保公にお世話になりました。この夢主さんも同じです。申し訳ありませんがお話できるのはここまでです。以後、詮索は無用に願います」
「はっ……失礼致しましたっ!なんと不躾を……どのようにお詫びすれば宜しいのでしょうか、先生!」
「あぁぁっ、あのね……頭を上げてください」
訊いてはならない事を訊いてしまったと気付き、非礼を詫びようと床に頭を擦り付ける幼い弟子に、沖田は調子を狂わせた。
これ以上の詮索は無くなったが、こんなに真面目ではやりにくいなぁと夢主を見て笑った。しかし子供達の真っ直ぐな心と瞳には強く惹かれた。
「皆さんとても礼儀正しくて素晴らしいですね、ありがとう。私には勿体無いほどのお弟子さん達です。容保様に何と御礼を伝えれば良いか分かりません」
「先生……」
不安と期待を背負いやって来た三人の子供達は、今まで感じたことの無い緊張感の中で受けた稽古に、厳しさとその裏にある確かな優しさを感じていた。
稽古中のさり気ない所作から伝わる、師の計り知れない実力に、体中を駆け巡る昂ぶりを感じた。
この人こそ我等に本当の剣を教えてくれる師であると受け入れたのだ。
「総司さん、お疲れ様でした。どうですか、初めてのお子さん達へのお稽古」
「ははっ、正直驚きましたよ。あんなにしっかりした子供達がやってくるなんて。剣術の基礎は出来ているし、何より礼儀正しさに驚きましたね。僕はすっかり土方さんの子供の頃のような、悪童が三人やって来るものだとばかり思っていましたから」
きっと手に負えない厄介な童を容保は押し付けるのだろうと覚悟していたのだ。
所が熱い志を持った会津の侍をそのまま子供にしたような三人がやって来た。
「嬉しいですか」
「そうですね……嬉しいですよ。みんな真っ直ぐでいい子達です」
「……ふふっ」
「何でしょう」
「いえ、すっかり先生のお顔だなって。総司さんが急に大人になりました」
「あははっ、僕はとっくにいい大人ですよ。昔から斎藤さんなんかよりよっぽど大人ですから」
「ふふふっ、それは否定出来ないかも知れません、今はともかく昔は……一さんも色々……」
「でしょう?」
何やら思い出して二人はくすくす笑った。
今はすっかり落ち着いた斎藤だが確かに京にいた頃は色々とあったものだ。
振り回し、振り回された日々が懐かしい。