7.蛍火
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この日、沖田に三人の弟子が出来た。
容保の推薦で通う事になった初めての弟子達だ。
子供達に剣を教えたいという沖田の望みと、容保の旧会津藩士の子供達に確かな剣を伝授して欲しいとの望みが一致した。
道着の入った袋をくくりつけた竹刀を担ぎ、背筋を伸ばした少年が三人、綺麗に手足を揃え行進のように道場の前にやって来た。
「兄に言われ参りました。元会津藩士史族広沢弁二!!」
「私は父に言われて参りました!同じく元会津藩士史族、梶原景清!!」
「同じく元会津藩士史族、佐川直諒!!」
突然聞こえた威勢のよい声に、沖田が慌てて飛んでいく。
「井上先生、本日よりお世話になります!宜しくお願い申し上げます!!」
沖田は礼儀正しい挨拶を聞き終えて、思わず「はぁ……例の」と返しそうなるが慌てて居住まいを正した。
「お待ちしておりましたよ。松平容保様から縁あって貴方がたの剣術指南役を承りました、井上総司と申します。……舞突新誠流、師範を務めます」
慣れない己の流派を名乗り沖田は少年達を道場へ案内した。
「ぶとつ、しんせいりゅう……」
道着を身につけながら一人の少年が呟いた。その横で着替えを終えた年かさの少年が、自分もそうだと頷いてから沖田の前に進み出て正座をし、頭を下げた。
父兄からの教えで幕末に名を馳せた剣術の流派には知識があるつもりだったが、師となる男が名乗った流派に覚えがなかったのだ。
「僭越ながら私はその……舞突新誠流を存じません、どのような流派かご教示くださいせまぬか」
「っ、いいでしょう」
残り二人も同じように並んで正座をし、背筋を伸ばして師の言葉を待っている。
僅かに顔を引きつらせた沖田は、真剣な眼差しを向ける三人の少年の顔を順に精察した。
容保の勧めだと父や兄に言われ、感激のままにここへやって来たのだ。期待に満ちた目をしている。
流派は容保公に付けてもらった名だと説明すれば良いのだが、そのきっかけは言い出しにくいものだ。
祝言の帰り道、道場の看板の話になり「井上流でいい」と軽く答え、真面目に考えているのかと怒られた。
苦笑いで頭を掻く沖田に容保が溜め息をつきながら「ならばお主に関わる字を選び並べよ」と付けた名だ。そして後日改めて送られてきた書状には『舞突新誠流』の名があった。
「容保様に私の剣を舞いのようだとお褒め頂きました。そして私の得意技は突きです。ですので、舞突新誠流と……」
「舞いのような……」
「新誠の意味とは」
「そうですね……それは、これからも会津公……容保様に、新しい時代に於いても忠義と誠を尽くすといった所でしょうか」
沖田の言葉に幼い剣客達から感動の声が上がった。
目を輝かせ、父や兄が仕えた主君を知り、その主君から認められ褒められて流派の命名まで受けた師へ、憧れの眼差しを向けている。
……いい子達だ……
自分が姉と離れた時と同じ年頃の子供もいる。一番の年長者でも十歳に満たない。
沖田は優しい眼差しで熱い瞳に応じた。
「新」も「誠」も新選組から借りた。試衛館と響きも似ているだろうと得意気に容保が当ててくれた文字だ。
新選組にいた事もいつかは話さなければならないだろう。だが、それは今ではない。新しい時代を生きる子供達にはまだ、話さなくて良い。
沖田は眼を閉じて、ふぅっと息を吐いた。
「では挨拶もそこそこに……稽古を始めましょう」
師の纏う気が変わり、道場の空気が緊張したものへ一変した。
幼い者達には肌に刺さる剣気が恐ろしいかもしれない。
「竹刀は置いてください。ここでは……稽古は木刀で行います」
穏やかさは息を潜め、厳しい剣の師範へと変わった沖田総司、改め井上総司の稽古が始まった。
容保の推薦で通う事になった初めての弟子達だ。
子供達に剣を教えたいという沖田の望みと、容保の旧会津藩士の子供達に確かな剣を伝授して欲しいとの望みが一致した。
道着の入った袋をくくりつけた竹刀を担ぎ、背筋を伸ばした少年が三人、綺麗に手足を揃え行進のように道場の前にやって来た。
「兄に言われ参りました。元会津藩士史族広沢弁二!!」
「私は父に言われて参りました!同じく元会津藩士史族、梶原景清!!」
「同じく元会津藩士史族、佐川直諒!!」
突然聞こえた威勢のよい声に、沖田が慌てて飛んでいく。
「井上先生、本日よりお世話になります!宜しくお願い申し上げます!!」
沖田は礼儀正しい挨拶を聞き終えて、思わず「はぁ……例の」と返しそうなるが慌てて居住まいを正した。
「お待ちしておりましたよ。松平容保様から縁あって貴方がたの剣術指南役を承りました、井上総司と申します。……舞突新誠流、師範を務めます」
慣れない己の流派を名乗り沖田は少年達を道場へ案内した。
「ぶとつ、しんせいりゅう……」
道着を身につけながら一人の少年が呟いた。その横で着替えを終えた年かさの少年が、自分もそうだと頷いてから沖田の前に進み出て正座をし、頭を下げた。
父兄からの教えで幕末に名を馳せた剣術の流派には知識があるつもりだったが、師となる男が名乗った流派に覚えがなかったのだ。
「僭越ながら私はその……舞突新誠流を存じません、どのような流派かご教示くださいせまぬか」
「っ、いいでしょう」
残り二人も同じように並んで正座をし、背筋を伸ばして師の言葉を待っている。
僅かに顔を引きつらせた沖田は、真剣な眼差しを向ける三人の少年の顔を順に精察した。
容保の勧めだと父や兄に言われ、感激のままにここへやって来たのだ。期待に満ちた目をしている。
流派は容保公に付けてもらった名だと説明すれば良いのだが、そのきっかけは言い出しにくいものだ。
祝言の帰り道、道場の看板の話になり「井上流でいい」と軽く答え、真面目に考えているのかと怒られた。
苦笑いで頭を掻く沖田に容保が溜め息をつきながら「ならばお主に関わる字を選び並べよ」と付けた名だ。そして後日改めて送られてきた書状には『舞突新誠流』の名があった。
「容保様に私の剣を舞いのようだとお褒め頂きました。そして私の得意技は突きです。ですので、舞突新誠流と……」
「舞いのような……」
「新誠の意味とは」
「そうですね……それは、これからも会津公……容保様に、新しい時代に於いても忠義と誠を尽くすといった所でしょうか」
沖田の言葉に幼い剣客達から感動の声が上がった。
目を輝かせ、父や兄が仕えた主君を知り、その主君から認められ褒められて流派の命名まで受けた師へ、憧れの眼差しを向けている。
……いい子達だ……
自分が姉と離れた時と同じ年頃の子供もいる。一番の年長者でも十歳に満たない。
沖田は優しい眼差しで熱い瞳に応じた。
「新」も「誠」も新選組から借りた。試衛館と響きも似ているだろうと得意気に容保が当ててくれた文字だ。
新選組にいた事もいつかは話さなければならないだろう。だが、それは今ではない。新しい時代を生きる子供達にはまだ、話さなくて良い。
沖田は眼を閉じて、ふぅっと息を吐いた。
「では挨拶もそこそこに……稽古を始めましょう」
師の纏う気が変わり、道場の空気が緊張したものへ一変した。
幼い者達には肌に刺さる剣気が恐ろしいかもしれない。
「竹刀は置いてください。ここでは……稽古は木刀で行います」
穏やかさは息を潜め、厳しい剣の師範へと変わった沖田総司、改め井上総司の稽古が始まった。