7.蛍火
夢主名前設定
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団子屋に残された夢主は店を出て、食材の買出しを済ませていた。
帰り道、日が落ち始め、空が黄昏色に染まっている。青い空との境界線は段々と色濃く群青色に変わっていった。
「遅くなっちゃったな……」
完全に暗くなる前に家に辿り着かなければと急ぐ途中、川のほとりで沖田を見つけた。
川を越えて来た夢主とは違う方角へ歩いて行く。横顔はにこにことご機嫌だ。
「総っ……」
るんるんと鼻歌でも口ずさむような軽い足取りの沖田だが歩みは速い。大声で呼び掛けなければ届かない距離にいる。
あまり目立ちたくないと話していた沖田が大声で呼ばれては迷惑だろうと、どこかへ向かう姿を黙って見送った。
「……あれ」
沖田が消えた先に、何か光るものを見た気がした。暫く目を凝らすが次に光る物は見えない。
川の水面が揺れて弱い陽光をほんのり照り返しているだけだ。
「蛍……もしかして蛍だったのかな……」
斎藤は今夜も遅いが、家には戻るはずだ。
朝になったら聞いてみよう……。夢主はどんどん暗くなる空を思い出し、慌てて家へ戻った。
夜が明けて夫婦揃っての食事時、夢主は楽しそうに昨日の出来事を斎藤に語っていた。
「それで一さん、その子とお団子を一緒に食べたんですよ」
「丁稚か。団子の匂いで怒られなきゃいいがな」
「えっ」
「そうだろう、使いの途中で買い食いなど金はどうしたと疑われかねんぞ」
「でもお代は払ってもらったと話せば……」
「見ず知らずの者に金を払わせるとは、使いに出した主人は一体どんな礼儀知らずなのか。そう怒られたらどうする」
「そんな、考えもしませんでした……」
「まぁ次からは気をつけるんだな」
「はぃ……」
良かれとした事で、もしあの子が怒られでもしたら。
俯く妻に斎藤はやれやれと顔を覗いた。
「気を病んでも仕方あるまい。俺も言い過ぎたな、朝からすまん。そう言えば、今日から沖田君の道場に弟子が通って来るんじゃなかったのか」
「あっ……そうなんです!みんなの分のお昼ご飯作ってあげなくちゃ……あっ……」
斎藤が話題を変えると、夢主はある事を思い付いた。
ひょいと顔を上げて目を大きく開いている。斎藤はそんな表情を、また面白い顔をする……と、心の中で笑った。
「どうした」
「そっか、総司さんに似てたんだ……」
昨日の子供の顔を沖田と重ね、なるほどと幾度も頷いた。気が付いてみれば、何から何までそっくりだ。
一人で何かに納得している夢主に斎藤は首を傾げた。
我が妻は表情もころころと変わるが話題もあちらこちらへ飛ぶもんだと、にやにやしながら話の続きを待ち、耳を傾けている。
「お団子を一緒に食べた子です。どこかで見た事があるなぁって考えてたんですけど、やっとすっきりしました!そっか、総司さんにそっくりだったんだ……」
にこにこ絶やさない笑顔、大きな瞳が女童のように可愛い男の子。
袴姿がまるで人形のように愛らしかった。
「そういえば夕べ、川で総司さんを見かけたんですよ」
「夕べだと、お前そんな頃まで出歩いていたのか」
機嫌良く妻を観察していた斎藤だが、その身を案じるあまり過保護な反応を示し、眉間に皺を寄せた。
「違うんですよ、ちょっと帰りが遅くなってしまっただけで……一さんの夏物の長着を買ってきたんです。きっとお似合いに……」
夢主の視線が動いた先に、衝立に掛けられた長着があった。
衝立は沖田の道場から運んだものだ。懐かしむ夢主の為に沖田は喜んで差し出した。
今は隣の座敷と、この居室との境に置かれている。壬生にいた頃に部屋にあった衝立にとても良く似ていた。
「いつもの着物より少し明るい色なんですけど、一さん似合いそうだなって……お嫌ですか」
「いいんじゃないか、涼しそうだな」
妻の見立てに斎藤は眉間の皺を消し、片眉を動かし愛嬌を見せた。
その様子に夢主もホッと息を吐いた。
帰り道、日が落ち始め、空が黄昏色に染まっている。青い空との境界線は段々と色濃く群青色に変わっていった。
「遅くなっちゃったな……」
完全に暗くなる前に家に辿り着かなければと急ぐ途中、川のほとりで沖田を見つけた。
川を越えて来た夢主とは違う方角へ歩いて行く。横顔はにこにことご機嫌だ。
「総っ……」
るんるんと鼻歌でも口ずさむような軽い足取りの沖田だが歩みは速い。大声で呼び掛けなければ届かない距離にいる。
あまり目立ちたくないと話していた沖田が大声で呼ばれては迷惑だろうと、どこかへ向かう姿を黙って見送った。
「……あれ」
沖田が消えた先に、何か光るものを見た気がした。暫く目を凝らすが次に光る物は見えない。
川の水面が揺れて弱い陽光をほんのり照り返しているだけだ。
「蛍……もしかして蛍だったのかな……」
斎藤は今夜も遅いが、家には戻るはずだ。
朝になったら聞いてみよう……。夢主はどんどん暗くなる空を思い出し、慌てて家へ戻った。
夜が明けて夫婦揃っての食事時、夢主は楽しそうに昨日の出来事を斎藤に語っていた。
「それで一さん、その子とお団子を一緒に食べたんですよ」
「丁稚か。団子の匂いで怒られなきゃいいがな」
「えっ」
「そうだろう、使いの途中で買い食いなど金はどうしたと疑われかねんぞ」
「でもお代は払ってもらったと話せば……」
「見ず知らずの者に金を払わせるとは、使いに出した主人は一体どんな礼儀知らずなのか。そう怒られたらどうする」
「そんな、考えもしませんでした……」
「まぁ次からは気をつけるんだな」
「はぃ……」
良かれとした事で、もしあの子が怒られでもしたら。
俯く妻に斎藤はやれやれと顔を覗いた。
「気を病んでも仕方あるまい。俺も言い過ぎたな、朝からすまん。そう言えば、今日から沖田君の道場に弟子が通って来るんじゃなかったのか」
「あっ……そうなんです!みんなの分のお昼ご飯作ってあげなくちゃ……あっ……」
斎藤が話題を変えると、夢主はある事を思い付いた。
ひょいと顔を上げて目を大きく開いている。斎藤はそんな表情を、また面白い顔をする……と、心の中で笑った。
「どうした」
「そっか、総司さんに似てたんだ……」
昨日の子供の顔を沖田と重ね、なるほどと幾度も頷いた。気が付いてみれば、何から何までそっくりだ。
一人で何かに納得している夢主に斎藤は首を傾げた。
我が妻は表情もころころと変わるが話題もあちらこちらへ飛ぶもんだと、にやにやしながら話の続きを待ち、耳を傾けている。
「お団子を一緒に食べた子です。どこかで見た事があるなぁって考えてたんですけど、やっとすっきりしました!そっか、総司さんにそっくりだったんだ……」
にこにこ絶やさない笑顔、大きな瞳が女童のように可愛い男の子。
袴姿がまるで人形のように愛らしかった。
「そういえば夕べ、川で総司さんを見かけたんですよ」
「夕べだと、お前そんな頃まで出歩いていたのか」
機嫌良く妻を観察していた斎藤だが、その身を案じるあまり過保護な反応を示し、眉間に皺を寄せた。
「違うんですよ、ちょっと帰りが遅くなってしまっただけで……一さんの夏物の長着を買ってきたんです。きっとお似合いに……」
夢主の視線が動いた先に、衝立に掛けられた長着があった。
衝立は沖田の道場から運んだものだ。懐かしむ夢主の為に沖田は喜んで差し出した。
今は隣の座敷と、この居室との境に置かれている。壬生にいた頃に部屋にあった衝立にとても良く似ていた。
「いつもの着物より少し明るい色なんですけど、一さん似合いそうだなって……お嫌ですか」
「いいんじゃないか、涼しそうだな」
妻の見立てに斎藤は眉間の皺を消し、片眉を動かし愛嬌を見せた。
その様子に夢主もホッと息を吐いた。