お届け物ですよ
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜、夢主は斎藤に全てを報告した。
宗次郎の来訪、桜の陶器の譲渡、約束の団子。それから宗次郎と交わした、また団子を食べる約束、夢主と勉に危害を加えず守るという約束。
斎藤は意外だなと驚き、そうかと応じて笑っていた。
「護衛としてはありがたいな男だな、瀬田宗次郎。実際は呑気に諸国漫遊しているようだが」
「自分探しの旅……って言えばいいのかな。宗次郎なりに一生懸命考えているみたいでした」
頼りになる男だが実際は頼れんだろうと否定的な斎藤に対して、夢主は宗次郎の頑張りを伝えようとしていた。
必死にもがく青年を夫にも認めて欲しかった。
「諸国の甘味を味わって歩く旅だろう、追跡班の報告を聞いたことがある」
「追跡班、凄いですね。でも宗次郎を捕える気は無いんですよね、だってあんなに足が疾いですし」
「あぁ端からないさ。本気で遣り合ってその辺の密偵が勝てる相手ではないからな。それを承知で瀬田宗次郎も捨て置いているんだろ」
「あは……でも宗次郎はもう、人を殺めたくないのかもしれませんよ、今日も丸腰でした」
「ほぅ。ま、騒ぎにならなければそれに越した事はない」
追跡班にとっても、瀬田宗次郎にとっても、つかず離れず監視し合う距離が都合良いはずだ。
本当に改心が見られるならば、政府も対応を変える。あの力を活かす道が見つかるだろう。
「またいつか遊びに来ると思うので、その時は一さんも一緒にお団子食べましょうよ。宗次郎、生き方を変えようと頑張っています、ひたむきに……」
「ま、居合わせたらな。どの道、動向は把握しているんだ」
一度剣を交えてみたい相手だが、どちらも無傷で済まない手合わせになる。
体が不自由になるかもしれない戦いに、今更楽しみの為に挑めない。
向こうも意味なく密偵を手に掛ければ、監視だけでは済まされない。処罰が下る。手合わせと説明しても政府は納得しまい。
残念ながら会っても剣を交えることは無いだろう。瀬田宗次郎がこちらに刃を向けない限り。
面白い剣客だが残念だ、と斎藤は肩を浮かせた。
「団子はいらんがな」
「ふふっ、今度は私がお団子用意するので、一さんにも何か考えておきます」
「敵わんな」
団子を理由に面倒を断ろうと思ったんだぞ。
眉間に皺を寄せて笑った斎藤は、すやすやと眠る勉を一瞥してから、夢主の体を引き寄せた。
見知らぬ匂いも団子の匂いもしない、我が妻の香り。微かに加わったのは乳の香り。言えば照れるだろうか。
我が子を育む大切な乳の香りは決して悪い香りではない。むしろ感謝の念が湧く、良い香りだ。
そっと口吸いをした斎藤は、
「団子の匂いがするぞ」
ククッと笑って夢主を揶揄った。
本当はもっともっと愛おしい香りだが、それは言うまいと唇を引き締めて口角を上げた。
「久しぶりに私達の陶器も見てみませんか、割れちゃってますけど」
「いいな、久しぶりに出すか」
ビロード敷きの小物入れに入った二人分の猪目の陶器。
桜の花びらに似た二つを合わせれば猪目の形になった陶器。今は割れて砕けているが、微かに猪目らしさを残している。
夢主が思い付きで月明かりの下、蓋を開くと、月明かりを吸い込んで輝きを取り戻すように、割れた陶器がきらきらと輝いた。
思わず息を飲んだ夢主が斎藤を見上げると、陶器と同じく月明かりを吸い込んだ斎藤の瞳が、美しく輝いていた。
形崩れても失せない美しさと、力強い美しさを目の当たりにして、夢主は澄んだ微笑みを浮かべた。
時が流れても形を失っても、決して失せないものがある。
深く感じた夢主が斎藤の頬に触れると、同意を示すように斎藤が頷いた。
大切なものも美しいものも、形を変えて残るものだ。
互いを見つめていた二人はやがて瞼を閉じて、輝き宿す瞳を隠し、ゆっくりと唇を重ねた。
二人の間にある消えないものを確かめるように延々と、静かで優しい口吸いを繰り返した。
宗次郎の来訪、桜の陶器の譲渡、約束の団子。それから宗次郎と交わした、また団子を食べる約束、夢主と勉に危害を加えず守るという約束。
斎藤は意外だなと驚き、そうかと応じて笑っていた。
「護衛としてはありがたいな男だな、瀬田宗次郎。実際は呑気に諸国漫遊しているようだが」
「自分探しの旅……って言えばいいのかな。宗次郎なりに一生懸命考えているみたいでした」
頼りになる男だが実際は頼れんだろうと否定的な斎藤に対して、夢主は宗次郎の頑張りを伝えようとしていた。
必死にもがく青年を夫にも認めて欲しかった。
「諸国の甘味を味わって歩く旅だろう、追跡班の報告を聞いたことがある」
「追跡班、凄いですね。でも宗次郎を捕える気は無いんですよね、だってあんなに足が疾いですし」
「あぁ端からないさ。本気で遣り合ってその辺の密偵が勝てる相手ではないからな。それを承知で瀬田宗次郎も捨て置いているんだろ」
「あは……でも宗次郎はもう、人を殺めたくないのかもしれませんよ、今日も丸腰でした」
「ほぅ。ま、騒ぎにならなければそれに越した事はない」
追跡班にとっても、瀬田宗次郎にとっても、つかず離れず監視し合う距離が都合良いはずだ。
本当に改心が見られるならば、政府も対応を変える。あの力を活かす道が見つかるだろう。
「またいつか遊びに来ると思うので、その時は一さんも一緒にお団子食べましょうよ。宗次郎、生き方を変えようと頑張っています、ひたむきに……」
「ま、居合わせたらな。どの道、動向は把握しているんだ」
一度剣を交えてみたい相手だが、どちらも無傷で済まない手合わせになる。
体が不自由になるかもしれない戦いに、今更楽しみの為に挑めない。
向こうも意味なく密偵を手に掛ければ、監視だけでは済まされない。処罰が下る。手合わせと説明しても政府は納得しまい。
残念ながら会っても剣を交えることは無いだろう。瀬田宗次郎がこちらに刃を向けない限り。
面白い剣客だが残念だ、と斎藤は肩を浮かせた。
「団子はいらんがな」
「ふふっ、今度は私がお団子用意するので、一さんにも何か考えておきます」
「敵わんな」
団子を理由に面倒を断ろうと思ったんだぞ。
眉間に皺を寄せて笑った斎藤は、すやすやと眠る勉を一瞥してから、夢主の体を引き寄せた。
見知らぬ匂いも団子の匂いもしない、我が妻の香り。微かに加わったのは乳の香り。言えば照れるだろうか。
我が子を育む大切な乳の香りは決して悪い香りではない。むしろ感謝の念が湧く、良い香りだ。
そっと口吸いをした斎藤は、
「団子の匂いがするぞ」
ククッと笑って夢主を揶揄った。
本当はもっともっと愛おしい香りだが、それは言うまいと唇を引き締めて口角を上げた。
「久しぶりに私達の陶器も見てみませんか、割れちゃってますけど」
「いいな、久しぶりに出すか」
ビロード敷きの小物入れに入った二人分の猪目の陶器。
桜の花びらに似た二つを合わせれば猪目の形になった陶器。今は割れて砕けているが、微かに猪目らしさを残している。
夢主が思い付きで月明かりの下、蓋を開くと、月明かりを吸い込んで輝きを取り戻すように、割れた陶器がきらきらと輝いた。
思わず息を飲んだ夢主が斎藤を見上げると、陶器と同じく月明かりを吸い込んだ斎藤の瞳が、美しく輝いていた。
形崩れても失せない美しさと、力強い美しさを目の当たりにして、夢主は澄んだ微笑みを浮かべた。
時が流れても形を失っても、決して失せないものがある。
深く感じた夢主が斎藤の頬に触れると、同意を示すように斎藤が頷いた。
大切なものも美しいものも、形を変えて残るものだ。
互いを見つめていた二人はやがて瞼を閉じて、輝き宿す瞳を隠し、ゆっくりと唇を重ねた。
二人の間にある消えないものを確かめるように延々と、静かで優しい口吸いを繰り返した。
4/4ページ