人誅編 完・繋ぐ日々、廻る月
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勉と共に過ごす初めての夜、斎藤も布団を並べた。
お産は血の穢れと言われるが、血の穢れならば俺の方が強かろうと、斎藤は気にしなかった。
他にも二人は習わしを破っていた。
産後は眠らない風習があると聞いた夢主は、絶対に無理ですと言い切って、手が空くとすぐに布団に横たわった。
もちろん沖田も恵も止めはしない。
恵は明治の世では新しい医学の知識を基に夢主に助言を与えた。
夢主は記憶にある未来の育児方法を聞いた話として恵に伝え、今の世との違いを教えて貰う。
明治の世の習いで受け入れ難いものは、夢主の記憶に沿って変えれば良い。
困った時にどうすれば良いか、一つ一つ恵は夢主の不安を打ち消してくれた。
夜、寝入って間もなく、二人は小さなぐずり声で目覚めた。
寝坊助な夢主が目を覚まして乳を与える姿に斎藤はハッと息を呑んだ。
母になった夢主を見て、己が父になったのだと自覚する。
疲れ果てた体で乳を与える夢主も、必死に乳を求める勉も、とても逞しく見えた。
腹を満たした勉が大人しくなり、斎藤は初めて我が子を抱いた。
思った以上に軽く、しかし見た目より重くも感じられる。
我が子ながら不思議な存在だ。
斎藤が我が子を抱いて一番感じたのは、その温かさだった。
「温かいな」
「はい」
さて拒絶されるだろうかと勉を抱いた斎藤だが、満腹で目を閉じた勉は大人しく身を預けている。
夢主の腹に触れたのも声を掛けたのも数えるほどだが、勉は良く俺を覚えているのかもしれない。
賢いな、と心で語り掛け、己の親馬鹿さに驚いた。
「一さんに抱っこされて安心しているみたいですね」
そうか、斎藤は訊き返すように夢主を見つめたが、そうだな、と口元を緩めた。
今はか弱い我が子もすぐに立派に育つだろう。
斎藤は小さな我が子の存在を確かめるように優しく腕を揺らした。
小さいとはいえ、体の中で育み産み落とした夢主もまた小さな体だ。
よく無事にお産を成し遂げたものだと感慨深く、夢主を見つめた。
「怖かったか」
「えっ」
「お前が思い描いていたお産とこの明治の世でのお産。随分と異なるんだろ、よく頑張ったな」
斎藤の思わぬ言葉に夢主は目を瞬いた。
懐妊前からあった不安。皆に支えられて不安を和らげてきた。
そんな不安に気付いて寄り添ってくれる言葉を受けて、夢主の目頭は熱くなり、ほんのり赤い顔で、えへへと笑った。
「実は怖かったです。ずっと不安もありました。……でもみなさんが力を貸してくださったので本当に、みなさんに支えられて生まれてきたんです、勉さんは」
「そうだな」
フッと細い目が緩んだ時、斎藤の腕の中で勉が声を上げた。
目を閉じたまま、うぅんと可愛い声を二人に聞かせた。
「可愛いですね、声もお顔も、全部……可愛いです」
「あぁ」
勉を抱えた斎藤は夢主と目が合い、妙な気恥ずかしさを覚えた。今までにない感覚だ。
「夢主」
名を呼んで勉を渡すと、斎藤は夢主を勉ごと抱きしめた。
大きな体を活かして大切な二人を抱きしめる。
斎藤は珍しい仕草で夢主に頬を擦りつけた。
「一さん……」
感謝と慈しみの気持ちを感じた夢主、熱くなった目頭から今度は零れそうなものがある。夢主は込み上げるものを堪えていた。
この人と一緒になって良かったと、心から思える一時。
「一さん、私……幸せです。本当に、ありがとうございます……」
「礼なんざ」
夢主の素直な想いに斎藤は首を振った。体を寄せて、頬ずりの続きのようにも感じる。
礼など今更必要ない、今までもこの先もずっと、感謝の念はお互い様。
斎藤は何度か首を振った後、鋭い目を俄かに緩めて、顔を見せた。
「これからも、よろしく頼んだぞ」
「はぃ」
ずっとそばにいます。
勉さんと一緒に、一さんが戻る場所を守ります。だから一さんもずっと一緒にいてください。
そんな想いを込めて、夢主はにこりと微笑んだ。
「夢主」
名前を呼んで、斎藤も己の心を伝えようと改めて向き合うが、照れ臭くて敵わんと目を逸らした。
小さな勉の温もりが二人を繋ぐ夜。
いつも冷えていた夢主の体すら温かく感じられる。
薄暗い夜の寝間も淋しさは無く、穏やかで優しい空気に包まれている。
これが愛しい者が傍にいるという事なのか。
「俺こそ、果報者だ」
「……はいっ」
ちらと目を合わせて、斎藤は本音を口にした。
ふふふと優しく微笑んで頷く夢主の幸せな姿に、斎藤は柄にもなく胸が熱くなるのを感じ、参ったなと笑った。
出会った頃から互いに苦しめているのではないかと幾度となく考えてきた。
それから幾年も経ち、心から互いの幸せを感じられる夜が訪れた。
初めて夜を迎える勉を挟み、夢主と斎藤はかけがえのない時を感じていた。
二人は勉が眠る姿に頬を緩めた後、そっと顔を近付けて唇を重ねた。
温かく優しい口づけだった。
お産は血の穢れと言われるが、血の穢れならば俺の方が強かろうと、斎藤は気にしなかった。
他にも二人は習わしを破っていた。
産後は眠らない風習があると聞いた夢主は、絶対に無理ですと言い切って、手が空くとすぐに布団に横たわった。
もちろん沖田も恵も止めはしない。
恵は明治の世では新しい医学の知識を基に夢主に助言を与えた。
夢主は記憶にある未来の育児方法を聞いた話として恵に伝え、今の世との違いを教えて貰う。
明治の世の習いで受け入れ難いものは、夢主の記憶に沿って変えれば良い。
困った時にどうすれば良いか、一つ一つ恵は夢主の不安を打ち消してくれた。
夜、寝入って間もなく、二人は小さなぐずり声で目覚めた。
寝坊助な夢主が目を覚まして乳を与える姿に斎藤はハッと息を呑んだ。
母になった夢主を見て、己が父になったのだと自覚する。
疲れ果てた体で乳を与える夢主も、必死に乳を求める勉も、とても逞しく見えた。
腹を満たした勉が大人しくなり、斎藤は初めて我が子を抱いた。
思った以上に軽く、しかし見た目より重くも感じられる。
我が子ながら不思議な存在だ。
斎藤が我が子を抱いて一番感じたのは、その温かさだった。
「温かいな」
「はい」
さて拒絶されるだろうかと勉を抱いた斎藤だが、満腹で目を閉じた勉は大人しく身を預けている。
夢主の腹に触れたのも声を掛けたのも数えるほどだが、勉は良く俺を覚えているのかもしれない。
賢いな、と心で語り掛け、己の親馬鹿さに驚いた。
「一さんに抱っこされて安心しているみたいですね」
そうか、斎藤は訊き返すように夢主を見つめたが、そうだな、と口元を緩めた。
今はか弱い我が子もすぐに立派に育つだろう。
斎藤は小さな我が子の存在を確かめるように優しく腕を揺らした。
小さいとはいえ、体の中で育み産み落とした夢主もまた小さな体だ。
よく無事にお産を成し遂げたものだと感慨深く、夢主を見つめた。
「怖かったか」
「えっ」
「お前が思い描いていたお産とこの明治の世でのお産。随分と異なるんだろ、よく頑張ったな」
斎藤の思わぬ言葉に夢主は目を瞬いた。
懐妊前からあった不安。皆に支えられて不安を和らげてきた。
そんな不安に気付いて寄り添ってくれる言葉を受けて、夢主の目頭は熱くなり、ほんのり赤い顔で、えへへと笑った。
「実は怖かったです。ずっと不安もありました。……でもみなさんが力を貸してくださったので本当に、みなさんに支えられて生まれてきたんです、勉さんは」
「そうだな」
フッと細い目が緩んだ時、斎藤の腕の中で勉が声を上げた。
目を閉じたまま、うぅんと可愛い声を二人に聞かせた。
「可愛いですね、声もお顔も、全部……可愛いです」
「あぁ」
勉を抱えた斎藤は夢主と目が合い、妙な気恥ずかしさを覚えた。今までにない感覚だ。
「夢主」
名を呼んで勉を渡すと、斎藤は夢主を勉ごと抱きしめた。
大きな体を活かして大切な二人を抱きしめる。
斎藤は珍しい仕草で夢主に頬を擦りつけた。
「一さん……」
感謝と慈しみの気持ちを感じた夢主、熱くなった目頭から今度は零れそうなものがある。夢主は込み上げるものを堪えていた。
この人と一緒になって良かったと、心から思える一時。
「一さん、私……幸せです。本当に、ありがとうございます……」
「礼なんざ」
夢主の素直な想いに斎藤は首を振った。体を寄せて、頬ずりの続きのようにも感じる。
礼など今更必要ない、今までもこの先もずっと、感謝の念はお互い様。
斎藤は何度か首を振った後、鋭い目を俄かに緩めて、顔を見せた。
「これからも、よろしく頼んだぞ」
「はぃ」
ずっとそばにいます。
勉さんと一緒に、一さんが戻る場所を守ります。だから一さんもずっと一緒にいてください。
そんな想いを込めて、夢主はにこりと微笑んだ。
「夢主」
名前を呼んで、斎藤も己の心を伝えようと改めて向き合うが、照れ臭くて敵わんと目を逸らした。
小さな勉の温もりが二人を繋ぐ夜。
いつも冷えていた夢主の体すら温かく感じられる。
薄暗い夜の寝間も淋しさは無く、穏やかで優しい空気に包まれている。
これが愛しい者が傍にいるという事なのか。
「俺こそ、果報者だ」
「……はいっ」
ちらと目を合わせて、斎藤は本音を口にした。
ふふふと優しく微笑んで頷く夢主の幸せな姿に、斎藤は柄にもなく胸が熱くなるのを感じ、参ったなと笑った。
出会った頃から互いに苦しめているのではないかと幾度となく考えてきた。
それから幾年も経ち、心から互いの幸せを感じられる夜が訪れた。
初めて夜を迎える勉を挟み、夢主と斎藤はかけがえのない時を感じていた。
二人は勉が眠る姿に頬を緩めた後、そっと顔を近付けて唇を重ねた。
温かく優しい口づけだった。