1.コトハジメ
夢主名前設定
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すっ、と手を伸ばして手酌で運んだ酒は甘く、心地良い味だった。
「悪くないな」
「良かった!では僕も……」
二人は酒を楽しみながら、夢主がおにぎりを作る間に簡潔に報告し合った件を詳細に語り合った。
女の前で語るに忍びない残忍な戦話や、会津市中での野蛮で下卑た官軍の行い。
「新選組は終わっちゃいない。今も俺の中で生き続けている。例え時代が変わろうともこれからも俺は新選組の正義を貫くつもりだ。悪即斬のもとに、その為に明治を生きる敗者として、勝者である薩長の下で働くのさ」
「斎藤さんは凄いな……」
「それに、新選組は俺だけじゃない。君もいるじゃないか。君は新選組の沖田総司だろう」
新選組の沖田総司だろうと言われ、不意打ちの様に見開いた目から涙がこぼれ、両頬に一筋ずつ涙の痕が出来た。
「おいおい、夢主じゃあるまいし」
ククッと笑う斎藤の前で沖田は「迂闊でした」と涙を拭った。
すぐにいつもの笑顔が戻る。存在を認められて、擽ったさが生まれた。
「僕は……新選組の沖田総司は死んだと思っていました。そうあるべきなんだと」
「生きているじゃないか。それに君だけじゃない、永倉さんが生きている。島田も、他にも命を繋いだ者はいる」
「そうですか……そうですね、僕らが終わらせてはいけませんね!例え時代が変わろうとも、新選組の誠は終わらせない」
「あぁ。君の道場だってそこらの軟弱な道場の真似をせずとも、今まで通り鬼の稽古でついてこられる者だけに教えればいい」
「ははっ、でも僕は子供達に教えてあげたいんですよ、僕は子供が大好きですからね」
「……そうか」
沖田の子供好きは昔からだ。壬生でも子供達を集めては遊んでいた。だが斎藤はこの時の沖田の「子供が好き」と言う言葉が胸にちくりと刺さった。
今も夢主を心の奥底で好いていると分かる。
そんな沖田が誰かと添い遂げ我が子を手にする、そんな未来を自分が奪った気がし、罪の意識を感じた。
斎藤はすぐに謂れの無い罪悪感を振り払って猪口を戻した。
「やはり酒は止めておこう……暫くは呑むまい」
「そうですか……夢主ちゃんが残念がりますね」
「そうだろうか」
「えぇ、そうですよ。夢主ちゃんは斎藤さんがお酒を楽しむ姿を気に入っていますよ」
「そうか……」
いつの日か、斎藤が酒を止める日が来ないように自分が衝動の抑えになると意気込んでいた夢主。
斎藤は思い出し、猪口に目を落としたまま口元を緩めた。
……暫くは、あいつにも我慢してもらうか……
いつしか空には月が昇り、斎藤の瞳を黄金色に染めていた。
夜が明けて、朝、夢主は肌で異変を察した。
静かな座敷に妙な空気が流れている。
三人で座って朝餉を取る。懐かしくて当たり前だった時間が、当たり前ではなくなるのだ。
夢主と斎藤は譲り受けた新しい家へ、沖田はひとりには広過ぎる道場屋敷に留まる。
二人を祝福しようと決めている沖田だが、気まずい空気になってしまった。
「そうだ、祝言の話!本当に僕が進めてもかまいませんか、ここの大家さんも協力してくれるって話していたんですよ!」
夢主と斎藤は顔を見合わせ、二人で頷いた。
「俺は何もこだわらん」
いっそ何もせずとも構わない、そう続けたい斎藤だが大人しく口を閉じた。嬉しそうな夢主の顔を濁らせたくは無い。
それは夢主に花嫁衣裳を着せたいと望む沖田の顔も同じである。
「俺は任せる。夢主、お前の好きにしろ。沖田君、頼む」
「一さんっ……ありがとうございます!」
「やったぁ、僕も嬉しいです!あぁ~夢主ちゃんの白無垢姿かぁ……似合うだろうなぁ!」
自分の隣に座るわけでは無いが沖田は心から喜び、無条件に祝言の仕度を整える気でいた。
夢主は叶うと思わなかった幸せの実現に胸を膨らませていた。
そんな二人を見て、斎藤は自分の恵まれた身の上に感謝した。
「悪くないな」
「良かった!では僕も……」
二人は酒を楽しみながら、夢主がおにぎりを作る間に簡潔に報告し合った件を詳細に語り合った。
女の前で語るに忍びない残忍な戦話や、会津市中での野蛮で下卑た官軍の行い。
「新選組は終わっちゃいない。今も俺の中で生き続けている。例え時代が変わろうともこれからも俺は新選組の正義を貫くつもりだ。悪即斬のもとに、その為に明治を生きる敗者として、勝者である薩長の下で働くのさ」
「斎藤さんは凄いな……」
「それに、新選組は俺だけじゃない。君もいるじゃないか。君は新選組の沖田総司だろう」
新選組の沖田総司だろうと言われ、不意打ちの様に見開いた目から涙がこぼれ、両頬に一筋ずつ涙の痕が出来た。
「おいおい、夢主じゃあるまいし」
ククッと笑う斎藤の前で沖田は「迂闊でした」と涙を拭った。
すぐにいつもの笑顔が戻る。存在を認められて、擽ったさが生まれた。
「僕は……新選組の沖田総司は死んだと思っていました。そうあるべきなんだと」
「生きているじゃないか。それに君だけじゃない、永倉さんが生きている。島田も、他にも命を繋いだ者はいる」
「そうですか……そうですね、僕らが終わらせてはいけませんね!例え時代が変わろうとも、新選組の誠は終わらせない」
「あぁ。君の道場だってそこらの軟弱な道場の真似をせずとも、今まで通り鬼の稽古でついてこられる者だけに教えればいい」
「ははっ、でも僕は子供達に教えてあげたいんですよ、僕は子供が大好きですからね」
「……そうか」
沖田の子供好きは昔からだ。壬生でも子供達を集めては遊んでいた。だが斎藤はこの時の沖田の「子供が好き」と言う言葉が胸にちくりと刺さった。
今も夢主を心の奥底で好いていると分かる。
そんな沖田が誰かと添い遂げ我が子を手にする、そんな未来を自分が奪った気がし、罪の意識を感じた。
斎藤はすぐに謂れの無い罪悪感を振り払って猪口を戻した。
「やはり酒は止めておこう……暫くは呑むまい」
「そうですか……夢主ちゃんが残念がりますね」
「そうだろうか」
「えぇ、そうですよ。夢主ちゃんは斎藤さんがお酒を楽しむ姿を気に入っていますよ」
「そうか……」
いつの日か、斎藤が酒を止める日が来ないように自分が衝動の抑えになると意気込んでいた夢主。
斎藤は思い出し、猪口に目を落としたまま口元を緩めた。
……暫くは、あいつにも我慢してもらうか……
いつしか空には月が昇り、斎藤の瞳を黄金色に染めていた。
夜が明けて、朝、夢主は肌で異変を察した。
静かな座敷に妙な空気が流れている。
三人で座って朝餉を取る。懐かしくて当たり前だった時間が、当たり前ではなくなるのだ。
夢主と斎藤は譲り受けた新しい家へ、沖田はひとりには広過ぎる道場屋敷に留まる。
二人を祝福しようと決めている沖田だが、気まずい空気になってしまった。
「そうだ、祝言の話!本当に僕が進めてもかまいませんか、ここの大家さんも協力してくれるって話していたんですよ!」
夢主と斎藤は顔を見合わせ、二人で頷いた。
「俺は何もこだわらん」
いっそ何もせずとも構わない、そう続けたい斎藤だが大人しく口を閉じた。嬉しそうな夢主の顔を濁らせたくは無い。
それは夢主に花嫁衣裳を着せたいと望む沖田の顔も同じである。
「俺は任せる。夢主、お前の好きにしろ。沖田君、頼む」
「一さんっ……ありがとうございます!」
「やったぁ、僕も嬉しいです!あぁ~夢主ちゃんの白無垢姿かぁ……似合うだろうなぁ!」
自分の隣に座るわけでは無いが沖田は心から喜び、無条件に祝言の仕度を整える気でいた。
夢主は叶うと思わなかった幸せの実現に胸を膨らませていた。
そんな二人を見て、斎藤は自分の恵まれた身の上に感謝した。