エピローグ完
夢主名前設定
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沖田が出てくるとは知らず、左之助は門前でうなだれていた。
「ちきしょう……夢主のやろう、出てこられねぇほど落ち込んでるんじゃねぇのか、どうなんだよ」
突然潜り戸が開いて、左之助が跳び上がった。
「夢主!」
「残念、僕です。申し訳ありませんが、近所迷惑ですのでお静かに願えますか」
「夢主は……帰ってんのか、いるんだろ、大丈夫か。……斎藤の野郎が……」
京を離れる前に立ち寄った比叡山。
すっかり崩れ落ちたアジトを見た。惨状だった。
志々雄の闘場で別れたあの男がいくら別格だとしても、生きて帰れるとは思えなかった。
だから夫である斎藤が戻らず、落ち込んでいるはずだ。
葵屋では事情を知らない薫や操らの為に明るく振る舞っていたが、気が気じゃなかった。
一向に起き上がらない剣心も心配だった。
意識を取り戻す前に残党共に葵屋が襲撃されたら大変だ。
だから剣心が起き上がるまではと待っていた。
東京に戻ってやっと井上道場を訪ねたのだ。
「夢主はいるんだろ、会わせてくれ!」
「それは出来ません。一人で過ごしたいそうですから」
沖田は左之助を追い返す為、咄嗟に理由を考えた。
暫く誰も訪ねて来ないよう話がまとまれば尚良い。
「一人に……」
「えぇ、色々と考えたいのでしょう」
色々と……
沖田の言葉を左之助が繰り返して呟いた。
呆然と足元に目を落としている。夢主を励ましたいが会う事も出来ず、今の自分に出来ることが分からなかった。
「沖田さんよ、夢主に伝えてくれ、困ったことがあったら力になるってよ……俺で良ければ、力に……」
「食い扶持のない貴方がですか」
「てめっ」
助けると言っても口だけではありませんか、沖田は中途半端な優しさはかえって迷惑だと、現実を突きつけた。
意地悪な沖田の視線に左之助が強く苛立つ。
指摘された事実、おまけに目前の男の冷静さ。
精神的にも金銭的にも、己の甲斐性の無さを自覚させられた。
「くっ……力に、なりてぇんだよ!」
「あははっ、大丈夫ですよ。斎藤さんはちょっとやそっとじゃ死にません」
「でも今回は……見たんだよ、全部燃えちまってるぜ……ありゃいくら何でも……無理だぜ……」
あっけらかんと笑う沖田の声で、左之助の虚無感が増した。
呑気に笑っていられるのはあの場にいなかったからだ。
どこか憧れに近い感情を抱き、越えたいと思った男が消えてしまった。
お前にとっても大切な仲間じゃねぇのかと、左之助は目を剥いて睨んだ。
「はははっ、その程度ではあの人の死の証明になりません。少しは斎藤さんを信じてあげてくださいよ」
「アンタは見てないからそんな事が言えるんだろ!!っう、」
左之助が沖田の胸倉を掴んで怒鳴るが、凄まじい剣気を感じて、掴んだ手を離してしまった。
沖田から微笑みは消えていた。怒っても笑ってもいない、表情が消えた顔に左之助は恐ろしさを感じた。
「見ていませんよ」
「だっ、だったら!」
「ですが、馬鹿にしないでください。"僕達"を甘く見ないでください。どれだけ修羅場を潜り抜けて来たか、死地を見たか、貴方は知らないでしょう」
「っぐ……だがっ、よ……」
再び微笑む沖田。異様な気を発している。
命を賭けた闘いを数多越えて来た男達だけが発する気。
自分には足りないものが多過ぎる。左之助は黙って拳を握ることしか出来なかった。
「お願いします。夢主ちゃんを想ってくださるのなら、少し待ってあげてください。夢主ちゃんを信じてあげて」
「待つ……信じて……」
「えぇ。分かっていただけませんか」
以前も夢主は秘密を抱え、打ち明けられずにいた。時を経てようやく真実を話してくれた。
今回もそうだと言うのか。
左之助は納得できずに握りしめた拳に力を込めた。
「惚れた人を信じる。僕は今まで信じて、時には待って、でも僕に出来ることは何でもしてきました。僕がしたかったからです。力になりたかったから」
「井上さん、アンタ……」
「出来ませんか、貴方には」
斎藤に完敗したが、この男にも敵わねぇのか。
左之助はまだまだ青い自分を思い知った。
「……騒がしちまって悪かったな。だがよ、夢主に、よろしく伝えてくれよ……助けがいるなら……」
「しっかりお伝えします。貴方のお気持ちは。ありがとうございます、左之助さん」
「ふん、……またな」
どう向き合えば良いか受けた助言。
どうしてそんなことが言えるのか、沖田に訊ねたいが、出来ずに左之助は屋敷に背を向けた。
気に食わないが、大人しく引き下がるしかない。
門前払いをされたのだ。
今は会いたくない、それが夢主の意思と受け取るしかなかった。
「ちきしょう……夢主のやろう、出てこられねぇほど落ち込んでるんじゃねぇのか、どうなんだよ」
突然潜り戸が開いて、左之助が跳び上がった。
「夢主!」
「残念、僕です。申し訳ありませんが、近所迷惑ですのでお静かに願えますか」
「夢主は……帰ってんのか、いるんだろ、大丈夫か。……斎藤の野郎が……」
京を離れる前に立ち寄った比叡山。
すっかり崩れ落ちたアジトを見た。惨状だった。
志々雄の闘場で別れたあの男がいくら別格だとしても、生きて帰れるとは思えなかった。
だから夫である斎藤が戻らず、落ち込んでいるはずだ。
葵屋では事情を知らない薫や操らの為に明るく振る舞っていたが、気が気じゃなかった。
一向に起き上がらない剣心も心配だった。
意識を取り戻す前に残党共に葵屋が襲撃されたら大変だ。
だから剣心が起き上がるまではと待っていた。
東京に戻ってやっと井上道場を訪ねたのだ。
「夢主はいるんだろ、会わせてくれ!」
「それは出来ません。一人で過ごしたいそうですから」
沖田は左之助を追い返す為、咄嗟に理由を考えた。
暫く誰も訪ねて来ないよう話がまとまれば尚良い。
「一人に……」
「えぇ、色々と考えたいのでしょう」
色々と……
沖田の言葉を左之助が繰り返して呟いた。
呆然と足元に目を落としている。夢主を励ましたいが会う事も出来ず、今の自分に出来ることが分からなかった。
「沖田さんよ、夢主に伝えてくれ、困ったことがあったら力になるってよ……俺で良ければ、力に……」
「食い扶持のない貴方がですか」
「てめっ」
助けると言っても口だけではありませんか、沖田は中途半端な優しさはかえって迷惑だと、現実を突きつけた。
意地悪な沖田の視線に左之助が強く苛立つ。
指摘された事実、おまけに目前の男の冷静さ。
精神的にも金銭的にも、己の甲斐性の無さを自覚させられた。
「くっ……力に、なりてぇんだよ!」
「あははっ、大丈夫ですよ。斎藤さんはちょっとやそっとじゃ死にません」
「でも今回は……見たんだよ、全部燃えちまってるぜ……ありゃいくら何でも……無理だぜ……」
あっけらかんと笑う沖田の声で、左之助の虚無感が増した。
呑気に笑っていられるのはあの場にいなかったからだ。
どこか憧れに近い感情を抱き、越えたいと思った男が消えてしまった。
お前にとっても大切な仲間じゃねぇのかと、左之助は目を剥いて睨んだ。
「はははっ、その程度ではあの人の死の証明になりません。少しは斎藤さんを信じてあげてくださいよ」
「アンタは見てないからそんな事が言えるんだろ!!っう、」
左之助が沖田の胸倉を掴んで怒鳴るが、凄まじい剣気を感じて、掴んだ手を離してしまった。
沖田から微笑みは消えていた。怒っても笑ってもいない、表情が消えた顔に左之助は恐ろしさを感じた。
「見ていませんよ」
「だっ、だったら!」
「ですが、馬鹿にしないでください。"僕達"を甘く見ないでください。どれだけ修羅場を潜り抜けて来たか、死地を見たか、貴方は知らないでしょう」
「っぐ……だがっ、よ……」
再び微笑む沖田。異様な気を発している。
命を賭けた闘いを数多越えて来た男達だけが発する気。
自分には足りないものが多過ぎる。左之助は黙って拳を握ることしか出来なかった。
「お願いします。夢主ちゃんを想ってくださるのなら、少し待ってあげてください。夢主ちゃんを信じてあげて」
「待つ……信じて……」
「えぇ。分かっていただけませんか」
以前も夢主は秘密を抱え、打ち明けられずにいた。時を経てようやく真実を話してくれた。
今回もそうだと言うのか。
左之助は納得できずに握りしめた拳に力を込めた。
「惚れた人を信じる。僕は今まで信じて、時には待って、でも僕に出来ることは何でもしてきました。僕がしたかったからです。力になりたかったから」
「井上さん、アンタ……」
「出来ませんか、貴方には」
斎藤に完敗したが、この男にも敵わねぇのか。
左之助はまだまだ青い自分を思い知った。
「……騒がしちまって悪かったな。だがよ、夢主に、よろしく伝えてくれよ……助けがいるなら……」
「しっかりお伝えします。貴方のお気持ちは。ありがとうございます、左之助さん」
「ふん、……またな」
どう向き合えば良いか受けた助言。
どうしてそんなことが言えるのか、沖田に訊ねたいが、出来ずに左之助は屋敷に背を向けた。
気に食わないが、大人しく引き下がるしかない。
門前払いをされたのだ。
今は会いたくない、それが夢主の意思と受け取るしかなかった。