9.思い出の朱景色
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「何だ、妓で何か問題でも起こしているのか」
「違いますがな、逆やから困ってますねん!優しゅうて妓達がみんな井上はんがいいって待ってますねん!」
「ほぉ、そいつは面白いな。土方さんに聞かせてやりたい話だ」
思わぬ話に斎藤はククッと笑いを噛み殺した。
新選組を知る楼主は苦笑いだ。
「笑いごとやあらへん、喧嘩の種にもなるさかい、ほんま一人に決めるよう言ぅたってください」
「複数の妓に手を出すとはなかなかやるもんだ。兄貴分が兄貴分だから仕方が無いかもしれませんね」
京と大坂で浮名を馳せた土方を思い出せば、ますます笑いが込み上げてくる。兄貴兼父同然の近藤もまた女には目が無かった。
父代わりも兄貴分もそうであれば、可愛がられていた沖田が同じ立場に身を置いても不思議ではない。
知らず知らずの内に、そばで見ていた男達から遊女の扱いを学んでいたのだろうか。
今まで女に全く興味を示さなかった男だけに、斎藤は面白くて仕方が無かった。
「笑いごとやあらへん!来てもらうんは大いに結構やけども、節操無しは困るんですわ」
「まぁ、決めない理由があるんでしょう。嫌なら他の廓に行ってもらえばいい」
「そんな事は出来ませんわ!命の恩人ですし」
「いざという時に用心棒にもなってもらえるしな」
「それは……」
「図星か。まぁ持ちつ持たれつでいいんじゃないか。彼はあれでいて義理堅い男だ。本来ならこんな遊びはしない。きっと何かを埋めたくて通っているんだろう」
「せやかて……」
「ま、話してはみるが無駄だろうな。彼を利用したいのならお前も覚悟を決めるんだな」
人情渦巻く色街ではいざこざが絶えない。用心棒を雇えば金が掛かる。
だが腕に絶対の信頼があり人柄も問題が無い、そんな貴重な人物が自分から金を払ってやって来てくれるのだ。住処も吉原から遠くない。
楼主からしてみればありがたい状況だ。
「わかりました……でも一言だけ井上はんに宜しくお伝えください」
「あぁ」
「……藤田はんも遊んで行きますか」
警官である斎藤も取り込むことが出来れば、これ以上心強いことは無い。店はどうせ暇な昼の時間。
楼主が下心を含んで誘うが、斎藤はニッと笑って立ち上がった。
「悪いが俺は所帯持ちなんでな」
早足で出口に向かう斎藤の後ろを楼主も続いて追いかける。
廓で下働きをする者達には不思議な光景だ。
「まぁ悪い様にはせん。俺もお前を情報源に使わせてもらうとするさ」
「えぇ、えぇ、それはもう喜んで……」
この妓楼にとって悪い話で無ければ喜んでと男は擦るように手を揉み、機嫌を取っている。
情報源として使ってもらえるという事は、自分にも気を掛けてくれるという事だ。警官との繋がりが出来たと男は喜んだ。
一方、楼主の下心を気にも留めず、入り口で外に目をやる斎藤は天候の変化に気が付いた。
「雨か……」
「藤田さん、宜しければ傘をお持ちください」
すかさず傘の案内をする男に、フッと睨むような笑みをぶつけた。
「いや、まさか廓の名が入った傘を差しては歩けまい」
「そうでした、とんだご無礼を」
「フンッ、喰えん男だ」
妓楼の入り口でそんなやりとりをして出て行く斎藤を、隣りの張見世に座る妓達が眺めていた。
「違いますがな、逆やから困ってますねん!優しゅうて妓達がみんな井上はんがいいって待ってますねん!」
「ほぉ、そいつは面白いな。土方さんに聞かせてやりたい話だ」
思わぬ話に斎藤はククッと笑いを噛み殺した。
新選組を知る楼主は苦笑いだ。
「笑いごとやあらへん、喧嘩の種にもなるさかい、ほんま一人に決めるよう言ぅたってください」
「複数の妓に手を出すとはなかなかやるもんだ。兄貴分が兄貴分だから仕方が無いかもしれませんね」
京と大坂で浮名を馳せた土方を思い出せば、ますます笑いが込み上げてくる。兄貴兼父同然の近藤もまた女には目が無かった。
父代わりも兄貴分もそうであれば、可愛がられていた沖田が同じ立場に身を置いても不思議ではない。
知らず知らずの内に、そばで見ていた男達から遊女の扱いを学んでいたのだろうか。
今まで女に全く興味を示さなかった男だけに、斎藤は面白くて仕方が無かった。
「笑いごとやあらへん!来てもらうんは大いに結構やけども、節操無しは困るんですわ」
「まぁ、決めない理由があるんでしょう。嫌なら他の廓に行ってもらえばいい」
「そんな事は出来ませんわ!命の恩人ですし」
「いざという時に用心棒にもなってもらえるしな」
「それは……」
「図星か。まぁ持ちつ持たれつでいいんじゃないか。彼はあれでいて義理堅い男だ。本来ならこんな遊びはしない。きっと何かを埋めたくて通っているんだろう」
「せやかて……」
「ま、話してはみるが無駄だろうな。彼を利用したいのならお前も覚悟を決めるんだな」
人情渦巻く色街ではいざこざが絶えない。用心棒を雇えば金が掛かる。
だが腕に絶対の信頼があり人柄も問題が無い、そんな貴重な人物が自分から金を払ってやって来てくれるのだ。住処も吉原から遠くない。
楼主からしてみればありがたい状況だ。
「わかりました……でも一言だけ井上はんに宜しくお伝えください」
「あぁ」
「……藤田はんも遊んで行きますか」
警官である斎藤も取り込むことが出来れば、これ以上心強いことは無い。店はどうせ暇な昼の時間。
楼主が下心を含んで誘うが、斎藤はニッと笑って立ち上がった。
「悪いが俺は所帯持ちなんでな」
早足で出口に向かう斎藤の後ろを楼主も続いて追いかける。
廓で下働きをする者達には不思議な光景だ。
「まぁ悪い様にはせん。俺もお前を情報源に使わせてもらうとするさ」
「えぇ、えぇ、それはもう喜んで……」
この妓楼にとって悪い話で無ければ喜んでと男は擦るように手を揉み、機嫌を取っている。
情報源として使ってもらえるという事は、自分にも気を掛けてくれるという事だ。警官との繋がりが出来たと男は喜んだ。
一方、楼主の下心を気にも留めず、入り口で外に目をやる斎藤は天候の変化に気が付いた。
「雨か……」
「藤田さん、宜しければ傘をお持ちください」
すかさず傘の案内をする男に、フッと睨むような笑みをぶつけた。
「いや、まさか廓の名が入った傘を差しては歩けまい」
「そうでした、とんだご無礼を」
「フンッ、喰えん男だ」
妓楼の入り口でそんなやりとりをして出て行く斎藤を、隣りの張見世に座る妓達が眺めていた。