68.たずさえる手
夢主名前設定
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話を聞くうち、由美もひとつ閃いた。心当たりがある。
赤猫楼に志々雄が揚がった際に「由美と言う女を知らねぇか」と問われた。
後に志々雄から「ある者に一番の女に会う予言を受けた」と知らされた。
それを伝えたのが夢主で、一番の女が自分。悟って息を呑んだ。
更に、話の最後に打ち明けられた事実に衝撃を受けた。
「赤ちゃんが……貴女のお腹にいるの」
「はい」
身重だと知った由美は困ったわと美しい肌の上に冷や汗を滑らせた。
遊女であった頃、身籠った女達の苦しみと悲しみを嫌と言うほど見ている。
赤子を取り上げられ殺される、胎にあるうちから命を奪われる。
愛しい者の種を授かった者ほど、奪われた後の悲しみが深かった。また、子と共に命を落とす妓も少なくなかった。
吉原を出た者として、女の誇りに掛けて、宿った命を無碍には出来ない。
「いいわ、私が力になってあげる」
「本当ですか」
「えぇ。弱肉強食、強い者が生き残る。志々雄様のその考えに異論は無いわ。だから私が少しだけ持つ力を貴女に貸してあげる」
「由美さん!」
「その代わり約束よ、どんな事があっても志々雄様を誘惑しないでちょうだい!」
「もちろんです、私は旦那様が誰より大好きです。旦那様だけを慕っています」
「ふふっ、女ね、お互いに」
夢主と志々雄の関わりを知り、ここへ呼ばれた少しだけ未来を見る力を理解した由美は、互いの理に適うわねと協力関係を誓った。
心細いこの場所で誰よりも頼もしい存在だ。
「実は私、浄閑寺に一週間ほどお世話になっていたんです」
「浄閑寺ってじゃあ!」
「はい、あかりちゃんとかがりちゃん、お元気でした」
「あぁぁっ」
由美は夢主に抱きついた。
別れが辛く何も告げず置き去りにした禿達。金と共に寺に託したあの子達を知る人物が目の前に。
由美は忘れていた感情で目尻を濡らした。
「ありがとう、もうあの子達と縁は無いと思っていたの……元気にしてたかしら」
「とても。学業や手習いを真面目に取り組んで、遊ぶ時は木に登るぐらい元気です」
「木登り、あの子達が?ふふっ、本当に元気なのね。良かったわ……幸せそうで……」
「幸せですよ、きっと。心からの笑顔に見えました」
「そう、笑っているのね」
穏やかな一時に夢主の心は安らいでいく。
由美も久しぶりに似た年頃の女との会話を楽しんでいた。
その僅かな安らぎの時間を、乱暴に開かれた扉が壊した。
雑兵が扉を開け、面倒臭そうな目で夢主を探す。鼻まで布で覆われているが、舌打ちが聞こえた。
「雌が増えたというのはお前か」
「ちょっと!その子は志々雄様の大事な客人よ!それから雌だなんて二度と言わないでちょうだい!あと、入る時はノックぐらいなさい、女の部屋なのよ!」
「……失礼致しました。世話役を言いつかりました。外に居ります故、用が御座いましたらお声掛け下さい」
由美には逆らう気がないらしく、大人しく頭を下げて男は出て行った。
「全く不躾ね、大丈夫?私もう行かなきゃいけないけれど、困ったら大声で叫びなさい、ここには志々雄様に忠実な部下が沢山いるから駆けつけてくれるわ」
「ありがとうございます、由美さん」
「じゃあまた来るわね、夢主さん」
ふふふと上品な笑みを残して、由美は志々雄と寝屋に入るべく汗を流そうと湯殿へ去って行った。
赤猫楼に志々雄が揚がった際に「由美と言う女を知らねぇか」と問われた。
後に志々雄から「ある者に一番の女に会う予言を受けた」と知らされた。
それを伝えたのが夢主で、一番の女が自分。悟って息を呑んだ。
更に、話の最後に打ち明けられた事実に衝撃を受けた。
「赤ちゃんが……貴女のお腹にいるの」
「はい」
身重だと知った由美は困ったわと美しい肌の上に冷や汗を滑らせた。
遊女であった頃、身籠った女達の苦しみと悲しみを嫌と言うほど見ている。
赤子を取り上げられ殺される、胎にあるうちから命を奪われる。
愛しい者の種を授かった者ほど、奪われた後の悲しみが深かった。また、子と共に命を落とす妓も少なくなかった。
吉原を出た者として、女の誇りに掛けて、宿った命を無碍には出来ない。
「いいわ、私が力になってあげる」
「本当ですか」
「えぇ。弱肉強食、強い者が生き残る。志々雄様のその考えに異論は無いわ。だから私が少しだけ持つ力を貴女に貸してあげる」
「由美さん!」
「その代わり約束よ、どんな事があっても志々雄様を誘惑しないでちょうだい!」
「もちろんです、私は旦那様が誰より大好きです。旦那様だけを慕っています」
「ふふっ、女ね、お互いに」
夢主と志々雄の関わりを知り、ここへ呼ばれた少しだけ未来を見る力を理解した由美は、互いの理に適うわねと協力関係を誓った。
心細いこの場所で誰よりも頼もしい存在だ。
「実は私、浄閑寺に一週間ほどお世話になっていたんです」
「浄閑寺ってじゃあ!」
「はい、あかりちゃんとかがりちゃん、お元気でした」
「あぁぁっ」
由美は夢主に抱きついた。
別れが辛く何も告げず置き去りにした禿達。金と共に寺に託したあの子達を知る人物が目の前に。
由美は忘れていた感情で目尻を濡らした。
「ありがとう、もうあの子達と縁は無いと思っていたの……元気にしてたかしら」
「とても。学業や手習いを真面目に取り組んで、遊ぶ時は木に登るぐらい元気です」
「木登り、あの子達が?ふふっ、本当に元気なのね。良かったわ……幸せそうで……」
「幸せですよ、きっと。心からの笑顔に見えました」
「そう、笑っているのね」
穏やかな一時に夢主の心は安らいでいく。
由美も久しぶりに似た年頃の女との会話を楽しんでいた。
その僅かな安らぎの時間を、乱暴に開かれた扉が壊した。
雑兵が扉を開け、面倒臭そうな目で夢主を探す。鼻まで布で覆われているが、舌打ちが聞こえた。
「雌が増えたというのはお前か」
「ちょっと!その子は志々雄様の大事な客人よ!それから雌だなんて二度と言わないでちょうだい!あと、入る時はノックぐらいなさい、女の部屋なのよ!」
「……失礼致しました。世話役を言いつかりました。外に居ります故、用が御座いましたらお声掛け下さい」
由美には逆らう気がないらしく、大人しく頭を下げて男は出て行った。
「全く不躾ね、大丈夫?私もう行かなきゃいけないけれど、困ったら大声で叫びなさい、ここには志々雄様に忠実な部下が沢山いるから駆けつけてくれるわ」
「ありがとうございます、由美さん」
「じゃあまた来るわね、夢主さん」
ふふふと上品な笑みを残して、由美は志々雄と寝屋に入るべく汗を流そうと湯殿へ去って行った。