1.コトハジメ
夢主名前設定
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「ゆっくり休め、眠れなかったらいつでも座敷に来て構わん」
「はぃ……おやすみなさい」
「あぁ」
静かに障子を閉めた斎藤の影はすぐに見えなくなった。
「危なかったな」
斎藤は自嘲するように呟き、ニヤリと笑って夢主の閨から離れて行った。
「もぅ……一さんは油断も隙もないんだか。でも……嬉しかったな、ふふっ」
障子に薄っすら映る夕日を眺め、本当に寝るにはまだ早いと夢主は体を起こした。
斎藤が座敷に戻ると、沖田が用意した酒が並んでいた。
「もう戻らないかと思いましたよ」
二人出て行ったきり、膳を置いて閨に行くだけにしては長い時を待った。
なかば諦めて一人酒を覚悟していた。
「まさか他人の家で初夜を過ごすだなんて、僕もとことん不憫な男なものだと一人酒の支度です」
「すまん。いや、流石に俺もそこまで阿呆じゃない。馬鹿にするなよ。……酒か」
「ははっ、まぁ久しぶりに二人でどうです」
酒を勧められた斎藤は腰を下ろすと、手を伸ばさずに置かれた猪口を眺めた。
一人酒とは言葉ばかりで、既に部屋を離れた夢主の分も並んでいた。京で比古に貰った猪口だ。
「覚えているか、天満屋の一件を」
「えぇ、御陵衛士から戻った斎藤さんが指揮を揮った警護の案件ですよね」
「あぁ。あの日、俺は初めて背後を取られた。護衛を優先した故とは言え、やはりあの夜、俺も周りも酒が入り油断していた。それから戊辰の間は極力酒を控えていてな、降伏後には呑んだが酷く不味かった。何故だか分からない、ただ衝動が沸き起こるんだよ」
「衝動……」
無言で頷く斎藤は衝動の記憶を辿っている。
「人を斬りたい、とな。謹慎する俺達を囲む義の無き薩長の兵ども全て斬り捨ててやる。そんな衝動だ。その時は堪えた。だが呑む度に沸き起こってくるんで、いつしか呑まなくなったのさ」
「そうでしたか……会津では辛い生活を送っていたんですね」
「戦は終わった、分かっている。戦場での生死はお互い様、それも分かっている。だが酒というのは恐ろしいな。俺の中の獣が騒ぎ出すんだろう」
「ははっ、僕達は狼ですからね」
「フン、だか今宵は一口いってみるか。君の前なら大丈夫だろう、沖田君」
んっ?と片眉を持ち上げる斎藤に沖田は笑顔で頷いた。
暴れても止めてみせる自信がある。
「はぃ……おやすみなさい」
「あぁ」
静かに障子を閉めた斎藤の影はすぐに見えなくなった。
「危なかったな」
斎藤は自嘲するように呟き、ニヤリと笑って夢主の閨から離れて行った。
「もぅ……一さんは油断も隙もないんだか。でも……嬉しかったな、ふふっ」
障子に薄っすら映る夕日を眺め、本当に寝るにはまだ早いと夢主は体を起こした。
斎藤が座敷に戻ると、沖田が用意した酒が並んでいた。
「もう戻らないかと思いましたよ」
二人出て行ったきり、膳を置いて閨に行くだけにしては長い時を待った。
なかば諦めて一人酒を覚悟していた。
「まさか他人の家で初夜を過ごすだなんて、僕もとことん不憫な男なものだと一人酒の支度です」
「すまん。いや、流石に俺もそこまで阿呆じゃない。馬鹿にするなよ。……酒か」
「ははっ、まぁ久しぶりに二人でどうです」
酒を勧められた斎藤は腰を下ろすと、手を伸ばさずに置かれた猪口を眺めた。
一人酒とは言葉ばかりで、既に部屋を離れた夢主の分も並んでいた。京で比古に貰った猪口だ。
「覚えているか、天満屋の一件を」
「えぇ、御陵衛士から戻った斎藤さんが指揮を揮った警護の案件ですよね」
「あぁ。あの日、俺は初めて背後を取られた。護衛を優先した故とは言え、やはりあの夜、俺も周りも酒が入り油断していた。それから戊辰の間は極力酒を控えていてな、降伏後には呑んだが酷く不味かった。何故だか分からない、ただ衝動が沸き起こるんだよ」
「衝動……」
無言で頷く斎藤は衝動の記憶を辿っている。
「人を斬りたい、とな。謹慎する俺達を囲む義の無き薩長の兵ども全て斬り捨ててやる。そんな衝動だ。その時は堪えた。だが呑む度に沸き起こってくるんで、いつしか呑まなくなったのさ」
「そうでしたか……会津では辛い生活を送っていたんですね」
「戦は終わった、分かっている。戦場での生死はお互い様、それも分かっている。だが酒というのは恐ろしいな。俺の中の獣が騒ぎ出すんだろう」
「ははっ、僕達は狼ですからね」
「フン、だか今宵は一口いってみるか。君の前なら大丈夫だろう、沖田君」
んっ?と片眉を持ち上げる斎藤に沖田は笑顔で頷いた。
暴れても止めてみせる自信がある。