61.馬鹿な人
夢主名前設定
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「どうしたんですか、どこか痛むんですか」
「何でも無い」
「何でも無いなんて……顎が傷むとか口の中が切れてるんじゃ、殴られた時に切れたとか」
「構うな」
斎藤は珍しく「しまった」と目を逸らした。
口吸いで口内の傷を晒すとは不甲斐ない。
斎藤はしらばっくれるが夢主は聞き流せなかった。痛みで歯を食いしばれなければ戦闘に影響が、食事が辛ければ体力が落ちてしまう。
「大丈夫ですか、生活に支障があるならお医者さんに、左之助さんに殴られて怪我したんじゃ」
「阿呆が、あんな殴打が効くか。ちょっと刀を舐めた拍子に切れただけだ」
舌を怪我してるが、理由は刃を舐めたから。
何食わぬ顔で打ち明ける斎藤に夢主は呆れ顔を見せた。
「大したことない、すぐ治る」
「えっ……刀をって……やだっ、初めて一さんのこと……馬鹿じゃないって思っちゃいました……刀舐めるなんて馬鹿じゃありませんか、危ないですよ!しかも刃って……」
「何だと」
「だって馬鹿みたいじゃありませんか、舐めるだけでも信じられないのに、普通反対側ですよ!それに一さん刀が大好きじゃないんですか、錆びちゃいますよ!」
「煩い、お前に馬鹿と言われる筋合いはない」
河原でヤクザ共に囲まれ奮闘していたガキが俺と向き合えるまで這い上がって来たのだ。
威勢の良さはそのままにガタイは随分と成長した。斎藤に追いつきそうなほど伸びた背、先日見た打たれ強さ。
多少なりとも期待で気が昂るもんだ。しかしその勢いで刃上を舌舐めずりしてしまったとは言い辛い。
「それにあれは仕込み刀、どうせ使い捨てだ」
「酷い、それでも大事な刀ですよ!一さんの力になったんですよ、使い捨てなんて言い方可哀想です!」
「事実折れた。もう使えん」
「そんな言い方……」
どうでもいい、役に立たないものは不要。
役立たない自らを切る言葉に聞こえた夢主は下を向いた。
「本当に一さん馬鹿です……」
無茶して怪我して、左之助さんにも大怪我させて。
必要って言いたいのは分かるけど、不器用すぎる。
涙が出そう……、夢主は目を瞬いた。
神谷道場では今頃皆が嵐のように走り回っているはず。
気絶した左之助を見つけ治療している頃だ。
「左之助さんには私から謝っておきますから……」
「必要ない」
「私の気が済みません……一さんも無茶しないでくださいね、ご自分にも……皆さんにもです」
「あの阿呆は大丈夫だ、体の頑丈さは並みじゃない。それにこの先出番は無いと教えてやるのが大人の務めだろう。しゃしゃり出て痛い目を見るのはあの若造だ」
「でも左之助さんは一さんが思う以上に」
「強いか、いや弱い。今のまま今回の件に首を突っ込めばあいつは死ぬぞ。俺は構わんがな」
夢主は睨みつけた。
斎藤の言葉は正しい。正しいだけに悩ましい。
「だけど……いくらなんでも言い過ぎです。それにやり過ぎ、左之助さん……暫く寝込んじゃうんですよ。どうすればそんな傷になるんですか」
「それぐらいで丁度いい。確かにあの阿呆は掃き溜めからよく這い上がったと思うさ。だがまだまだ未熟だ。おい、そのヒヨっ子がこれを持っていたぞ」
斎藤が潜ませていた錦絵を取り出した。
女の絵?と、不満顔で首を傾げた夢主だが徐々に紅潮していく。
恥かしそうに目を伏せて、それでも絵を見る者を見つめ返す紙上の女。少し着崩れた衿元から鎖骨が覗きどこか艶めかしさを感じた。
「何でも無い」
「何でも無いなんて……顎が傷むとか口の中が切れてるんじゃ、殴られた時に切れたとか」
「構うな」
斎藤は珍しく「しまった」と目を逸らした。
口吸いで口内の傷を晒すとは不甲斐ない。
斎藤はしらばっくれるが夢主は聞き流せなかった。痛みで歯を食いしばれなければ戦闘に影響が、食事が辛ければ体力が落ちてしまう。
「大丈夫ですか、生活に支障があるならお医者さんに、左之助さんに殴られて怪我したんじゃ」
「阿呆が、あんな殴打が効くか。ちょっと刀を舐めた拍子に切れただけだ」
舌を怪我してるが、理由は刃を舐めたから。
何食わぬ顔で打ち明ける斎藤に夢主は呆れ顔を見せた。
「大したことない、すぐ治る」
「えっ……刀をって……やだっ、初めて一さんのこと……馬鹿じゃないって思っちゃいました……刀舐めるなんて馬鹿じゃありませんか、危ないですよ!しかも刃って……」
「何だと」
「だって馬鹿みたいじゃありませんか、舐めるだけでも信じられないのに、普通反対側ですよ!それに一さん刀が大好きじゃないんですか、錆びちゃいますよ!」
「煩い、お前に馬鹿と言われる筋合いはない」
河原でヤクザ共に囲まれ奮闘していたガキが俺と向き合えるまで這い上がって来たのだ。
威勢の良さはそのままにガタイは随分と成長した。斎藤に追いつきそうなほど伸びた背、先日見た打たれ強さ。
多少なりとも期待で気が昂るもんだ。しかしその勢いで刃上を舌舐めずりしてしまったとは言い辛い。
「それにあれは仕込み刀、どうせ使い捨てだ」
「酷い、それでも大事な刀ですよ!一さんの力になったんですよ、使い捨てなんて言い方可哀想です!」
「事実折れた。もう使えん」
「そんな言い方……」
どうでもいい、役に立たないものは不要。
役立たない自らを切る言葉に聞こえた夢主は下を向いた。
「本当に一さん馬鹿です……」
無茶して怪我して、左之助さんにも大怪我させて。
必要って言いたいのは分かるけど、不器用すぎる。
涙が出そう……、夢主は目を瞬いた。
神谷道場では今頃皆が嵐のように走り回っているはず。
気絶した左之助を見つけ治療している頃だ。
「左之助さんには私から謝っておきますから……」
「必要ない」
「私の気が済みません……一さんも無茶しないでくださいね、ご自分にも……皆さんにもです」
「あの阿呆は大丈夫だ、体の頑丈さは並みじゃない。それにこの先出番は無いと教えてやるのが大人の務めだろう。しゃしゃり出て痛い目を見るのはあの若造だ」
「でも左之助さんは一さんが思う以上に」
「強いか、いや弱い。今のまま今回の件に首を突っ込めばあいつは死ぬぞ。俺は構わんがな」
夢主は睨みつけた。
斎藤の言葉は正しい。正しいだけに悩ましい。
「だけど……いくらなんでも言い過ぎです。それにやり過ぎ、左之助さん……暫く寝込んじゃうんですよ。どうすればそんな傷になるんですか」
「それぐらいで丁度いい。確かにあの阿呆は掃き溜めからよく這い上がったと思うさ。だがまだまだ未熟だ。おい、そのヒヨっ子がこれを持っていたぞ」
斎藤が潜ませていた錦絵を取り出した。
女の絵?と、不満顔で首を傾げた夢主だが徐々に紅潮していく。
恥かしそうに目を伏せて、それでも絵を見る者を見つめ返す紙上の女。少し着崩れた衿元から鎖骨が覗きどこか艶めかしさを感じた。