6.祝言の時
夢主名前設定
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「見事!!」
もう良いぞ、容保が二人を止める為に声を掛けた。
充分楽しんだだろう。これ以上手合わせが続けば、夢主の不安が現実になってしまう。
気付けば二人の目の色が変わり、本気で相手をねじ伏せようと木刀を構えていた。意地の張り合いは、いつになっても変わらないらしい。
「やれやれ、夢主殿は二人を良く知っておる」
「いい所なんですけどね」
「えぇ、もう少し続けたいものです」
こんな所で終わりに出来るかと噛み付く二人に、容保は「ふむ」と納得する素振りを見せた。
「そうか。構わぬがな……屋敷の者達が騒がぬ前に帰りたいものだ」
「あっ……」
「今、何と」
思い出したように構えを解く沖田に対し、斎藤と夢主は驚いて沖田と容保の顔を交互に確かめた。
「えっ……まさか、内緒でいらしたのですか……」
「黙って抜け出したのですか」
「いや、黙って抜けて来た訳では無いぞ。誰にも会わなかっただけなのだ、なぁ井上」
「はっ、はい!まぁ、会わないように出てきた訳ですから」
「何っ」
斎藤は眉間に皺を寄せて沖田を睨み付けた。
散々斎藤からの剣気を受け流していた沖田だが、この時はたじろいで苦笑いを浮かべた。
「あははっ、だってほら、色々と面倒臭いでしょう、僕のことだってありますし」
「えぇい、何てことをしてくれたんだ、全く君という男は」
「まぁ責めるでない藤田よ。いい友ではないか。私は楽しかったぞ。来て良かったと心からそう思っておる」
「容保様」
「では、僕が責任を持ってお送りいたします!」
「うむ。頼もうか」
沖田は木刀を戻し、そそくさと道場を出て行った。
容保の帰宅の支度に入るのだ。
「藤田五郎、困り事があれば遠慮は要らぬ、いつでも来るが良い」
「有り難きお言葉」
「……頼んだぞ」
「御意……」
この国を見届ける任務、この日容保が無言で斎藤に授けた最後の指示だった。
めでたい祝いの日に受けたこの任は、元より斎藤の中にある義そのもの。
悪しき存在は即座に斬り捨てる。
それが例え政府中枢の人間であろうとも、国と民を守る為に。その貫く忠義はいつまでも変わらない。
……無論、死ぬまで……貫いてみせます……
沖田に伴われ帰路に着く容保。
斎藤は見えなくなってゆく容保の背に決意を告げた。
沖田の屋敷から元会津藩主の容保が蟄居する屋敷までそう遠くはない。
祝言で酒を汲んですぐに戻るつもりだった容保だが、遅くなった帰路をとても上機嫌に歩いていた。
「良い……」
「えっ、容保様……」
「いや、何でもない。時に井上よ、何故お主は看板を掲げぬのだ。新たな看板を掲げても良いと言われているのであろう」
「はぁ……そうなのですが」
「踏ん切りがつかぬのか。沖田総司が生きていると知られるのが怖いか」
「そういう訳ではないのですが……参りましたね」
「責めている訳ではないぞ。元会津藩士の中にも東京に出て来ている者がいる事は知っているであろう」
「はい、会津に残った方、斗南へ渡った方、それから斎藤さんの様に東京へやって来た方。生きる道を求めて各地へ散っている事は存じております」
「ならば話は早い。幾人かの元会津藩士の子等に稽古をつけてやってはくれまいか。無論、稽古代は用意しよう」
「えっ、ですが……。でも僕の稽古は鬼と言われていたのをご存知ありませんか」
「それで構わぬ。おらぬのだ、真の剣を教えられる者が!会津侍に相応しき剣を諭せる者がこの東京には」
「容保様……」
「刀は戦の道具。明治に変わり剣術のあり方が恐ろしい速さで変わっておる。いざという時に戦える剣術で無ければならない。人を斬れる体と心を持たねばならない。それと同時に、優しくあらねばならん。会津侍が忘れてはならぬ心がある」
熱弁を振るう容保に引きこまれるよう耳を傾けた沖田、気が付けば大きく頷いていた。
「仰る通りです……何かを守る為に必要な力……」
「お主の剣術はまさにそうだ」
「ありがとうございます」
「その点でいくと斎藤は全く異なる男だな、ははっ、心身の強さは申し分なく優しくもあるのだが。まぁ、情け容赦ないからこそ出来る仕事を請け負っておったのだ。あの者には誰にも真似できぬものがある。……平安の世に道場で指南役を務めるには向いておらんがな」
「あははははっ!容保様、流石良くご存知で!僕もそれなりに非情だと思いますけど、斎藤さんは斎藤さんですからね、他の誰にも真似できません!……っくっくくく……」
「井上総司……沖田よ、あの二人を見守ってやれ」
もう良いぞ、容保が二人を止める為に声を掛けた。
充分楽しんだだろう。これ以上手合わせが続けば、夢主の不安が現実になってしまう。
気付けば二人の目の色が変わり、本気で相手をねじ伏せようと木刀を構えていた。意地の張り合いは、いつになっても変わらないらしい。
「やれやれ、夢主殿は二人を良く知っておる」
「いい所なんですけどね」
「えぇ、もう少し続けたいものです」
こんな所で終わりに出来るかと噛み付く二人に、容保は「ふむ」と納得する素振りを見せた。
「そうか。構わぬがな……屋敷の者達が騒がぬ前に帰りたいものだ」
「あっ……」
「今、何と」
思い出したように構えを解く沖田に対し、斎藤と夢主は驚いて沖田と容保の顔を交互に確かめた。
「えっ……まさか、内緒でいらしたのですか……」
「黙って抜け出したのですか」
「いや、黙って抜けて来た訳では無いぞ。誰にも会わなかっただけなのだ、なぁ井上」
「はっ、はい!まぁ、会わないように出てきた訳ですから」
「何っ」
斎藤は眉間に皺を寄せて沖田を睨み付けた。
散々斎藤からの剣気を受け流していた沖田だが、この時はたじろいで苦笑いを浮かべた。
「あははっ、だってほら、色々と面倒臭いでしょう、僕のことだってありますし」
「えぇい、何てことをしてくれたんだ、全く君という男は」
「まぁ責めるでない藤田よ。いい友ではないか。私は楽しかったぞ。来て良かったと心からそう思っておる」
「容保様」
「では、僕が責任を持ってお送りいたします!」
「うむ。頼もうか」
沖田は木刀を戻し、そそくさと道場を出て行った。
容保の帰宅の支度に入るのだ。
「藤田五郎、困り事があれば遠慮は要らぬ、いつでも来るが良い」
「有り難きお言葉」
「……頼んだぞ」
「御意……」
この国を見届ける任務、この日容保が無言で斎藤に授けた最後の指示だった。
めでたい祝いの日に受けたこの任は、元より斎藤の中にある義そのもの。
悪しき存在は即座に斬り捨てる。
それが例え政府中枢の人間であろうとも、国と民を守る為に。その貫く忠義はいつまでも変わらない。
……無論、死ぬまで……貫いてみせます……
沖田に伴われ帰路に着く容保。
斎藤は見えなくなってゆく容保の背に決意を告げた。
沖田の屋敷から元会津藩主の容保が蟄居する屋敷までそう遠くはない。
祝言で酒を汲んですぐに戻るつもりだった容保だが、遅くなった帰路をとても上機嫌に歩いていた。
「良い……」
「えっ、容保様……」
「いや、何でもない。時に井上よ、何故お主は看板を掲げぬのだ。新たな看板を掲げても良いと言われているのであろう」
「はぁ……そうなのですが」
「踏ん切りがつかぬのか。沖田総司が生きていると知られるのが怖いか」
「そういう訳ではないのですが……参りましたね」
「責めている訳ではないぞ。元会津藩士の中にも東京に出て来ている者がいる事は知っているであろう」
「はい、会津に残った方、斗南へ渡った方、それから斎藤さんの様に東京へやって来た方。生きる道を求めて各地へ散っている事は存じております」
「ならば話は早い。幾人かの元会津藩士の子等に稽古をつけてやってはくれまいか。無論、稽古代は用意しよう」
「えっ、ですが……。でも僕の稽古は鬼と言われていたのをご存知ありませんか」
「それで構わぬ。おらぬのだ、真の剣を教えられる者が!会津侍に相応しき剣を諭せる者がこの東京には」
「容保様……」
「刀は戦の道具。明治に変わり剣術のあり方が恐ろしい速さで変わっておる。いざという時に戦える剣術で無ければならない。人を斬れる体と心を持たねばならない。それと同時に、優しくあらねばならん。会津侍が忘れてはならぬ心がある」
熱弁を振るう容保に引きこまれるよう耳を傾けた沖田、気が付けば大きく頷いていた。
「仰る通りです……何かを守る為に必要な力……」
「お主の剣術はまさにそうだ」
「ありがとうございます」
「その点でいくと斎藤は全く異なる男だな、ははっ、心身の強さは申し分なく優しくもあるのだが。まぁ、情け容赦ないからこそ出来る仕事を請け負っておったのだ。あの者には誰にも真似できぬものがある。……平安の世に道場で指南役を務めるには向いておらんがな」
「あははははっ!容保様、流石良くご存知で!僕もそれなりに非情だと思いますけど、斎藤さんは斎藤さんですからね、他の誰にも真似できません!……っくっくくく……」
「井上総司……沖田よ、あの二人を見守ってやれ」