61.馬鹿な人
夢主名前設定
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斎藤が神谷道場の敷居を跨ぎ若僧を見つけた時、陽を透かして浮かんだ女の絵に、変装姿で果たす仕事を忘れそうになった。
何故この阿呆が夢主の絵を持っていると。
これまでの不用意な二人の接近も相まって斎藤に怒りの感情を呼んだ。
「渡し難いだと、だったら俺が渡しておいてやる。感謝するんだな」
事が済み、気を失って言葉など届かぬ左之助に斎藤は吐き捨てた。
見込みのある男だと思っていたが厄介な存在に育ってしまった。
夢主へ接近を許せるような信頼は置けず、戦力としても不十分。もう何年か後なら密偵の協力者として役立ったかもしれないが。
……残念だがお前が夢主に出会うのが遅過ぎたんだよ……
……そして戦力としては時が早過ぎる。どちらにしても中途半端。それが今のお前だ……
待ちやがれと背後に絡みつく執念のような血の臭いを振り払い、斎藤は道場を出た。
懐に一枚の絵を、あとは手ぶらで戻る道。
力任せに寝かしつけた左之助が落とした絵を拾っていた。奴は暫く起き上がれまい。
肩を一突きした瞬間地に落ちた絵に幸い血は付いていない。
「どこで手に入れたか知らんが」
見れば見る程、見事に夢主の姿を写し取っていた。
絵とは言え余所の男の手にある夢主を見るのはいい気がしない。
「俺も随分と嫉妬深いな」
ククッと自嘲気味に笑い、何食わぬ顔で歩くうちに沖田の道場屋敷内へ足を踏み入れていた。
いつもの場所に座る沖田と目が合い、機嫌の良さを見抜かれた。
理由まで見抜かれたのか、微笑みに棘を感じる。
「沖田君、夢主は」
「いませんよ、今日はずっと家です。最近は夜も自宅へ戻っていますよ、体が落ち着いたようで」
「そうか」
「安心してください、何度か確認に行きました。でも呼んでも出てこないんです。拗ねてるのかな」
「フン」
「流石に夫婦二人の家、返事もないのに立ち入れませんから。念の為一度覗きましたが随分ぼうっとしていましたね」
大袈裟に首を傾げる沖田に責められているようで、斎藤は小さく舌打ちを聞かせた。
「何があったんでしょう」
夢主ちゃんが出てこない理由を知っているんですよね、沖田の視線が遠慮なく斎藤を突き刺す。
穏やかな顔に浮かぶ冷たい微笑が見る者を硬直させる。
並みの人間なら己を被食者と錯覚してしまうだろう。
「血の匂いがしますね」
「フン」
侮れんな、斎藤は冷たい笑みをそのままお返しした。
「ちょっと薬屋の真似事をな。君にも見せたかったな、懐かしい道具だぞ。存外いい薬を置いてきたつもりなんだが」
「どうぞ程々に、今の夢主ちゃんを苦しめてはいけませんよ、今まで以上にね」
「俺はそこまで間抜けじゃない、分かっているさ。見守り感謝する、この後も頼んだぞ」
「また行くんですか」
「家に寄ってからな。これからが重要だ、奴を誘い出す」
「……穏便に勧めてくださいよ」
「君も夢主のようなことを言うな」
神谷道場からの帰り道、見えていた日が山の向こうに落ち、空は落照に染まっている。
話は終わった。
それでも行こうとしない斎藤、煙草を取り出したくて堪らなかった。
「……どうしました、晴れない顔ですね。さっきまで楽しそうでしたのに」
「いや、いい気分さ」
所詮は喧嘩屋、身の程を知れとずっと据えてやりたかった灸をようやく据えることが出来たんだ、いい気分さ。
置き土産で奴をおびき出す手筈も今宵整うだろう。
斎藤はしたり顔で煙草でも吹かすような息を吐いた。
「まだ何か、言い難い話でもありますか」
「君に聞く話でもないんでな、しかし夢主に訊ねられる話でもないと来た。まぁ詮索はせんが」
「はぁ……ややこしいお話ですね」
「フン、毎度のことさ」
鈍感ではない斎藤が抱く一つの懸念。
訊いて傷つけては元も子もない。語られるまで待つべきか。
何故この阿呆が夢主の絵を持っていると。
これまでの不用意な二人の接近も相まって斎藤に怒りの感情を呼んだ。
「渡し難いだと、だったら俺が渡しておいてやる。感謝するんだな」
事が済み、気を失って言葉など届かぬ左之助に斎藤は吐き捨てた。
見込みのある男だと思っていたが厄介な存在に育ってしまった。
夢主へ接近を許せるような信頼は置けず、戦力としても不十分。もう何年か後なら密偵の協力者として役立ったかもしれないが。
……残念だがお前が夢主に出会うのが遅過ぎたんだよ……
……そして戦力としては時が早過ぎる。どちらにしても中途半端。それが今のお前だ……
待ちやがれと背後に絡みつく執念のような血の臭いを振り払い、斎藤は道場を出た。
懐に一枚の絵を、あとは手ぶらで戻る道。
力任せに寝かしつけた左之助が落とした絵を拾っていた。奴は暫く起き上がれまい。
肩を一突きした瞬間地に落ちた絵に幸い血は付いていない。
「どこで手に入れたか知らんが」
見れば見る程、見事に夢主の姿を写し取っていた。
絵とは言え余所の男の手にある夢主を見るのはいい気がしない。
「俺も随分と嫉妬深いな」
ククッと自嘲気味に笑い、何食わぬ顔で歩くうちに沖田の道場屋敷内へ足を踏み入れていた。
いつもの場所に座る沖田と目が合い、機嫌の良さを見抜かれた。
理由まで見抜かれたのか、微笑みに棘を感じる。
「沖田君、夢主は」
「いませんよ、今日はずっと家です。最近は夜も自宅へ戻っていますよ、体が落ち着いたようで」
「そうか」
「安心してください、何度か確認に行きました。でも呼んでも出てこないんです。拗ねてるのかな」
「フン」
「流石に夫婦二人の家、返事もないのに立ち入れませんから。念の為一度覗きましたが随分ぼうっとしていましたね」
大袈裟に首を傾げる沖田に責められているようで、斎藤は小さく舌打ちを聞かせた。
「何があったんでしょう」
夢主ちゃんが出てこない理由を知っているんですよね、沖田の視線が遠慮なく斎藤を突き刺す。
穏やかな顔に浮かぶ冷たい微笑が見る者を硬直させる。
並みの人間なら己を被食者と錯覚してしまうだろう。
「血の匂いがしますね」
「フン」
侮れんな、斎藤は冷たい笑みをそのままお返しした。
「ちょっと薬屋の真似事をな。君にも見せたかったな、懐かしい道具だぞ。存外いい薬を置いてきたつもりなんだが」
「どうぞ程々に、今の夢主ちゃんを苦しめてはいけませんよ、今まで以上にね」
「俺はそこまで間抜けじゃない、分かっているさ。見守り感謝する、この後も頼んだぞ」
「また行くんですか」
「家に寄ってからな。これからが重要だ、奴を誘い出す」
「……穏便に勧めてくださいよ」
「君も夢主のようなことを言うな」
神谷道場からの帰り道、見えていた日が山の向こうに落ち、空は落照に染まっている。
話は終わった。
それでも行こうとしない斎藤、煙草を取り出したくて堪らなかった。
「……どうしました、晴れない顔ですね。さっきまで楽しそうでしたのに」
「いや、いい気分さ」
所詮は喧嘩屋、身の程を知れとずっと据えてやりたかった灸をようやく据えることが出来たんだ、いい気分さ。
置き土産で奴をおびき出す手筈も今宵整うだろう。
斎藤はしたり顔で煙草でも吹かすような息を吐いた。
「まだ何か、言い難い話でもありますか」
「君に聞く話でもないんでな、しかし夢主に訊ねられる話でもないと来た。まぁ詮索はせんが」
「はぁ……ややこしいお話ですね」
「フン、毎度のことさ」
鈍感ではない斎藤が抱く一つの懸念。
訊いて傷つけては元も子もない。語られるまで待つべきか。