62.誘い (イザナイ)
夢主名前設定
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夜が明けると、斎藤は既に家を出ていた。
それから三日間、顔を見せることさえなかった。
いつ斎藤が神谷道場を再訪するのか気になって仕方がない。
「そっか、赤べこに行ってみよう」
夢主は思い立って家を出た。神谷道場へ行くなと言われたが赤べこへ行くなとは言われていない。
何か伝わっているかもしれない。赤べこの暖簾が外に出る前に扉をくぐった。
「夢主ちゃん!久しぶりじゃないの、具合大丈夫なん?」
「はい、みんなの様子を知りたくて」
思った通り、営業前の赤べこは仕込みの匂いが漂う程度、客席からの強い臭いはない。
妙の隣で燕が小さく頭を下げた。
既に赤べこの制服を身に纏っている。しかし弥彦の姿はなかった。
「今日は弥彦君いないんですか」
「弥彦君な、ここ三日来てないんよ。一昨日もその前も来るはずやのに来ぉへんから燕ちゃんに様子見に行ってもらったんよ、風邪かもしれへんやろ。そしたら、なぁ……」
「はぃ……あの、左之助さんが大変な事になってて……それで弥彦君、暫くは来れないって」
「左之助さん……」
「そうよ、ちょっと前に包帯ぐるぐる巻きで驚かせたと思ったら今度は寝込むほどの大怪我なんて。ほんま、酷いことする人がおるもんや」
「そう……ですね……」
「夢主ちゃんも気ぃつけぇよ、帰りも気をつけてな」
左之助が寝込んでいるのは、私の夫が剣心への置き土産に左之助を選んでしまったから。分を弁えろと厳しすぎる灸を据えたから。
言えるはずもなく、夢主は静かに店を出た。
妙と燕の変わらぬ様子に幾らか気が和らぐが、それ以上に神谷道場の現状に心が騒ぐ。
「もうすぐだよね、一さんが……」
今日、明日にも剣心と……
我が家と神谷道場への分かれ道、立ち止まってしまうが道を間違えてはならない。
夢主は首を振って我が家への道を選んだ。
「あぁ夢主さん!見つけました!」
「えっ」
「お久しぶりです、お変わりありませんね」
夢主が選んだ道を突然塞ぐ人影。何処からともなく現れて立ち塞がった。
清涼な声を響かせ笑っているのは瀬田宗次郎。
沖田の屋敷から刀を持ち去ったあの日よりさらに背が伸びている。
あの頃と変わらないのは掴みどころのない笑顔。
「宗次郎……どうしてここに」
「貴女に会いに来たんですよ、探しました」
「私……なんで、ずっと東京にいたんですか……」
初めての出会いは団子屋の前だった。
あの頃から既に各地を飛び回っていたのか分からないが、近頃は一派の為に駆けまわっているはず。
だが、もし宗次郎がずっと東京にいたならば、修羅の道に踏み入っていないのでは。
一縷の望みを託して問うが、希望はいとも簡単に打ち砕かれた。
「いいえ、全国を旅していました。たまに東京へ来る事もありましたけどね。今回はどうしても懐かしいお団子食べたくなっちゃって」
「お団子、ですか」
東京へ戻った目的は団子ではない。
本来の目的を知る夢主は恐怖で退いた。宗次郎から距離を取ろうと体が動く。
気付いているのか否か、嬉しそうに体を傾けて宗次郎が近づく。
無邪気にお話をしようと顔を覗く幼子のように。
「そう、あそこのお団子は美味しいですよね、全国食べ歩きましたがあの店が一番です。所で夢主さん、ちょっと京都まで旅する気はありませんか」
「えっ……京都」
何を言っているのだろうか。
夢主の目が丸く大きく開かれた。
それから三日間、顔を見せることさえなかった。
いつ斎藤が神谷道場を再訪するのか気になって仕方がない。
「そっか、赤べこに行ってみよう」
夢主は思い立って家を出た。神谷道場へ行くなと言われたが赤べこへ行くなとは言われていない。
何か伝わっているかもしれない。赤べこの暖簾が外に出る前に扉をくぐった。
「夢主ちゃん!久しぶりじゃないの、具合大丈夫なん?」
「はい、みんなの様子を知りたくて」
思った通り、営業前の赤べこは仕込みの匂いが漂う程度、客席からの強い臭いはない。
妙の隣で燕が小さく頭を下げた。
既に赤べこの制服を身に纏っている。しかし弥彦の姿はなかった。
「今日は弥彦君いないんですか」
「弥彦君な、ここ三日来てないんよ。一昨日もその前も来るはずやのに来ぉへんから燕ちゃんに様子見に行ってもらったんよ、風邪かもしれへんやろ。そしたら、なぁ……」
「はぃ……あの、左之助さんが大変な事になってて……それで弥彦君、暫くは来れないって」
「左之助さん……」
「そうよ、ちょっと前に包帯ぐるぐる巻きで驚かせたと思ったら今度は寝込むほどの大怪我なんて。ほんま、酷いことする人がおるもんや」
「そう……ですね……」
「夢主ちゃんも気ぃつけぇよ、帰りも気をつけてな」
左之助が寝込んでいるのは、私の夫が剣心への置き土産に左之助を選んでしまったから。分を弁えろと厳しすぎる灸を据えたから。
言えるはずもなく、夢主は静かに店を出た。
妙と燕の変わらぬ様子に幾らか気が和らぐが、それ以上に神谷道場の現状に心が騒ぐ。
「もうすぐだよね、一さんが……」
今日、明日にも剣心と……
我が家と神谷道場への分かれ道、立ち止まってしまうが道を間違えてはならない。
夢主は首を振って我が家への道を選んだ。
「あぁ夢主さん!見つけました!」
「えっ」
「お久しぶりです、お変わりありませんね」
夢主が選んだ道を突然塞ぐ人影。何処からともなく現れて立ち塞がった。
清涼な声を響かせ笑っているのは瀬田宗次郎。
沖田の屋敷から刀を持ち去ったあの日よりさらに背が伸びている。
あの頃と変わらないのは掴みどころのない笑顔。
「宗次郎……どうしてここに」
「貴女に会いに来たんですよ、探しました」
「私……なんで、ずっと東京にいたんですか……」
初めての出会いは団子屋の前だった。
あの頃から既に各地を飛び回っていたのか分からないが、近頃は一派の為に駆けまわっているはず。
だが、もし宗次郎がずっと東京にいたならば、修羅の道に踏み入っていないのでは。
一縷の望みを託して問うが、希望はいとも簡単に打ち砕かれた。
「いいえ、全国を旅していました。たまに東京へ来る事もありましたけどね。今回はどうしても懐かしいお団子食べたくなっちゃって」
「お団子、ですか」
東京へ戻った目的は団子ではない。
本来の目的を知る夢主は恐怖で退いた。宗次郎から距離を取ろうと体が動く。
気付いているのか否か、嬉しそうに体を傾けて宗次郎が近づく。
無邪気にお話をしようと顔を覗く幼子のように。
「そう、あそこのお団子は美味しいですよね、全国食べ歩きましたがあの店が一番です。所で夢主さん、ちょっと京都まで旅する気はありませんか」
「えっ……京都」
何を言っているのだろうか。
夢主の目が丸く大きく開かれた。