62.誘い (イザナイ)
夢主名前設定
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「時に夢主、お前が何か隠すのは毎度のことだが」
「えぇ……と」
「お前、臓の病ではないのか」
「臓の病?」
「人体の急所、臓物は病を患っても命取り。それを隠しているんじゃないのか、診療所に通っているだろ」
夢主が体を壊していると勘違いした斎藤から、ふぅと太い息が漏れた。
だがそれは憂いの息ではなく安堵の息。
「俺に心配させまいと病を隠している、そう思ったが違ったようだな、その反応。思い過ごしだったようだ」
「はぃ、安心してください。病気じゃありません」
「そいつは良かった」
最近ろくに向き合っていないがお前の反応は良く分かる。斎藤は取り越し苦労を笑った。
しかし何かあるのは確か。手放しで喜べずにいる。
布団の中は春の陽気を閉じ込めたように暖かい。
夢主は抱かれた腕の中で幸せな一時に浸っていた。
「ふふっ、気持ちいい。ぽかぽかですね」
「すぐに暑いぐらいになるだろうがな、もうすぐ蛍が飛ぶだろう」
「蛍……」
「探してただろ、この辺りではまだ見かけんがな、少し西で見かけたぞ」
「本当ですか」
「あぁ。ここらも、じきに見られるだろう」
そうですか……
嬉しく苦い報せ。周りの皆に待つ定めの数々。夫も旅立ってしまう。
……また暫く会えなくなるんだ……
夢主はおもむろに足を伸ばしてゴソゴソと斎藤の寝巻の裾めくった。
脛に触れると斎藤は少々驚いた。
「冷たい足だな。寒いのか」
「寒くありませんよ、でも一さんの脚はあったかいですね。……一さんが寒くなっちゃうかな」
「気にするな、温めてやる」
「わぁっ」
足を引っ込めようとするが斎藤の脚に挟まれてしまった。引いても抜けないがとても温かい。
夢主は大人しく熱を受け取る事にした。
……一さんの肌って綺麗なんだよね、気持ちいい……
鍛えられた脚の間で程よい圧迫が心地よい。
夢主は挟まれた足をもぞもぞ動かした。
「一さんの脚が冷えちゃいますよ」
「気にするな」
「ぁあああっ、一さん何するんですっ」
逃げられないのをいいことに斎藤は夢主の臀部を指先でくすぐった。
可愛い声が聞けると思ったら悲鳴が返され、斎藤も手を離さざるを得ない。
「ちょっと触っただけだろ、叫ぶな阿呆」
「すみませんっ、つい……」
「まだ嫌なのか。そろそろ理由が知りたいもんだな」
事に至りそうになると慌てて逃げる妻。
今宵も逃げ腰だ。
こんなに甘えてくるのに何故、さすがの斎藤も首を捻った。
「その……」
「ん?」
「あの……少し、考えさせてください……もう少し……」
「ほぉ、考えれば何かが決まるのか」
「本当は……今……いいのかなって、でも後戻りはできないし本当にいいのかなって……」
打ち明けてもいいのでは。
この人なら自らの力として受け止めてくれる。そんな考えと共に浮かぶ恐れ。
待つ者の存在は力に、だが守らねばならぬ存在があまりに弱ければ。もし踏み込まねばならぬ一歩を躊躇う足枷になってしまったら。
闘いに雑念など入れない人、でも周りが思う以上に優しい人。
「悪い報せか」
「いいえ、いい報せです……」
「成る程」
ニッと微かに斎藤が笑んだのは、暗い部屋では夢主に伝わらなかった。
「なら喜んで待つさ、俺もひとつ済ませたいんでな。一仕事終えたらゆっくり聞こうか」
「はい」
一仕事……
斎藤はどこまでを指して言ったのか、夢主は何も訊ねなかった。
「えぇ……と」
「お前、臓の病ではないのか」
「臓の病?」
「人体の急所、臓物は病を患っても命取り。それを隠しているんじゃないのか、診療所に通っているだろ」
夢主が体を壊していると勘違いした斎藤から、ふぅと太い息が漏れた。
だがそれは憂いの息ではなく安堵の息。
「俺に心配させまいと病を隠している、そう思ったが違ったようだな、その反応。思い過ごしだったようだ」
「はぃ、安心してください。病気じゃありません」
「そいつは良かった」
最近ろくに向き合っていないがお前の反応は良く分かる。斎藤は取り越し苦労を笑った。
しかし何かあるのは確か。手放しで喜べずにいる。
布団の中は春の陽気を閉じ込めたように暖かい。
夢主は抱かれた腕の中で幸せな一時に浸っていた。
「ふふっ、気持ちいい。ぽかぽかですね」
「すぐに暑いぐらいになるだろうがな、もうすぐ蛍が飛ぶだろう」
「蛍……」
「探してただろ、この辺りではまだ見かけんがな、少し西で見かけたぞ」
「本当ですか」
「あぁ。ここらも、じきに見られるだろう」
そうですか……
嬉しく苦い報せ。周りの皆に待つ定めの数々。夫も旅立ってしまう。
……また暫く会えなくなるんだ……
夢主はおもむろに足を伸ばしてゴソゴソと斎藤の寝巻の裾めくった。
脛に触れると斎藤は少々驚いた。
「冷たい足だな。寒いのか」
「寒くありませんよ、でも一さんの脚はあったかいですね。……一さんが寒くなっちゃうかな」
「気にするな、温めてやる」
「わぁっ」
足を引っ込めようとするが斎藤の脚に挟まれてしまった。引いても抜けないがとても温かい。
夢主は大人しく熱を受け取る事にした。
……一さんの肌って綺麗なんだよね、気持ちいい……
鍛えられた脚の間で程よい圧迫が心地よい。
夢主は挟まれた足をもぞもぞ動かした。
「一さんの脚が冷えちゃいますよ」
「気にするな」
「ぁあああっ、一さん何するんですっ」
逃げられないのをいいことに斎藤は夢主の臀部を指先でくすぐった。
可愛い声が聞けると思ったら悲鳴が返され、斎藤も手を離さざるを得ない。
「ちょっと触っただけだろ、叫ぶな阿呆」
「すみませんっ、つい……」
「まだ嫌なのか。そろそろ理由が知りたいもんだな」
事に至りそうになると慌てて逃げる妻。
今宵も逃げ腰だ。
こんなに甘えてくるのに何故、さすがの斎藤も首を捻った。
「その……」
「ん?」
「あの……少し、考えさせてください……もう少し……」
「ほぉ、考えれば何かが決まるのか」
「本当は……今……いいのかなって、でも後戻りはできないし本当にいいのかなって……」
打ち明けてもいいのでは。
この人なら自らの力として受け止めてくれる。そんな考えと共に浮かぶ恐れ。
待つ者の存在は力に、だが守らねばならぬ存在があまりに弱ければ。もし踏み込まねばならぬ一歩を躊躇う足枷になってしまったら。
闘いに雑念など入れない人、でも周りが思う以上に優しい人。
「悪い報せか」
「いいえ、いい報せです……」
「成る程」
ニッと微かに斎藤が笑んだのは、暗い部屋では夢主に伝わらなかった。
「なら喜んで待つさ、俺もひとつ済ませたいんでな。一仕事終えたらゆっくり聞こうか」
「はい」
一仕事……
斎藤はどこまでを指して言ったのか、夢主は何も訊ねなかった。