6.祝言の時
夢主名前設定
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──牙突……!!
夢主は叫ぼうとするが、あまりの迫力に声を飲み込んでしまった。
「くぅっ……」
受けようとした沖田だが、斎藤の突進に耐えられず後ろに飛ばされた。それでも手の木刀は離していない。
斎藤も沖田に弾かれ、木刀を下ろしていた。斎藤が構え直すと沖田も立ち上がったが、先程と微かに異なる構えに変わっていた。
「斎藤さん、本気ですね」
「俺はいつだって本気だ」
「そうですね、僕も……本気です!!」
「総司さん……」
沖田が九段突きを放つと悟った夢主は、二人共怪我をしてしまうとその場に座り込んでしまった。
どちらも体に当てずに躱すのは不可能だろう。加えてどう考えても沖田に分がある、そう判断してしまったのだ。
凄まじい突進から繰り出される斎藤の牙突に対し、沖田は疾さを生かした九点同時攻撃。
夢主は青ざめた顔で見つめることしか出来なかった。
だが予想に反して斎藤は沖田の体を横に吹っ飛ばした。
自身も沖田の繰り出した突きを幾つか受けたようで、ニヤリと嬉しそうに沖田を見据え、片膝を付いて脇腹を押さえている。
「流石ですね斎藤さん、僕のこの突きを横薙ぎに払ってしまうなんて」
「フン、九点当時攻撃、三段突きとは比べ物にならん破壊力だ。君のガタイがもう少しでかけりゃやられていたかもな」
ゆっくりと立ち上がる斎藤だが脇腹から手が離れない。
しっかりと沖田の突きが入ったのだろう、動くと痛むのかもしれない。
「だが幾ら疾かろうが剣が飛び出てくる手元はひとつだ。ならば肉を切らせて骨を絶つ、幾らか突きを喰らってしまうが、こちらは牙突から払いに切り替えればいい。新選組副長、土方歳三が考案した戦術、俺達壬生の狼には基本中の基本だろう」
「ははっ、悔しいですか、仰る通り……」
斎藤も沖田も相手の攻撃に痛みを感じている。
しかし痛みが快感であると言わんばかりの表情だ。愉しくて仕方が無いのだろう。
力なく座り込んだ夢主にはその悦に浸る二人が怖かった。自分には止められない世界に入ってしまったからだ。
「案ずるな、無茶はせんだろう」
容保の慰めも気休めにしか聞こえない。
だがあの二人にはこんなもの序の口だと、容保は続けて諭した。
夢主は小さく頷いて応えると、木刀を手に享楽にふける二人を眺めた。
「時に御老女、失礼ながらこちらは戊辰の際に世継ぎを全て失われたとか」
「えぇ、その通りです。世継ぎも何も、もともとたいした家ではありませんでねぇ、これからも細々と暮らしていくだけでございます」
「そうであるか。……一つ相談なのだが、この道場、かの男に譲ってやる気はないか。肥後守は存じておるか。もし井上の身の上が気に入らないと申すのならば、肥後守は松平の……」
容保の言葉を遮って大家の婆はにこにこと首を振った。
「気にいらん事があるかね、あたしゃあ、あの子らが大好きさ。端からここは井上さんに譲るつもりじゃ。だが、今ここを譲ると言えば律儀な子ぉだ、それ相応のお金を持ってくるじゃろう。あたしにはぁ、もう必要の無い物じゃて」
「そうでしたか……」
「そうさね、道場屋敷を譲る条件があるとしたら、私の骨を埋めてくれる事かね、無縁仏は辛いじゃろう」
驚きの顔を見せる容保に、にかっと歯を見せて笑う大家の婆。物心付いてから身分ある者として育てられた容保には珍しい表情だ。
目の前のこの者は、もしや肥後守こと松平容保の顔を知っているのだろうか、そんな不思議な親しみを得た。
「なんとも愉快な表情であろうか、豊かな婆よ……」
「はははっ、どうなさいました、あんたどこぞのお殿様じゃろう」
「参りましたな……例えそうであろうともそれは昔の話、今はただの隠居の身である」
「そうかい。何やら立派なお人だというのは分かるがね、あたしは頭を下げやせんよ」
「いやはや、その必要は無いのですが、何か不快な思いをさせてしまったようですな」
「そんな事はあるかね。あんたはえぇお人じゃ。井上さんが世話になっておったのは見れば分かる。あたしは井上さんの見事な剣、あれを見ているだけで幸せじゃから。妹さんの旦那様も見事じゃね……あの人の剣は初めて見るけれども、凄い人達じゃ。その上に立っていたお人と思うと、感慨深いんじゃよ」
「真に……」
動乱の京の都で私の助けになってくれた男達。
容保は感慨深く闘う二人を見つめた。
「もう暫く、この時を続けても良いだろう。実に楽しそうだ。これくらいの余興、あっても良かろう」
誰よりも楽しんでいるのは立ち会っている当人達。
容保は愉しそうにぶつかり合っている二人の気が落ち着くのを待った。
夢主は叫ぼうとするが、あまりの迫力に声を飲み込んでしまった。
「くぅっ……」
受けようとした沖田だが、斎藤の突進に耐えられず後ろに飛ばされた。それでも手の木刀は離していない。
斎藤も沖田に弾かれ、木刀を下ろしていた。斎藤が構え直すと沖田も立ち上がったが、先程と微かに異なる構えに変わっていた。
「斎藤さん、本気ですね」
「俺はいつだって本気だ」
「そうですね、僕も……本気です!!」
「総司さん……」
沖田が九段突きを放つと悟った夢主は、二人共怪我をしてしまうとその場に座り込んでしまった。
どちらも体に当てずに躱すのは不可能だろう。加えてどう考えても沖田に分がある、そう判断してしまったのだ。
凄まじい突進から繰り出される斎藤の牙突に対し、沖田は疾さを生かした九点同時攻撃。
夢主は青ざめた顔で見つめることしか出来なかった。
だが予想に反して斎藤は沖田の体を横に吹っ飛ばした。
自身も沖田の繰り出した突きを幾つか受けたようで、ニヤリと嬉しそうに沖田を見据え、片膝を付いて脇腹を押さえている。
「流石ですね斎藤さん、僕のこの突きを横薙ぎに払ってしまうなんて」
「フン、九点当時攻撃、三段突きとは比べ物にならん破壊力だ。君のガタイがもう少しでかけりゃやられていたかもな」
ゆっくりと立ち上がる斎藤だが脇腹から手が離れない。
しっかりと沖田の突きが入ったのだろう、動くと痛むのかもしれない。
「だが幾ら疾かろうが剣が飛び出てくる手元はひとつだ。ならば肉を切らせて骨を絶つ、幾らか突きを喰らってしまうが、こちらは牙突から払いに切り替えればいい。新選組副長、土方歳三が考案した戦術、俺達壬生の狼には基本中の基本だろう」
「ははっ、悔しいですか、仰る通り……」
斎藤も沖田も相手の攻撃に痛みを感じている。
しかし痛みが快感であると言わんばかりの表情だ。愉しくて仕方が無いのだろう。
力なく座り込んだ夢主にはその悦に浸る二人が怖かった。自分には止められない世界に入ってしまったからだ。
「案ずるな、無茶はせんだろう」
容保の慰めも気休めにしか聞こえない。
だがあの二人にはこんなもの序の口だと、容保は続けて諭した。
夢主は小さく頷いて応えると、木刀を手に享楽にふける二人を眺めた。
「時に御老女、失礼ながらこちらは戊辰の際に世継ぎを全て失われたとか」
「えぇ、その通りです。世継ぎも何も、もともとたいした家ではありませんでねぇ、これからも細々と暮らしていくだけでございます」
「そうであるか。……一つ相談なのだが、この道場、かの男に譲ってやる気はないか。肥後守は存じておるか。もし井上の身の上が気に入らないと申すのならば、肥後守は松平の……」
容保の言葉を遮って大家の婆はにこにこと首を振った。
「気にいらん事があるかね、あたしゃあ、あの子らが大好きさ。端からここは井上さんに譲るつもりじゃ。だが、今ここを譲ると言えば律儀な子ぉだ、それ相応のお金を持ってくるじゃろう。あたしにはぁ、もう必要の無い物じゃて」
「そうでしたか……」
「そうさね、道場屋敷を譲る条件があるとしたら、私の骨を埋めてくれる事かね、無縁仏は辛いじゃろう」
驚きの顔を見せる容保に、にかっと歯を見せて笑う大家の婆。物心付いてから身分ある者として育てられた容保には珍しい表情だ。
目の前のこの者は、もしや肥後守こと松平容保の顔を知っているのだろうか、そんな不思議な親しみを得た。
「なんとも愉快な表情であろうか、豊かな婆よ……」
「はははっ、どうなさいました、あんたどこぞのお殿様じゃろう」
「参りましたな……例えそうであろうともそれは昔の話、今はただの隠居の身である」
「そうかい。何やら立派なお人だというのは分かるがね、あたしは頭を下げやせんよ」
「いやはや、その必要は無いのですが、何か不快な思いをさせてしまったようですな」
「そんな事はあるかね。あんたはえぇお人じゃ。井上さんが世話になっておったのは見れば分かる。あたしは井上さんの見事な剣、あれを見ているだけで幸せじゃから。妹さんの旦那様も見事じゃね……あの人の剣は初めて見るけれども、凄い人達じゃ。その上に立っていたお人と思うと、感慨深いんじゃよ」
「真に……」
動乱の京の都で私の助けになってくれた男達。
容保は感慨深く闘う二人を見つめた。
「もう暫く、この時を続けても良いだろう。実に楽しそうだ。これくらいの余興、あっても良かろう」
誰よりも楽しんでいるのは立ち会っている当人達。
容保は愉しそうにぶつかり合っている二人の気が落ち着くのを待った。