59.炸裂間際
夢主名前設定
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未来への希望と悲愴、沖田は両極の感情を抱えて寺を出た。
ぼんやり歩く帰り道はいつも以上に時間が掛かる。
気付けばすっかり日が暮れていた。
「夢主ちゃんは……皆さんが一緒だから安心ですね」
自分のそばにあるもう一つの未来への希望。
新しい命を宿した夢主。
一人では道すがら景色を楽しむことはない沖田だが、今宵はなんだか空を見上げたい気分だ。
綺麗に星が瞬く空を見上げ、夜空を好む知人を次々と思い浮かべた。
夢主はもちろん、斎藤も好きな方だろう。土方も風流を愛する男だった。
永倉や原田は……月や星よりも月見酒だろうか。
「あははっ、星を楽しもうと思っても皆のことばかり浮かぶなぁ」
懐かしい顔の数々に足が速まる。
早く夢主の顔を見て安心しよう、安心させてあげよう。
門をくぐって障子戸が閉じた座敷を見つけた。明かりが漏れている。夢主は起きていた。
「夢主ちゃん、ただいま。開けてもいいかな」
「総司さん!もちろんです、おかえりなさい」
草履を脱ぎ、手早く手拭いで足を清めてそのまま縁側に放置した。
一刻も早く顔を見たい気分だった。
「どうでしたか宴会は」
「楽しかったです!最後にちょっと気分が悪くなっちゃったので左之助さんに送っていただいたんですけど……」
夢主は半身を布団に入れて眠れずにいた。
楽しかった一時を思い返し、左之助の様子を思い出し、今夜の騒動へ思いを馳せていた。
気は晴れないが、体の気持ち悪さは引いている。
「そうでしたか。でも少しでも楽しめて良かったですね」
「はい……総司さんも楽しそうですね、何かあったんですか」
「楽しいことかぁ。そうですね、悲しいことと楽しいことが一緒に起きている感じでしょうか」
「悲しいこと……」
「色々とね」
自分が皆に身の上を黙っているように、沖田にも自分だけの秘密があるのだ。
深く訊かずにおこうと口を閉ざすと、急に押し黙る夢主を案じて沖田が首を傾げた。
「……何かありましたか」
「いえ、左之助さんと二人で話をして……とても気にしているようで……黙っているのが申し訳ないんです」
「秘密かぁ。時には語らない必要もありますが、どちらも辛いですね」
小さく頷く夢主を見て、沖田は小さく笑った。
秘密を一つ共有してみようか、気まぐれに思ったのだ。
「僕の秘密を一つ教えてあげましょうか」
「えっ、総司さんの秘密……ですか」
「あははっ興味ありませんか、僕の秘密」
「すみませんっ、興味はあるんです、むしろ……とっても知りたいです」
馬鹿にしたのではありませんと顔を赤らめて謝る夢主を沖田はくすくすと笑う。
正直なこの人が秘密を抱えているのは大変だろうなぁと不器用さが愛おしく思えた。
「僕はですね、吉原に通っているんですよ」
「知ってます……」
「ははっ、そんな顔しないでください。吉原の妓楼に京で縁のあったご主人がいましてね。その縁で通っているんですよ」
京で走り回っていた頃の沖田を知る人物が吉原にいる。
夢主には驚きだ。
「それから近くの……捨て場にも通っているんです」
「捨て場……」
「亡くなられた廓の女性が……捨てられる場所です。死んだら終わり、無かった事にされちゃうんです。それが可哀想で」
「総司さん……」
「お寺なんですけどね、幼くして廓を出られた子達がいるんですよ。その子達とは吉原でもよく遊んでいたので、今も顔を出しては遊んでいるんです」
「知りませんでした、総司さんがそんなことを」
秘密にするような話ではない。むしろ誇れる話だ。
沖田は周りに触れ回る話ではないと口にしなかっただけだ。
夢主は何も知らず遊び耽っているのかもしれないと勘繰ってしまった自分を恥ずかしく感じた。
「夢主ちゃん、労咳って……直接触れ合わなければ移らないんでしょうか」
「えっ……総司さんまさか」
「心配しないでください、その寺にちょっと縁のある方がいるんですけどね、労咳を発病してしまって。看病してあげたいんです。でも移るのは、僕はまだ死ねませんから。だからしっかり対処したいんです」
「労咳は以前お話したように咳を受けないで、できれば総司さんも口周りを隠して……手洗いうがいに湯浴み……あの、一度小国診療所で聞いてはどうですか、私より詳しいはずです」
「蘭学に通じた恵さんもいますしね、確かに。分かりました。一度詳しく聞いてみます。ありがとう」
「いえ、少しでも良くなるといいですね、その方……」
ふふっと微笑む沖田は悲しむ様子を全く見せない。
本当に強い人……夢主は自分もこうありたいと憧れに近い眼差しを向けた。
「少しだけ責任を感じているんです。筋を通すって訳でもないんですけど、変なものです。ははっ」
廓の出来事など知らぬ夢主には沖田の笑いの意味が分からない。
それでも一つ知らなかった沖田を打ち明けられた気がして嬉しかった。
「私でお力になれることがあれば仰ってくださいね」
「あははっ、ありがとう。でも夢主ちゃんは今はご自愛ください、いいですね」
「はい……」
「斎藤さんのことや周りの皆、夢主ちゃんには見えているだけに気になるでしょうが、気負わなくていいんです。今は見守るだけで。ねっ」
「ふふっ、分かりました」
誰だって秘密ぐらい持っているものです。
沖田の温かい慰めに、夢主の重荷が少しだけ軽くなった気がした。
ぼんやり歩く帰り道はいつも以上に時間が掛かる。
気付けばすっかり日が暮れていた。
「夢主ちゃんは……皆さんが一緒だから安心ですね」
自分のそばにあるもう一つの未来への希望。
新しい命を宿した夢主。
一人では道すがら景色を楽しむことはない沖田だが、今宵はなんだか空を見上げたい気分だ。
綺麗に星が瞬く空を見上げ、夜空を好む知人を次々と思い浮かべた。
夢主はもちろん、斎藤も好きな方だろう。土方も風流を愛する男だった。
永倉や原田は……月や星よりも月見酒だろうか。
「あははっ、星を楽しもうと思っても皆のことばかり浮かぶなぁ」
懐かしい顔の数々に足が速まる。
早く夢主の顔を見て安心しよう、安心させてあげよう。
門をくぐって障子戸が閉じた座敷を見つけた。明かりが漏れている。夢主は起きていた。
「夢主ちゃん、ただいま。開けてもいいかな」
「総司さん!もちろんです、おかえりなさい」
草履を脱ぎ、手早く手拭いで足を清めてそのまま縁側に放置した。
一刻も早く顔を見たい気分だった。
「どうでしたか宴会は」
「楽しかったです!最後にちょっと気分が悪くなっちゃったので左之助さんに送っていただいたんですけど……」
夢主は半身を布団に入れて眠れずにいた。
楽しかった一時を思い返し、左之助の様子を思い出し、今夜の騒動へ思いを馳せていた。
気は晴れないが、体の気持ち悪さは引いている。
「そうでしたか。でも少しでも楽しめて良かったですね」
「はい……総司さんも楽しそうですね、何かあったんですか」
「楽しいことかぁ。そうですね、悲しいことと楽しいことが一緒に起きている感じでしょうか」
「悲しいこと……」
「色々とね」
自分が皆に身の上を黙っているように、沖田にも自分だけの秘密があるのだ。
深く訊かずにおこうと口を閉ざすと、急に押し黙る夢主を案じて沖田が首を傾げた。
「……何かありましたか」
「いえ、左之助さんと二人で話をして……とても気にしているようで……黙っているのが申し訳ないんです」
「秘密かぁ。時には語らない必要もありますが、どちらも辛いですね」
小さく頷く夢主を見て、沖田は小さく笑った。
秘密を一つ共有してみようか、気まぐれに思ったのだ。
「僕の秘密を一つ教えてあげましょうか」
「えっ、総司さんの秘密……ですか」
「あははっ興味ありませんか、僕の秘密」
「すみませんっ、興味はあるんです、むしろ……とっても知りたいです」
馬鹿にしたのではありませんと顔を赤らめて謝る夢主を沖田はくすくすと笑う。
正直なこの人が秘密を抱えているのは大変だろうなぁと不器用さが愛おしく思えた。
「僕はですね、吉原に通っているんですよ」
「知ってます……」
「ははっ、そんな顔しないでください。吉原の妓楼に京で縁のあったご主人がいましてね。その縁で通っているんですよ」
京で走り回っていた頃の沖田を知る人物が吉原にいる。
夢主には驚きだ。
「それから近くの……捨て場にも通っているんです」
「捨て場……」
「亡くなられた廓の女性が……捨てられる場所です。死んだら終わり、無かった事にされちゃうんです。それが可哀想で」
「総司さん……」
「お寺なんですけどね、幼くして廓を出られた子達がいるんですよ。その子達とは吉原でもよく遊んでいたので、今も顔を出しては遊んでいるんです」
「知りませんでした、総司さんがそんなことを」
秘密にするような話ではない。むしろ誇れる話だ。
沖田は周りに触れ回る話ではないと口にしなかっただけだ。
夢主は何も知らず遊び耽っているのかもしれないと勘繰ってしまった自分を恥ずかしく感じた。
「夢主ちゃん、労咳って……直接触れ合わなければ移らないんでしょうか」
「えっ……総司さんまさか」
「心配しないでください、その寺にちょっと縁のある方がいるんですけどね、労咳を発病してしまって。看病してあげたいんです。でも移るのは、僕はまだ死ねませんから。だからしっかり対処したいんです」
「労咳は以前お話したように咳を受けないで、できれば総司さんも口周りを隠して……手洗いうがいに湯浴み……あの、一度小国診療所で聞いてはどうですか、私より詳しいはずです」
「蘭学に通じた恵さんもいますしね、確かに。分かりました。一度詳しく聞いてみます。ありがとう」
「いえ、少しでも良くなるといいですね、その方……」
ふふっと微笑む沖田は悲しむ様子を全く見せない。
本当に強い人……夢主は自分もこうありたいと憧れに近い眼差しを向けた。
「少しだけ責任を感じているんです。筋を通すって訳でもないんですけど、変なものです。ははっ」
廓の出来事など知らぬ夢主には沖田の笑いの意味が分からない。
それでも一つ知らなかった沖田を打ち明けられた気がして嬉しかった。
「私でお力になれることがあれば仰ってくださいね」
「あははっ、ありがとう。でも夢主ちゃんは今はご自愛ください、いいですね」
「はい……」
「斎藤さんのことや周りの皆、夢主ちゃんには見えているだけに気になるでしょうが、気負わなくていいんです。今は見守るだけで。ねっ」
「ふふっ、分かりました」
誰だって秘密ぐらい持っているものです。
沖田の温かい慰めに、夢主の重荷が少しだけ軽くなった気がした。