59.炸裂間際
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遊郭のそばには死んだ遊女が投げ捨てられる場所がある。
吉原では浄閑寺。吉原から歩いて十分ほど、沖田の足なら五分で着くだろうか。
吉原から寺と反対方向へ行けばすぐに墨田川だ。
昨年末、騒動があり隅田川に架かる吾妻橋の橋げたが壊された。
なんでも数百の若い海軍兵達が異形の者達僅か十名ほどに壊滅されたとか。
橋が壊れた以外の真偽は不明だが、吉原でも様々な噂が囁かれていた。
騒動後に当時吉原一の花魁だった華焔が身請けされ廓を去った。
その際、幼い禿が二人、浄閑寺に預けられた。
身請けされた花魁の妹分らしい。
もう一人いた妹分、禿達から見れば姉貴分の新造は遺体となり浄閑寺に入っている。その死は謎に包まれ、廓の者達は口を閉ざしていた。
沖田は昼見世の吉原で一時間ほど過ごしたのち、浄閑寺へ足を向けた。
境内を掃除する者が沖田に目を止めて会釈をする。
「あっ、宗ちゃん!」
「宗ちゃーん!!」
寺の奥から顔立ち身丈がそっくりな愛らしい娘が二人、駆けてきた。
昨年吉原を出たばかりの少女達、身請けされた華焔のお付をしていた禿、あかりとかがりだ。
「宗次郎、しゅくち見せて!」
「しゅくち、見せて〜!」
「あははっ、だから違いますってば、僕は総……井上総司です」
「じゃあ宗ちゃん!」
「宗ちゃーん!!」
「あははっ参ったなぁ、そうちゃん……間違ってはいないんですよね」
僧侶達が静かに笑っている。
沖田はこの寺の者にとって既に馴染みの者だった。
世話になる楼主がある時こっそり教えてくれた。
向かいの赤猫楼で新造が斬り捨てられる事件が起きたらしい、海軍の男が斬り捨て、金で解決したらしいと。
禿の二人が行方不明だったがのちに事件に巻き込まれていたと判明、いきさつは分からないが無事に戻り、姉女郎の華焔の身請けと共に廓を出て浄閑寺に預けられた。
噂は殆ど真実だった。
仔細は謎のまま吉原で広く知れ渡ったのだ。
「今日も遊ぼうよー!」
「遊ぼうー!」
「いいですよ、でも少し待ってくださいね、お姉ちゃんの様子を見てきますから」
「うん、今日も咳してたよ」
「してた。辛そうなの、可哀想」
「そうですか……ちょっと待っててくださいね」
あかり達が身を置いていた赤猫楼前の通りで沖田はこの二人に出会った。
客が入る前、用事を済ませてしまったのか姉女郎の許しを得たのか、通りで遊んでいたのだ。
そこへ通りがかった沖田、元来子供好きである。それが二人にも伝わり、遊ぼうと誘ってきたのだ。
三人で追いかけっこや駒回し、様々な遊戯を楽しんだ。
それから沖田が妓楼へ上がる時、向かいから覗いて暇があれば飛び出してくるようになった。
その二人が吉原を出た。
話を聞いた沖田は堪らずに寺を訪ねたのだ。
今では自由に遊ぶことが出来る。二人の幸せな姿に沖田の笑顔が溢れた。
この寺にはもう一人、沖田が気に掛けている者がいる。
「大丈夫ですか、具合は」
「少し落ち着いています。井上さんのお薬のおかげです。だから……どうぞそのままで」
「……そうですか。帰りに覗きに来ますね」
「ありがとうございます」
寺の奥まった小さな座敷の前で沖田は中の人物と短いやり取りを終えた。
障子の向こうからは小さな咳が聞こえてくる。
沖田は曇った顔であかり達の元へ戻った。
「お姉ちゃん元気だった?」
「お姉ちゃん、咳止まってた?」
「うん……元気だったよ」
弱々しい声で言う沖田は、先程の会話を反芻していた。
部屋の中にいたのは沖田が以前相手をした娘だ。
同じ娘の相手はしたくない、そう思っていたが二度相まみえてしまった。
遊女の数にも限りがあるから当然と言えば当然なのだが。
商売下手の娘があろうことか病を患ってしまった。
若く愛らしい娘だ、多少会話が拙くとも将来有望だったはず。
しかしめぼしい客がつく前に発病。死病の娘を売れっ子達と同じ空間には置けない。
薄暗く清潔とは言えない狭い部屋で療養させられていた娘を沖田が身請けし、世話金を渡し寺に預けたのだ。
人気はいまいち、行く先も暗いとあり、楼主の恩人である沖田は破格の身請け金で済んだ。
情を移したくなかったが出身が西と知りつい身の上話まで聞いてしまい後悔していた。
結局、他人に思えなくなってしまった。
沖田は我ながら愚か、だがこれも何かの縁と成り行きを受け入れた。
「でも労咳だなんて……どうしてかな、付きまとうな……」
「宗ちゃん?」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもありませんよ、さぁ何をして遊びましょうか!」
「木登りー!」
「登るー!」
「えぇっ、危ないですよ、貴女がたには」
「出来るのー!」
「出来るようになったのー!」
駆け出して木に飛び移り、登り始めた二人をいつでも受け止められるよう、沖田も駆け寄って両手を広げた。
明るい空に登っていくさまは、明るい未来を目指しているようで、沖田は穏やかな微笑みで二人を見つめた。
吉原では浄閑寺。吉原から歩いて十分ほど、沖田の足なら五分で着くだろうか。
吉原から寺と反対方向へ行けばすぐに墨田川だ。
昨年末、騒動があり隅田川に架かる吾妻橋の橋げたが壊された。
なんでも数百の若い海軍兵達が異形の者達僅か十名ほどに壊滅されたとか。
橋が壊れた以外の真偽は不明だが、吉原でも様々な噂が囁かれていた。
騒動後に当時吉原一の花魁だった華焔が身請けされ廓を去った。
その際、幼い禿が二人、浄閑寺に預けられた。
身請けされた花魁の妹分らしい。
もう一人いた妹分、禿達から見れば姉貴分の新造は遺体となり浄閑寺に入っている。その死は謎に包まれ、廓の者達は口を閉ざしていた。
沖田は昼見世の吉原で一時間ほど過ごしたのち、浄閑寺へ足を向けた。
境内を掃除する者が沖田に目を止めて会釈をする。
「あっ、宗ちゃん!」
「宗ちゃーん!!」
寺の奥から顔立ち身丈がそっくりな愛らしい娘が二人、駆けてきた。
昨年吉原を出たばかりの少女達、身請けされた華焔のお付をしていた禿、あかりとかがりだ。
「宗次郎、しゅくち見せて!」
「しゅくち、見せて〜!」
「あははっ、だから違いますってば、僕は総……井上総司です」
「じゃあ宗ちゃん!」
「宗ちゃーん!!」
「あははっ参ったなぁ、そうちゃん……間違ってはいないんですよね」
僧侶達が静かに笑っている。
沖田はこの寺の者にとって既に馴染みの者だった。
世話になる楼主がある時こっそり教えてくれた。
向かいの赤猫楼で新造が斬り捨てられる事件が起きたらしい、海軍の男が斬り捨て、金で解決したらしいと。
禿の二人が行方不明だったがのちに事件に巻き込まれていたと判明、いきさつは分からないが無事に戻り、姉女郎の華焔の身請けと共に廓を出て浄閑寺に預けられた。
噂は殆ど真実だった。
仔細は謎のまま吉原で広く知れ渡ったのだ。
「今日も遊ぼうよー!」
「遊ぼうー!」
「いいですよ、でも少し待ってくださいね、お姉ちゃんの様子を見てきますから」
「うん、今日も咳してたよ」
「してた。辛そうなの、可哀想」
「そうですか……ちょっと待っててくださいね」
あかり達が身を置いていた赤猫楼前の通りで沖田はこの二人に出会った。
客が入る前、用事を済ませてしまったのか姉女郎の許しを得たのか、通りで遊んでいたのだ。
そこへ通りがかった沖田、元来子供好きである。それが二人にも伝わり、遊ぼうと誘ってきたのだ。
三人で追いかけっこや駒回し、様々な遊戯を楽しんだ。
それから沖田が妓楼へ上がる時、向かいから覗いて暇があれば飛び出してくるようになった。
その二人が吉原を出た。
話を聞いた沖田は堪らずに寺を訪ねたのだ。
今では自由に遊ぶことが出来る。二人の幸せな姿に沖田の笑顔が溢れた。
この寺にはもう一人、沖田が気に掛けている者がいる。
「大丈夫ですか、具合は」
「少し落ち着いています。井上さんのお薬のおかげです。だから……どうぞそのままで」
「……そうですか。帰りに覗きに来ますね」
「ありがとうございます」
寺の奥まった小さな座敷の前で沖田は中の人物と短いやり取りを終えた。
障子の向こうからは小さな咳が聞こえてくる。
沖田は曇った顔であかり達の元へ戻った。
「お姉ちゃん元気だった?」
「お姉ちゃん、咳止まってた?」
「うん……元気だったよ」
弱々しい声で言う沖田は、先程の会話を反芻していた。
部屋の中にいたのは沖田が以前相手をした娘だ。
同じ娘の相手はしたくない、そう思っていたが二度相まみえてしまった。
遊女の数にも限りがあるから当然と言えば当然なのだが。
商売下手の娘があろうことか病を患ってしまった。
若く愛らしい娘だ、多少会話が拙くとも将来有望だったはず。
しかしめぼしい客がつく前に発病。死病の娘を売れっ子達と同じ空間には置けない。
薄暗く清潔とは言えない狭い部屋で療養させられていた娘を沖田が身請けし、世話金を渡し寺に預けたのだ。
人気はいまいち、行く先も暗いとあり、楼主の恩人である沖田は破格の身請け金で済んだ。
情を移したくなかったが出身が西と知りつい身の上話まで聞いてしまい後悔していた。
結局、他人に思えなくなってしまった。
沖田は我ながら愚か、だがこれも何かの縁と成り行きを受け入れた。
「でも労咳だなんて……どうしてかな、付きまとうな……」
「宗ちゃん?」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもありませんよ、さぁ何をして遊びましょうか!」
「木登りー!」
「登るー!」
「えぇっ、危ないですよ、貴女がたには」
「出来るのー!」
「出来るようになったのー!」
駆け出して木に飛び移り、登り始めた二人をいつでも受け止められるよう、沖田も駆け寄って両手を広げた。
明るい空に登っていくさまは、明るい未来を目指しているようで、沖田は穏やかな微笑みで二人を見つめた。