59.炸裂間際
夢主名前設定
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神谷道場へ戻ると宴は楽しく続いていた。
弥彦は酔いが回り今にも倒れそうで、剣心は相変わらず澄ました笑顔、ちょっと困っているのは家主の薫が上機嫌でべったり絡んでいるからだ。
その脇で妙と燕が笑っている。
「戻ったか。左之助、これを」
「克、こいつは」
左之助は月岡から一枚の絵を渡された。
美しい女の上半身が描かれている。左之助には残念ながら春画ではない。多少衿元が緩んでいるが、しっかり着物を纏った女だ。
それも見覚えのある女。
「今度あの娘に渡してやってくれ。今夜無事に逃げられたらだがな。赤べこの二人に描いたんでな、あの娘も赤べこの者なんだろう」
確かに妙と燕が嬉しそうに錦絵になった自分を見つめている。二人は錦絵が好きだ。
そういえば夢主も橋の上で武者絵を見てたっけか。左之助は絵に目を落とした。
手の上で夢主が伏し目がちに微笑んでいる。
今にも開きそうな唇がやけに艶やかだ。初見で気にならなかった首周りも色っぽく見えてくる。描かれた鎖骨が何とも悩ましい。
「克てめぇ……」
「何だ、俺はただ良かれと思って描いただけだ。いらんのか」
「いや、ちゃんと渡しておくさ。ただちょっと……似てんな、さすがだぜ」
似過ぎて真っ直ぐ見られねぇじゃねぇか。早く本人に渡しちまいたいもんだ。
左之助は絵から目を逸らして折りたたんだ。
やがて襲撃の時が訪れる。
皆が深く眠り込んだ頃合いを見計らい、左之助と月岡は場を抜け出した。
少し間を置いて剣心が目を開いた事など、気付きもしなかった。
警察署では出向中の斎藤が己の居場所と決めた資料室の椅子に腰かけていた。
一般の巡査が立ち寄らず、必要な書類はすぐそこにある。これほど仕事に便利な場所はあるまい。
斎藤はある報告書を読み終えて感想を呟いた。
「道場破りとはまた古風な」
この明治に於いては奪う看板もそう多くは無いだろうに。
武者修行ではなく、道場剣術の撲滅が道場破りの目的らしい。
報告書に斎藤はやれやれと太い息を吐いた。
実戦で活きてこその剣、その考えに異論は無いが、報告書にある雷十太と言う男は方法を間違えたな。雷十太、あの塚山邸にいた男か。
事後の報告には緋村剣心が手首に傷を負い手当てを受けたとある。
剣が握れなくなったらどうするつもりだ。
「随分と弱くなったもんだ」
宿敵の衰えに苛立ちすら感じる。
斎藤の手に力が入り報告書に皺が寄った。
そろそろ接触時か。
考え始めた所へ、一人の部下が血相を変えて飛び込んできた。
「藤田警部補、内務省が爆破されました!」
「何っ」
警備の目を掻い潜っての犯行か、随分と大胆だ。
斎藤は警官達と共に内務省へ駆けつけた。
犯人は既に逃走。しかし斎藤は事件の痕跡を見逃さなかった。地面には複数の足跡。
警官達の足跡もあるが揃って支給品の靴がつける足跡だ。かえって異なる足跡を目立たせている。
草履による足跡が一つ、間違いなく外部の者だ。
深く抉られているのは強い力で踏み込んだからに違いない。
周りに出来た丸いくぼみの数々は地面に落ちた炸裂弾の跡か。
「妙だな」
丸い跡は多かれど、炸裂弾は回収されたのか一つも落ちていない。
こんなに大量の炸裂弾の跡が何故。落としたのだろうか。
火がついていれば辺りは吹き飛びこんな跡は残らない。不発のその証に、爆破が確認されたのは門周辺だけだ。
落としたものに火を点けず全て回収したとなれば尚更、不可解だ。
「これは」
斎藤は小さな縄を拾った。
先端が焦げており、反対側は鋭利な刃物で寸断されたのが見て取れる。
「火薬に着火する前に刀で切り落としたか」
こんな妙技が出来る男はそうそういない。
何らかの形で抜刀斎が絡んだかもしれない。
斎藤は縄を捩って形を潰した。
恐らく抜刀斎が何らかの理由で犯行を察知し、内務省襲撃を阻止したのだろう。
地面に血染みが一切ない。
爆破犯は斬っていないという事か。
「甘いな」
いずれにしろ犯人は逃走。
捜査を始める警官達を尻目に、斎藤は現場を立ち去った。
弥彦は酔いが回り今にも倒れそうで、剣心は相変わらず澄ました笑顔、ちょっと困っているのは家主の薫が上機嫌でべったり絡んでいるからだ。
その脇で妙と燕が笑っている。
「戻ったか。左之助、これを」
「克、こいつは」
左之助は月岡から一枚の絵を渡された。
美しい女の上半身が描かれている。左之助には残念ながら春画ではない。多少衿元が緩んでいるが、しっかり着物を纏った女だ。
それも見覚えのある女。
「今度あの娘に渡してやってくれ。今夜無事に逃げられたらだがな。赤べこの二人に描いたんでな、あの娘も赤べこの者なんだろう」
確かに妙と燕が嬉しそうに錦絵になった自分を見つめている。二人は錦絵が好きだ。
そういえば夢主も橋の上で武者絵を見てたっけか。左之助は絵に目を落とした。
手の上で夢主が伏し目がちに微笑んでいる。
今にも開きそうな唇がやけに艶やかだ。初見で気にならなかった首周りも色っぽく見えてくる。描かれた鎖骨が何とも悩ましい。
「克てめぇ……」
「何だ、俺はただ良かれと思って描いただけだ。いらんのか」
「いや、ちゃんと渡しておくさ。ただちょっと……似てんな、さすがだぜ」
似過ぎて真っ直ぐ見られねぇじゃねぇか。早く本人に渡しちまいたいもんだ。
左之助は絵から目を逸らして折りたたんだ。
やがて襲撃の時が訪れる。
皆が深く眠り込んだ頃合いを見計らい、左之助と月岡は場を抜け出した。
少し間を置いて剣心が目を開いた事など、気付きもしなかった。
警察署では出向中の斎藤が己の居場所と決めた資料室の椅子に腰かけていた。
一般の巡査が立ち寄らず、必要な書類はすぐそこにある。これほど仕事に便利な場所はあるまい。
斎藤はある報告書を読み終えて感想を呟いた。
「道場破りとはまた古風な」
この明治に於いては奪う看板もそう多くは無いだろうに。
武者修行ではなく、道場剣術の撲滅が道場破りの目的らしい。
報告書に斎藤はやれやれと太い息を吐いた。
実戦で活きてこその剣、その考えに異論は無いが、報告書にある雷十太と言う男は方法を間違えたな。雷十太、あの塚山邸にいた男か。
事後の報告には緋村剣心が手首に傷を負い手当てを受けたとある。
剣が握れなくなったらどうするつもりだ。
「随分と弱くなったもんだ」
宿敵の衰えに苛立ちすら感じる。
斎藤の手に力が入り報告書に皺が寄った。
そろそろ接触時か。
考え始めた所へ、一人の部下が血相を変えて飛び込んできた。
「藤田警部補、内務省が爆破されました!」
「何っ」
警備の目を掻い潜っての犯行か、随分と大胆だ。
斎藤は警官達と共に内務省へ駆けつけた。
犯人は既に逃走。しかし斎藤は事件の痕跡を見逃さなかった。地面には複数の足跡。
警官達の足跡もあるが揃って支給品の靴がつける足跡だ。かえって異なる足跡を目立たせている。
草履による足跡が一つ、間違いなく外部の者だ。
深く抉られているのは強い力で踏み込んだからに違いない。
周りに出来た丸いくぼみの数々は地面に落ちた炸裂弾の跡か。
「妙だな」
丸い跡は多かれど、炸裂弾は回収されたのか一つも落ちていない。
こんなに大量の炸裂弾の跡が何故。落としたのだろうか。
火がついていれば辺りは吹き飛びこんな跡は残らない。不発のその証に、爆破が確認されたのは門周辺だけだ。
落としたものに火を点けず全て回収したとなれば尚更、不可解だ。
「これは」
斎藤は小さな縄を拾った。
先端が焦げており、反対側は鋭利な刃物で寸断されたのが見て取れる。
「火薬に着火する前に刀で切り落としたか」
こんな妙技が出来る男はそうそういない。
何らかの形で抜刀斎が絡んだかもしれない。
斎藤は縄を捩って形を潰した。
恐らく抜刀斎が何らかの理由で犯行を察知し、内務省襲撃を阻止したのだろう。
地面に血染みが一切ない。
爆破犯は斬っていないという事か。
「甘いな」
いずれにしろ犯人は逃走。
捜査を始める警官達を尻目に、斎藤は現場を立ち去った。