58.微熱な心地
夢主名前設定
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触れた体が温かく感じたが手袋越しでは分からない。
それで額を寄せたのだが、分かったのは恥じらいで熱が上昇していることだけ。
「ただの気のせいだ」
そう言うが斎藤は夢主の顔を見つめている。
気のせいも続くと気のせいでは無いと思えてくる。
先日も思い過ごしと断じた夢主の体温、今も心持ち高い気がするが体はすっかり回復しているようだ。
穴が開くほど見つめられ、夢主が居た堪れずに目を伏せてしまうまで見つめ続けた。
「斎藤さん心配性ですね」
「阿呆、君こそやけに心配性になったんじゃないか」
「なんのことです」
横から口を出した沖田が「心当たりはありませんが」と首を捻る。
まぁ興味がないより感謝できる。これ以上問い質す必要はない。
斎藤は肩の荷が下りたように体が軽くなるのを感じた。
「もういい、帰るぞ。顔を見て安心した。ちょっと署の方で立て込んでいてな。夢主を頼んだ」
「お任せください」
それから夢主を見つめ直せば「えへへ」と分かりやすい誤魔化し笑いが見える。
素直過ぎて愛おしい嘘だ。
「夢主」
「はい」
「お前、俺に何か隠していないか」
「えっ、あぁっうぇっっと、……何も」
「そうか。一安心だ」
帰る間際、不意を突いてみたがこれは若干の後悔を招いた。
いっそ放っておけば良かったか。隠し事が下手すぎて問い詰める気にもならん。
斎藤はまたすぐ明るみに出る可愛い隠し事とだろうと気に留めなかった。
「一さんっ」
行こうとすると腕を掴まれた。
夢主の不意打ちはどうしてこうも胸を突く。愛らしい仕草で心の奥を熱くする。
んっ、と何も感じていない素振りで肩越しに見返ると、赤らんだ顔で俺を見上げている。
潤んでいるのは瞳ばかりか、唇まで艶やかに濡れている。
全くどうしてお前はこうも俺を誘うか・・・。
「どうした」
「えっ・・・と、一さん・・・大好きです」
無自覚に夫の気持ちを昂らせていると知らず、とどめの一言を聞かされた。
知人の前でなければ、家の中なら押し倒しているところだ。
せめて振り向いて体に触れようか・・・考えていると、か細い腕が腰に回る。
そっと抱きつく夢主。
白い腕の中でゆっくり回り夢主を正面から見下ろすと、相変わらずの濡れた瞳で見上げられた。
ここまで自制できている己を我ながら褒め称えたいもんだ。
「随分機嫌が良さそうだ。結構なことで」
「ふふっ、一さんに会えたからです。一さんに会えて、総司さんに会えて・・・みんなに出会っていろんなことがあって、今の私が・・・」
「良く分からんがご機嫌で何より。俺も同じだ」
何を考えてそんな事を言い出すのか。
出会えた喜びを噛みしめ直すまでの素晴らしい出来事があったのか。しかし話してくれないとは参ったもんだ。
「やれやれ」
心の声が漏れてしまった。
美しい髪を手で梳きながら、堪えられずに唇を重ねていた。
そのまま強く抱きしめようとすると夢主の手が俺の体を押し返す。
なにゆえにと顔を離せば、
「強いです、優しく・・・してください」
誘惑にも聞こえるどこか擽ったい言葉で咎められた。
いつもと変わらぬ抱擁のつもりだったが、病み上がりの体には強かったらしい。
「すまん」
色付いた頬に触れながら素直に詫びてそっと抱き直すと、やけに顔を擦り付けて甘えてくる。
そんなに肌恋しかったか。
体の奥が熱を帯び始めるが戻らなければならないのが正直辛い。
「また時間を作るさ。署長に礼を言わんとな」
「ふふっ、私からもお礼を伝えてください」
「あぁ」
最後にもう一度、口吸いを残して斎藤は井上道場をあとにした。
「本当にいいんですか、言わなくて」
「はい、今はまだ・・・お腹が出て来る頃にはきっと伝えられます」
「そうですか。ちょうど帯祝の頃でしょうかね、でしたら僕もそれまでお付き合いします」
「お願いします」
勘の鋭い斎藤は勘付くのではと思ったが、妻の懐妊など余程気に掛けていなければ日常で閃かないのだろう。
縁側に腰掛けた二人。
斎藤が重責の中で修羅達と向き合い、責務を果たして再び東京に戻ってくるまで、大切な命を守ろうと誓った。
温かな風が夢主の体を撫でている。近くの小川にはもうすぐ蛍が舞い始めるだろう。
それで額を寄せたのだが、分かったのは恥じらいで熱が上昇していることだけ。
「ただの気のせいだ」
そう言うが斎藤は夢主の顔を見つめている。
気のせいも続くと気のせいでは無いと思えてくる。
先日も思い過ごしと断じた夢主の体温、今も心持ち高い気がするが体はすっかり回復しているようだ。
穴が開くほど見つめられ、夢主が居た堪れずに目を伏せてしまうまで見つめ続けた。
「斎藤さん心配性ですね」
「阿呆、君こそやけに心配性になったんじゃないか」
「なんのことです」
横から口を出した沖田が「心当たりはありませんが」と首を捻る。
まぁ興味がないより感謝できる。これ以上問い質す必要はない。
斎藤は肩の荷が下りたように体が軽くなるのを感じた。
「もういい、帰るぞ。顔を見て安心した。ちょっと署の方で立て込んでいてな。夢主を頼んだ」
「お任せください」
それから夢主を見つめ直せば「えへへ」と分かりやすい誤魔化し笑いが見える。
素直過ぎて愛おしい嘘だ。
「夢主」
「はい」
「お前、俺に何か隠していないか」
「えっ、あぁっうぇっっと、……何も」
「そうか。一安心だ」
帰る間際、不意を突いてみたがこれは若干の後悔を招いた。
いっそ放っておけば良かったか。隠し事が下手すぎて問い詰める気にもならん。
斎藤はまたすぐ明るみに出る可愛い隠し事とだろうと気に留めなかった。
「一さんっ」
行こうとすると腕を掴まれた。
夢主の不意打ちはどうしてこうも胸を突く。愛らしい仕草で心の奥を熱くする。
んっ、と何も感じていない素振りで肩越しに見返ると、赤らんだ顔で俺を見上げている。
潤んでいるのは瞳ばかりか、唇まで艶やかに濡れている。
全くどうしてお前はこうも俺を誘うか・・・。
「どうした」
「えっ・・・と、一さん・・・大好きです」
無自覚に夫の気持ちを昂らせていると知らず、とどめの一言を聞かされた。
知人の前でなければ、家の中なら押し倒しているところだ。
せめて振り向いて体に触れようか・・・考えていると、か細い腕が腰に回る。
そっと抱きつく夢主。
白い腕の中でゆっくり回り夢主を正面から見下ろすと、相変わらずの濡れた瞳で見上げられた。
ここまで自制できている己を我ながら褒め称えたいもんだ。
「随分機嫌が良さそうだ。結構なことで」
「ふふっ、一さんに会えたからです。一さんに会えて、総司さんに会えて・・・みんなに出会っていろんなことがあって、今の私が・・・」
「良く分からんがご機嫌で何より。俺も同じだ」
何を考えてそんな事を言い出すのか。
出会えた喜びを噛みしめ直すまでの素晴らしい出来事があったのか。しかし話してくれないとは参ったもんだ。
「やれやれ」
心の声が漏れてしまった。
美しい髪を手で梳きながら、堪えられずに唇を重ねていた。
そのまま強く抱きしめようとすると夢主の手が俺の体を押し返す。
なにゆえにと顔を離せば、
「強いです、優しく・・・してください」
誘惑にも聞こえるどこか擽ったい言葉で咎められた。
いつもと変わらぬ抱擁のつもりだったが、病み上がりの体には強かったらしい。
「すまん」
色付いた頬に触れながら素直に詫びてそっと抱き直すと、やけに顔を擦り付けて甘えてくる。
そんなに肌恋しかったか。
体の奥が熱を帯び始めるが戻らなければならないのが正直辛い。
「また時間を作るさ。署長に礼を言わんとな」
「ふふっ、私からもお礼を伝えてください」
「あぁ」
最後にもう一度、口吸いを残して斎藤は井上道場をあとにした。
「本当にいいんですか、言わなくて」
「はい、今はまだ・・・お腹が出て来る頃にはきっと伝えられます」
「そうですか。ちょうど帯祝の頃でしょうかね、でしたら僕もそれまでお付き合いします」
「お願いします」
勘の鋭い斎藤は勘付くのではと思ったが、妻の懐妊など余程気に掛けていなければ日常で閃かないのだろう。
縁側に腰掛けた二人。
斎藤が重責の中で修羅達と向き合い、責務を果たして再び東京に戻ってくるまで、大切な命を守ろうと誓った。
温かな風が夢主の体を撫でている。近くの小川にはもうすぐ蛍が舞い始めるだろう。