58.微熱な心地
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何故だか分からないが気配を消して門に近付く己がいた。
夢主の声が聞こえる。楽しそうだ。
健やかな笑い声、相手は沖田君か。問題ない。
空を切る音が聞こえる。真剣を手に一人稽古しながら話し相手か。なかなか熱心だな。それにありがたい。
斎藤はフッと口元を緩めて気を解いた。
門前に立つや振り返る家主。反応の疾さは流石だ。
「斎藤さん、昼間に立ち寄るとは珍しいですね」
「署長命令だ」
二人の会話を聞いて、斎藤から見えていなかった夢主がひょいと姿を現した。
「一さん!」
「危ないですよ」
腰掛けていた縁側からひょいと下りた家内を過度に気遣う知人。納刀する手が危ういほど焦った反応を見せるとは。
この程度なら転んでも少々肌を擦り剝くだけ。いつの間に彼は心配性になったのか。
斎藤は違和感を覚えつつも傍へ寄り、夢主を支える沖田と入れ替わった。
「署長さんのご指示なんですか」
「まぁ野暮用だ。変わりはないか、息災か」
「はい。一さんのお顔が見られて元気にならない訳がありません」
ふふっと柔らかく笑んで甘えてくる夢主。
そのまま腰に手を回して縁側に座り直させた。
「何かあったのか、よそよそしいな」
「えっ、そうでしょうか?私っ、あのっ、あ!赤べこをお休みしています!」
「そうか」
何を慌てている。
よそよそしいと言ったのは沖田の態度だったが、夢主までもが挙動不審だ。
助言を受け入れ仕事を休むのは喜ばしいが、さて、この違和感をどうしたものか。
斎藤は二人を交互に見た。似たような苦笑いでありながら揃って機嫌がいい。
「沖田君もお前もやけにご機嫌だな。何かあったのか」
「えっ、いいえ、何も。何もありませんよ」
にこにこと締まりのない顔。
照れ臭そうに頬を染めている意味も分からない。
そんなに俺に会えて嬉しいか、とは流石に聞く気になれない。
「ちょっといいか沖田君」
「はい、なんでしょう」
沖田は後ろ首に手を組んでフンフンと楽しそうだ。
耳を貸せと指をクイと動かすと、大股で庭に出る斎藤に続き、沖田は跳ぶように移動して夢主から距離を取った。
「君は署長と通じているのか」
「署長さん?」
「とぼけるな、浦村署長だ」
「町の署長さんぐらい知っていますよ。あちらも町の道場ぐらい把握済みでしょう、僕が誰かは知らないと思いますけど」
「ちっ、署長め」
「どうしたんです」
「ちょっとお節介を受けただけだ」
首を傾げる沖田を置いて夢主の隣へ戻ると、何を話していたのですかと上目で見上げてくる。
詮索の目も夢主から向けられれば悪い気がしない。
嬉しそうに瞬く無警戒の眼差しは、大人の色事にそうと知らず興味を持つ生娘のような危うさがある。
見ていると少々苛めたくなる可愛さだ。
「浦村署長は思った以上に侮れない御仁のようだ。流石は幕末の生き残り」
「署長さんが……ですか。何かあったのですか」
「いいや、全くどいつもこいつも食えない男だ」
大きな白い手で夢主の頭を鷲掴んだ。
温かな手は髪を撫で下ろして細い肩を引き寄せるが、何を思ったのか突然夢主の前髪をすくい上げて額をあてがった。
「あっ、一さ……どうしたんですか」
額を通して伝わる体温。
固定された体、突然のことで夢主の体温が上がっていく。
「……いや、何でもない」
沖田の目の前で何かされると思っているのか、夢主から大きな鼓動が響いてくる。
悪戯心が芽生えるが、斎藤はニッと笑むだけですぐに顔を離し、前髪を大きく揺らした。
夢主の声が聞こえる。楽しそうだ。
健やかな笑い声、相手は沖田君か。問題ない。
空を切る音が聞こえる。真剣を手に一人稽古しながら話し相手か。なかなか熱心だな。それにありがたい。
斎藤はフッと口元を緩めて気を解いた。
門前に立つや振り返る家主。反応の疾さは流石だ。
「斎藤さん、昼間に立ち寄るとは珍しいですね」
「署長命令だ」
二人の会話を聞いて、斎藤から見えていなかった夢主がひょいと姿を現した。
「一さん!」
「危ないですよ」
腰掛けていた縁側からひょいと下りた家内を過度に気遣う知人。納刀する手が危ういほど焦った反応を見せるとは。
この程度なら転んでも少々肌を擦り剝くだけ。いつの間に彼は心配性になったのか。
斎藤は違和感を覚えつつも傍へ寄り、夢主を支える沖田と入れ替わった。
「署長さんのご指示なんですか」
「まぁ野暮用だ。変わりはないか、息災か」
「はい。一さんのお顔が見られて元気にならない訳がありません」
ふふっと柔らかく笑んで甘えてくる夢主。
そのまま腰に手を回して縁側に座り直させた。
「何かあったのか、よそよそしいな」
「えっ、そうでしょうか?私っ、あのっ、あ!赤べこをお休みしています!」
「そうか」
何を慌てている。
よそよそしいと言ったのは沖田の態度だったが、夢主までもが挙動不審だ。
助言を受け入れ仕事を休むのは喜ばしいが、さて、この違和感をどうしたものか。
斎藤は二人を交互に見た。似たような苦笑いでありながら揃って機嫌がいい。
「沖田君もお前もやけにご機嫌だな。何かあったのか」
「えっ、いいえ、何も。何もありませんよ」
にこにこと締まりのない顔。
照れ臭そうに頬を染めている意味も分からない。
そんなに俺に会えて嬉しいか、とは流石に聞く気になれない。
「ちょっといいか沖田君」
「はい、なんでしょう」
沖田は後ろ首に手を組んでフンフンと楽しそうだ。
耳を貸せと指をクイと動かすと、大股で庭に出る斎藤に続き、沖田は跳ぶように移動して夢主から距離を取った。
「君は署長と通じているのか」
「署長さん?」
「とぼけるな、浦村署長だ」
「町の署長さんぐらい知っていますよ。あちらも町の道場ぐらい把握済みでしょう、僕が誰かは知らないと思いますけど」
「ちっ、署長め」
「どうしたんです」
「ちょっとお節介を受けただけだ」
首を傾げる沖田を置いて夢主の隣へ戻ると、何を話していたのですかと上目で見上げてくる。
詮索の目も夢主から向けられれば悪い気がしない。
嬉しそうに瞬く無警戒の眼差しは、大人の色事にそうと知らず興味を持つ生娘のような危うさがある。
見ていると少々苛めたくなる可愛さだ。
「浦村署長は思った以上に侮れない御仁のようだ。流石は幕末の生き残り」
「署長さんが……ですか。何かあったのですか」
「いいや、全くどいつもこいつも食えない男だ」
大きな白い手で夢主の頭を鷲掴んだ。
温かな手は髪を撫で下ろして細い肩を引き寄せるが、何を思ったのか突然夢主の前髪をすくい上げて額をあてがった。
「あっ、一さ……どうしたんですか」
額を通して伝わる体温。
固定された体、突然のことで夢主の体温が上がっていく。
「……いや、何でもない」
沖田の目の前で何かされると思っているのか、夢主から大きな鼓動が響いてくる。
悪戯心が芽生えるが、斎藤はニッと笑むだけですぐに顔を離し、前髪を大きく揺らした。