58.微熱な心地
夢主名前設定
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「いい子ですね、弥彦君」
「とってもしっかり者で優しい子です」
「ぶつかって来た頃からすっかり成長しましたね。頼もしいなぁ。今日僕が出会った少年も彼みたいに真っ直ぐ伸びてくれたらいいんですけど」
「少年?」
昼間見かけた少年。
裏の穴から侵入し、道場をこっそり覗いていた。真っ白な外套を羽織って顔も隠していた。
驚いた拍子に覆いが外れ見えたのは顔に浮かぶ拗ねた性格。同時に、熱い思いを抱える瞳の煌めきも沖田は見逃さなかった。
「それ、由太郎君です!」
「由太郎、少年の名前ですか」
語られた特徴から閃いた夢主は由太郎の名を叫んだ。
「はい、道場破りをする雷十太って男性のお世話をする……塚山商会のお子さんです。前川道場に現れるはず……」
「へぇ、どうなるんです」
「緋村さんが相手になって追い返すんです。でも最後に由太郎君、手の腱を切る大怪我を……」
「なんですって」
「ご家族とドイツに渡って手術を……それも由太郎君には必要な経験なのかもしれません。現実と向き合い本当の強さを考えて、立派な大人に成長する為の……」
「そうですか……全く素直じゃなく可愛げ無かったんですけどね、道場を覗く姿はとても……顔を隠しても伝わりました。剣術に憧れているんだなと……」
燻る熱を剣術に向けられないまま、剣を握る術を失ってしまうのか、あの少年は。
あっさり引き下がってしまった。もう少し手はなかったのかと沖田は自分を責めた。
「もう少し強引に誘えば良かったな」
「大丈夫ですよ、彼は怪我を乗り越えて神谷道場の門下生になるんです!」
「へぇ、神谷道場の。それはいいですね、あの弥彦君も神谷道場の子なんでしょう」
「はい、二人は好敵手。離れても心の中で相手を思い、切磋琢磨するはずです」
「負けたくない相手と言うのは自分を強くする存在ですね、僕も試衛館の頃から斎藤さんにだけは負けたくありませんでしたから」
「ふふっ、その辺は総司さんの方が上手なんじゃ……」
「五分ですよ、見事なまでにね」
勝って負けての繰り返し、勝負つかずの手合わせも多かった。
型が綺麗な竹刀の打ち合いではない、真剣と同じ重みの木刀稽古で、繰り出す技は何でもあり。
審判が堪らず「それまで!」と止めに入る、どちらもちょっとやそっとの怪我では済みそうにない行き過ぎた熱い稽古も多かった。
懐かしい時に思いを馳せる沖田を見て、夢主は「少しだけ羨ましいです」と笑った。
「とってもしっかり者で優しい子です」
「ぶつかって来た頃からすっかり成長しましたね。頼もしいなぁ。今日僕が出会った少年も彼みたいに真っ直ぐ伸びてくれたらいいんですけど」
「少年?」
昼間見かけた少年。
裏の穴から侵入し、道場をこっそり覗いていた。真っ白な外套を羽織って顔も隠していた。
驚いた拍子に覆いが外れ見えたのは顔に浮かぶ拗ねた性格。同時に、熱い思いを抱える瞳の煌めきも沖田は見逃さなかった。
「それ、由太郎君です!」
「由太郎、少年の名前ですか」
語られた特徴から閃いた夢主は由太郎の名を叫んだ。
「はい、道場破りをする雷十太って男性のお世話をする……塚山商会のお子さんです。前川道場に現れるはず……」
「へぇ、どうなるんです」
「緋村さんが相手になって追い返すんです。でも最後に由太郎君、手の腱を切る大怪我を……」
「なんですって」
「ご家族とドイツに渡って手術を……それも由太郎君には必要な経験なのかもしれません。現実と向き合い本当の強さを考えて、立派な大人に成長する為の……」
「そうですか……全く素直じゃなく可愛げ無かったんですけどね、道場を覗く姿はとても……顔を隠しても伝わりました。剣術に憧れているんだなと……」
燻る熱を剣術に向けられないまま、剣を握る術を失ってしまうのか、あの少年は。
あっさり引き下がってしまった。もう少し手はなかったのかと沖田は自分を責めた。
「もう少し強引に誘えば良かったな」
「大丈夫ですよ、彼は怪我を乗り越えて神谷道場の門下生になるんです!」
「へぇ、神谷道場の。それはいいですね、あの弥彦君も神谷道場の子なんでしょう」
「はい、二人は好敵手。離れても心の中で相手を思い、切磋琢磨するはずです」
「負けたくない相手と言うのは自分を強くする存在ですね、僕も試衛館の頃から斎藤さんにだけは負けたくありませんでしたから」
「ふふっ、その辺は総司さんの方が上手なんじゃ……」
「五分ですよ、見事なまでにね」
勝って負けての繰り返し、勝負つかずの手合わせも多かった。
型が綺麗な竹刀の打ち合いではない、真剣と同じ重みの木刀稽古で、繰り出す技は何でもあり。
審判が堪らず「それまで!」と止めに入る、どちらもちょっとやそっとの怪我では済みそうにない行き過ぎた熱い稽古も多かった。
懐かしい時に思いを馳せる沖田を見て、夢主は「少しだけ羨ましいです」と笑った。