58.微熱な心地
夢主名前設定
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赤べこの暖簾を捲り戸を開けると妙と目が合い、歓迎の笑顔を向けられた。
だが夢主は笑顔を返せずに、そのまま戸を閉めていた。
驚いた妙が店の外に出てくると、顔色を悪くした夢主が店先で屈んでいる。
「どうしたん!夢主ちゃん大丈夫なん?!」
「すみませっ……急に……」
店に入った途端だった。
夢主は食事処赤べこの名物、牛鍋……肉の臭いに吐き気を覚えた。慣れ親しんでいるはずの食欲そそる香りを拒絶する体に自分でも驚く。
店の名物で吐き気とは、妙にはとても伝えられない。
……これ、悪阻なのかな……
喉元に込み上げる苦くて酸味を帯びたものを堪え、夢主は苦しげに微笑み返した。
「とにかく中でお水でも」
「あの……中はちょっと……」
「そぉ、せやったら裏で少し休んで、それから弥彦君に送ってもらうといいわ、もうすぐ上がりの時間だから」
入店を断る理由は分からない妙だが、ならばと店の裏に案内した。
裏に回ると蔵から食材を運ぶ従業員が二人見える。
夢主は裏口そばに積まれた石に静かに腰掛けた。
蔵の前にいるのはどちらもまだ大人には至らぬ少年少女。
弥彦と燕が楽しそうに大きな袋を運び出している。
とは言っても実質弥彦が一人で荷運びをしていた。
両手を空にして燕がこの場にいる理由が見当たらないが、妙はそんな二人を優しい眼差しで見守っていた。
「三条燕ちゃん、可愛い子でしょう。まだちょっと慣れないんやけど一生懸命頑張ってくれてはるわ」
「燕ちゃん……」
燕が「弥彦君」と呼ぶ小さな声が聞こえた。
弥彦ちゃんと呼ぶ時期は過ぎていた。
弥彦が良からぬ大人達に立ち向かい、勝ったのを悟る。一人で燕と赤べこを守ったのだ。
屋根から見守る剣心と左之助がいたのだが、真っ直ぐな思いで挑んだ戦いは確実に弥彦を強くした。
「可愛い二人よな」
「ふふっ、そうですね」
妙に渡された水を口に含むと、胸に残っていたムカつきが消えていった。
仕事に励む二人がとても微笑ましい。
目を細めた途端、何も無い場所で燕がつまずいた。
おっちょこちょいでどこか抜けている燕。
すぐさま弥彦が荷を下ろして助けに入り、燕が差し伸べられた手を掴む。立ち上がると互いに恥じらいながら手を離す姿がなんとも初々しい。
夢主と妙は黙って目を合わせ、こっそり微笑んだ。
だが夢主は笑顔を返せずに、そのまま戸を閉めていた。
驚いた妙が店の外に出てくると、顔色を悪くした夢主が店先で屈んでいる。
「どうしたん!夢主ちゃん大丈夫なん?!」
「すみませっ……急に……」
店に入った途端だった。
夢主は食事処赤べこの名物、牛鍋……肉の臭いに吐き気を覚えた。慣れ親しんでいるはずの食欲そそる香りを拒絶する体に自分でも驚く。
店の名物で吐き気とは、妙にはとても伝えられない。
……これ、悪阻なのかな……
喉元に込み上げる苦くて酸味を帯びたものを堪え、夢主は苦しげに微笑み返した。
「とにかく中でお水でも」
「あの……中はちょっと……」
「そぉ、せやったら裏で少し休んで、それから弥彦君に送ってもらうといいわ、もうすぐ上がりの時間だから」
入店を断る理由は分からない妙だが、ならばと店の裏に案内した。
裏に回ると蔵から食材を運ぶ従業員が二人見える。
夢主は裏口そばに積まれた石に静かに腰掛けた。
蔵の前にいるのはどちらもまだ大人には至らぬ少年少女。
弥彦と燕が楽しそうに大きな袋を運び出している。
とは言っても実質弥彦が一人で荷運びをしていた。
両手を空にして燕がこの場にいる理由が見当たらないが、妙はそんな二人を優しい眼差しで見守っていた。
「三条燕ちゃん、可愛い子でしょう。まだちょっと慣れないんやけど一生懸命頑張ってくれてはるわ」
「燕ちゃん……」
燕が「弥彦君」と呼ぶ小さな声が聞こえた。
弥彦ちゃんと呼ぶ時期は過ぎていた。
弥彦が良からぬ大人達に立ち向かい、勝ったのを悟る。一人で燕と赤べこを守ったのだ。
屋根から見守る剣心と左之助がいたのだが、真っ直ぐな思いで挑んだ戦いは確実に弥彦を強くした。
「可愛い二人よな」
「ふふっ、そうですね」
妙に渡された水を口に含むと、胸に残っていたムカつきが消えていった。
仕事に励む二人がとても微笑ましい。
目を細めた途端、何も無い場所で燕がつまずいた。
おっちょこちょいでどこか抜けている燕。
すぐさま弥彦が荷を下ろして助けに入り、燕が差し伸べられた手を掴む。立ち上がると互いに恥じらいながら手を離す姿がなんとも初々しい。
夢主と妙は黙って目を合わせ、こっそり微笑んだ。