57.宿すもの、宿る者
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裾を整えて座り直す間、夢主は手を清める恵から目を離せなかった。
どんな診断が下るのだろう。
「赤ちゃんが出来るか出来ないかと言ったら、出来るわよ」
「本当ですか!」
予想に反して嬉しい結果が聞かされ、夢主は顔に花を咲かせた。
斎藤が得られたはずの幸せを一つ奪ってしまうのでは、そんな悲しい考えを密かに抱いていた。
記憶のまま、温かな幸せを共に得られるかもしれない。
自分が原因ではという不安から解放され、安堵と感激が込み上げてくる。
「えぇ、既にご懐妊よ。二ヶ月といったところかしら、おめでとう」
「えっ、懐妊……」
「赤ちゃんがいるのよ、宿ってふた月ぐらいね」
「私、妊娠してるんですか……二ヶ月……」
身籠れるか否かの問いに対し、最終的に告げられたのは全く予想だにしなかった答え。
恵は夢主のお腹に命が芽生えていると宣言した。
「何よ、心当たりないの?貴女夫婦者なんでしょう」
「いえ、あり……ます。ありますけど……」
考えるより先に心は勝手に二ヶ月前の日々を思い返していた。
心当たりはある。
月明かりが消えて外が白むまで抱き合ったあの夜だろうか。深く深く愛し合った夜だ。
しかしその夜を覆うように蘇る先日の情事。
激しく抱かれたあの夜は……
夢主は赤い顔で小さく顔を振っていた。
戸惑いながらも嬉しさが込み上げ、涙が静かに頬を伝っていた。
「ふふっ、良かったわね」
「はい、ありがとうございますっ……あの、二ヶ月って、お腹に赤ちゃんがいても、その、しちゃっても大丈夫なんですか」
「は?」
潤み声で疑問をぶつける夢主、聞き取り辛い恵は何を言っているのと首を傾げた。
「その……二ヶ月より後、つい先日も旦那様と、結構……激し……く」
正直に相談してしまう自分が恥ずかしい。
夢主は真っ赤な顔で事実を告げて訊ねた。
「あぁ、そりゃあ直接お腹の赤ちゃん叩く訳じゃなし平気よ。でも暫くはやめなさい、旦那さんにもよく言うことね、お熱いのは羨ましいけど」
「はっ、はい!あの、じゃあ何て言うか、おっ、落ち着くのはいつからですか」
「落ち着く?まずは夢主さんに落ち着いて欲しいわよ」
ふぅと優しい溜め息を吐いた恵が手拭いを差し出した。
柔らかい布地が涙を吸い取ってくれる。
恵の優しさそのものに触れているようで、夢主は更に涙が溢れた。
「あっ、ごめ……ごめんなさい、お腹の赤ちゃんが安定して、その……流れる恐れが減る頃は……」
「そうね、いつだって体には気を付けなくちゃいけないけど三ヶ月って目安かしら」
「三ヶ月……」
「最近調子が悪いとか、普段と違う日があったんじゃないかしら。急に気持ち悪くなったり眩暈がしたり、時に眠くなって起きられないとか。人それぞれだから無理せず体の要求に従うことね。食欲が無かったら相談なさい」
「わかりました、ありがとうございます。あの……これからも相談に乗ってもらってもいいですか、どうしたらいいかわからなくて……」
「もちろんよ。周りに頼れる人はいないの、親姉妹に近所のおかみさんとか」
「ひとり、大家のお婆さんが……でもまだ周りの皆には内緒にしたいんです。薫さんや緋村さん……左之助さん……」
「あら、皆とも知り合いなのね」
「はい。それぞれ出会ったのは別々なんですけど皆さんご近所ですし、知り合いの知り合いは知り合いと言いますか」
「いいわね、みんな仲が良くて」
「恵さんもですよ!これから本当にお世話になりますから!あの、赤べこで働いているので遊びに来てくださいね。あ、仕事減らそうと思ってたんだ……」
「赤べこ?あんな繁盛店で走り回ったら大変よ、せめて短い時間、皿洗いか注文取りだけになさい!立ちっぱなしも駄目!」
全てが初めての夢主には親身に助言をくれる恵が神々しく見える。
懸命に耳を傾け、ひとつひとつの助言に何度も大きく頷いた。
「何か心配事があればすぐに私を呼んでちょうだいね、ここにいるから。旦那様も一度一緒に連れていらっしゃいよ」
「それは……旦那様、とても大変なお仕事に就いてて……心配事を増やしたくないんです。ですから暫くは黙っていようかと」
「どうして、心配事だなんて!力になるに決まってるじゃないの、教えてあげなさいよ!」
こればかりは夢主が首を横に振った。
「何か事情があるみたいね、いいわ、分かったわよ。私だって色々あった身だもの、貴女にも何かあって不思議じゃないわ。ただし無理は禁物!何かあったら私から旦那さんに話しますからね!」
「すみません、わかりました。お世話になります。本当にありがとう……」
「いいのよ、おめでとう」
きつい口調とは裏腹に、恵は穏やかな微笑みで夢主を祝った。
患者の為に生きようと決めて、初めて診たのが懐妊の知らせ。
頑張らなくてはならない身の自分には過ぎた体験と、恵は心の中で夢主に感謝の言葉を述べた。
どんな診断が下るのだろう。
「赤ちゃんが出来るか出来ないかと言ったら、出来るわよ」
「本当ですか!」
予想に反して嬉しい結果が聞かされ、夢主は顔に花を咲かせた。
斎藤が得られたはずの幸せを一つ奪ってしまうのでは、そんな悲しい考えを密かに抱いていた。
記憶のまま、温かな幸せを共に得られるかもしれない。
自分が原因ではという不安から解放され、安堵と感激が込み上げてくる。
「えぇ、既にご懐妊よ。二ヶ月といったところかしら、おめでとう」
「えっ、懐妊……」
「赤ちゃんがいるのよ、宿ってふた月ぐらいね」
「私、妊娠してるんですか……二ヶ月……」
身籠れるか否かの問いに対し、最終的に告げられたのは全く予想だにしなかった答え。
恵は夢主のお腹に命が芽生えていると宣言した。
「何よ、心当たりないの?貴女夫婦者なんでしょう」
「いえ、あり……ます。ありますけど……」
考えるより先に心は勝手に二ヶ月前の日々を思い返していた。
心当たりはある。
月明かりが消えて外が白むまで抱き合ったあの夜だろうか。深く深く愛し合った夜だ。
しかしその夜を覆うように蘇る先日の情事。
激しく抱かれたあの夜は……
夢主は赤い顔で小さく顔を振っていた。
戸惑いながらも嬉しさが込み上げ、涙が静かに頬を伝っていた。
「ふふっ、良かったわね」
「はい、ありがとうございますっ……あの、二ヶ月って、お腹に赤ちゃんがいても、その、しちゃっても大丈夫なんですか」
「は?」
潤み声で疑問をぶつける夢主、聞き取り辛い恵は何を言っているのと首を傾げた。
「その……二ヶ月より後、つい先日も旦那様と、結構……激し……く」
正直に相談してしまう自分が恥ずかしい。
夢主は真っ赤な顔で事実を告げて訊ねた。
「あぁ、そりゃあ直接お腹の赤ちゃん叩く訳じゃなし平気よ。でも暫くはやめなさい、旦那さんにもよく言うことね、お熱いのは羨ましいけど」
「はっ、はい!あの、じゃあ何て言うか、おっ、落ち着くのはいつからですか」
「落ち着く?まずは夢主さんに落ち着いて欲しいわよ」
ふぅと優しい溜め息を吐いた恵が手拭いを差し出した。
柔らかい布地が涙を吸い取ってくれる。
恵の優しさそのものに触れているようで、夢主は更に涙が溢れた。
「あっ、ごめ……ごめんなさい、お腹の赤ちゃんが安定して、その……流れる恐れが減る頃は……」
「そうね、いつだって体には気を付けなくちゃいけないけど三ヶ月って目安かしら」
「三ヶ月……」
「最近調子が悪いとか、普段と違う日があったんじゃないかしら。急に気持ち悪くなったり眩暈がしたり、時に眠くなって起きられないとか。人それぞれだから無理せず体の要求に従うことね。食欲が無かったら相談なさい」
「わかりました、ありがとうございます。あの……これからも相談に乗ってもらってもいいですか、どうしたらいいかわからなくて……」
「もちろんよ。周りに頼れる人はいないの、親姉妹に近所のおかみさんとか」
「ひとり、大家のお婆さんが……でもまだ周りの皆には内緒にしたいんです。薫さんや緋村さん……左之助さん……」
「あら、皆とも知り合いなのね」
「はい。それぞれ出会ったのは別々なんですけど皆さんご近所ですし、知り合いの知り合いは知り合いと言いますか」
「いいわね、みんな仲が良くて」
「恵さんもですよ!これから本当にお世話になりますから!あの、赤べこで働いているので遊びに来てくださいね。あ、仕事減らそうと思ってたんだ……」
「赤べこ?あんな繁盛店で走り回ったら大変よ、せめて短い時間、皿洗いか注文取りだけになさい!立ちっぱなしも駄目!」
全てが初めての夢主には親身に助言をくれる恵が神々しく見える。
懸命に耳を傾け、ひとつひとつの助言に何度も大きく頷いた。
「何か心配事があればすぐに私を呼んでちょうだいね、ここにいるから。旦那様も一度一緒に連れていらっしゃいよ」
「それは……旦那様、とても大変なお仕事に就いてて……心配事を増やしたくないんです。ですから暫くは黙っていようかと」
「どうして、心配事だなんて!力になるに決まってるじゃないの、教えてあげなさいよ!」
こればかりは夢主が首を横に振った。
「何か事情があるみたいね、いいわ、分かったわよ。私だって色々あった身だもの、貴女にも何かあって不思議じゃないわ。ただし無理は禁物!何かあったら私から旦那さんに話しますからね!」
「すみません、わかりました。お世話になります。本当にありがとう……」
「いいのよ、おめでとう」
きつい口調とは裏腹に、恵は穏やかな微笑みで夢主を祝った。
患者の為に生きようと決めて、初めて診たのが懐妊の知らせ。
頑張らなくてはならない身の自分には過ぎた体験と、恵は心の中で夢主に感謝の言葉を述べた。