57.宿すもの、宿る者
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「それにしても斎藤さんも忙しい人ですね」
「はぃ……」
仕方がない、観柳邸の騒動の影で様々な火種が燻っているはず。
それぞれの火種を消す為、部下に仕事を割り振るからには全て把握しなければならず、時には自ら出動する。
こうして僅かに顔を見せるだけでも大変そうだ。
夢主は残る感触を大切にするようそっと唇に触れ、渦中へ戻っていく斎藤を想った。
斎藤が去ったのち、二人は夢主の希望通り小国診療所へ向かった。
「恵さんいるかな」
恐る恐る扉を開けると、どこか悲しげな雰囲気はそのままに、五年という流れた時の分だけ大人びた恵がいた。
来客を確かめにやって来たのだ。
「貴方がたは、井上さんと夢主さん……よね、良かったわ、私もお二人に会わなければと思っていたのよ」
「恵さん!無事で良かったです!」
「その口ぶり、本当に不思議なヒトね。ここじゃなんですからどうぞ」
玄関には清潔な上履き、いわゆるスリッパが並んでいる。
二人は診療所内で恵の居場所となる診察室へ案内された。
「診療所に着いたばかりで私も良く分かっていないのだけれど、どうぞ座ってくださいな」
「お忙しい時にごめんなさい」
元々診察に使われていたのか部屋の中は掃除され、机の上も綺麗に整っている。
今すぐにでも診察を開始できそうだ。
「私に会いに来てくれたの、それとも先生に診察して欲しかったのかしら」
「あの……両方です。恵さんに診て欲しくて」
「私に、それは嬉しいけど……まずは私もお二人に質問してもいいかしら。色々知りたいわ」
夢主と沖田は揃って頷いた。
突然見知らぬ者に呼び止められ、その人物は自分も知らない観柳邸の秘密を知っていたのだから、疑問を抱いて当然だ。
「どうして阿片のことを知っていたの、あの時私を引き留めようとしたのは何故」
「それは……」
夢主と沖田は確かめるように目を合わせた。
勘の良さそうな恵が何かを察してもおかしくない仕草だ。
「身近にそういった事件の捜査に関わっている人がいるんです。武田観柳が怪しいと聞いてて……貴女が会津から出てきた女医さんだと総司さんが聞いたから」
「私を止めたの」
「はい。阿片製造の為に医者を探している、そんな話を聞いていたのでいけないと思って……女性ひとり見知らぬ邸宅に入るのも危ないと思ったんです!男だらけのあんな場所……」
「そう……知り合いの医者がいると思って油断したのね、私」
「恵さんは純粋に仕事を求めただけで悪くないです、悪いのは武田観柳……。阿片の捜査は機密事項だから詳しくは話せませんが……」
「いいわよ、聞かないわ。私も語りたくなかったもの。阿片を作っていた事……貴方がたはご存知なんでしょう、私がここに来るまでに何があったか。だからここに来てくれたのね」
「はい……」
恵はゆっくり大きく息を吸い込み、体中に新鮮な空気を巡らせた。
このまま身も心も浄化されて欲しいけれど、そうもいかない。
現実を受け入れ、出来ることをしようと誓っている。罪を償うために、病で苦しむ人を救うのだ。
「それで、今日はどうしたの」
「あの……体を診ていただきたいんです」
「体?いいわよ、それじゃあ男の方は外でお待ちください」
「えっ」
大人しく座っていた沖田は突然退出を促され慌てた。
診察とは肌を見せる行為。場に馴染みすぎて忘れていた。
「あぁっそうですよね、分かりました!」
気付かないとは恥ずかしいと、そそくさと部屋を出て行った。
壁にもたれ待てばいいだろうか。
手持無沙汰な沖田は廊下で腕を組んで診察所内を見回した。
「それで、具合でも悪いの」
「私……赤ちゃんが出来る体ですか、それを診ていただきたいんです。わかるんでしょうか……」
「成る程ね、貴女は夫婦者で子宝に恵まれず悩んでいるのね」
言い難かったでしょうと優しく慰める恵に対し、夢主は素直に頷いた。
「大丈夫分かるわよ、昔からお殿様に嫁いだ女性は調べを受けたものよ。さぁ横になって、恥ずかしいかもしれないけど同じ女ですもの気にしないで」
「はぃ、お願いします!」
これで全てが分かる。
駄目なら駄目と知ってしまえば諦めがつく。
初めての診察に緊張が止まらないが、恵がくれる丁寧な指示に従い、あっという間に調べは終わった。
「はぃ……」
仕方がない、観柳邸の騒動の影で様々な火種が燻っているはず。
それぞれの火種を消す為、部下に仕事を割り振るからには全て把握しなければならず、時には自ら出動する。
こうして僅かに顔を見せるだけでも大変そうだ。
夢主は残る感触を大切にするようそっと唇に触れ、渦中へ戻っていく斎藤を想った。
斎藤が去ったのち、二人は夢主の希望通り小国診療所へ向かった。
「恵さんいるかな」
恐る恐る扉を開けると、どこか悲しげな雰囲気はそのままに、五年という流れた時の分だけ大人びた恵がいた。
来客を確かめにやって来たのだ。
「貴方がたは、井上さんと夢主さん……よね、良かったわ、私もお二人に会わなければと思っていたのよ」
「恵さん!無事で良かったです!」
「その口ぶり、本当に不思議なヒトね。ここじゃなんですからどうぞ」
玄関には清潔な上履き、いわゆるスリッパが並んでいる。
二人は診療所内で恵の居場所となる診察室へ案内された。
「診療所に着いたばかりで私も良く分かっていないのだけれど、どうぞ座ってくださいな」
「お忙しい時にごめんなさい」
元々診察に使われていたのか部屋の中は掃除され、机の上も綺麗に整っている。
今すぐにでも診察を開始できそうだ。
「私に会いに来てくれたの、それとも先生に診察して欲しかったのかしら」
「あの……両方です。恵さんに診て欲しくて」
「私に、それは嬉しいけど……まずは私もお二人に質問してもいいかしら。色々知りたいわ」
夢主と沖田は揃って頷いた。
突然見知らぬ者に呼び止められ、その人物は自分も知らない観柳邸の秘密を知っていたのだから、疑問を抱いて当然だ。
「どうして阿片のことを知っていたの、あの時私を引き留めようとしたのは何故」
「それは……」
夢主と沖田は確かめるように目を合わせた。
勘の良さそうな恵が何かを察してもおかしくない仕草だ。
「身近にそういった事件の捜査に関わっている人がいるんです。武田観柳が怪しいと聞いてて……貴女が会津から出てきた女医さんだと総司さんが聞いたから」
「私を止めたの」
「はい。阿片製造の為に医者を探している、そんな話を聞いていたのでいけないと思って……女性ひとり見知らぬ邸宅に入るのも危ないと思ったんです!男だらけのあんな場所……」
「そう……知り合いの医者がいると思って油断したのね、私」
「恵さんは純粋に仕事を求めただけで悪くないです、悪いのは武田観柳……。阿片の捜査は機密事項だから詳しくは話せませんが……」
「いいわよ、聞かないわ。私も語りたくなかったもの。阿片を作っていた事……貴方がたはご存知なんでしょう、私がここに来るまでに何があったか。だからここに来てくれたのね」
「はい……」
恵はゆっくり大きく息を吸い込み、体中に新鮮な空気を巡らせた。
このまま身も心も浄化されて欲しいけれど、そうもいかない。
現実を受け入れ、出来ることをしようと誓っている。罪を償うために、病で苦しむ人を救うのだ。
「それで、今日はどうしたの」
「あの……体を診ていただきたいんです」
「体?いいわよ、それじゃあ男の方は外でお待ちください」
「えっ」
大人しく座っていた沖田は突然退出を促され慌てた。
診察とは肌を見せる行為。場に馴染みすぎて忘れていた。
「あぁっそうですよね、分かりました!」
気付かないとは恥ずかしいと、そそくさと部屋を出て行った。
壁にもたれ待てばいいだろうか。
手持無沙汰な沖田は廊下で腕を組んで診察所内を見回した。
「それで、具合でも悪いの」
「私……赤ちゃんが出来る体ですか、それを診ていただきたいんです。わかるんでしょうか……」
「成る程ね、貴女は夫婦者で子宝に恵まれず悩んでいるのね」
言い難かったでしょうと優しく慰める恵に対し、夢主は素直に頷いた。
「大丈夫分かるわよ、昔からお殿様に嫁いだ女性は調べを受けたものよ。さぁ横になって、恥ずかしいかもしれないけど同じ女ですもの気にしないで」
「はぃ、お願いします!」
これで全てが分かる。
駄目なら駄目と知ってしまえば諦めがつく。
初めての診察に緊張が止まらないが、恵がくれる丁寧な指示に従い、あっという間に調べは終わった。