56.痛みを抱えて
夢主名前設定
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左之助が去ったのち、場に入るのを控えていた沖田が戻ってきた。
二人ですべき話を邪魔しないよう見守っていたのだ。
沖田は使いに出て受け取った妙の返事を夢主に伝えた。
しっかり痛みが治まるまで二、三日はお店に来てはいけない、気遣いの言葉だ。
皆の心配が夢主を休ませるきっかけをくれた。
食欲が戻り顔色が良くなるまでしっかり体を回復させる、それが周りの願いでもあった。
それから数日、斎藤は戻らず、沖田は引き続き寝床を貸していた。
腰の痛みはすっかり消えた。
それでも猛烈な眠気に襲われて夢主は昼寝についていた。
障子を開け放し心地よい風が流れ込む部屋で眠っている。
夢うつつ、聞き覚えのある声が夢主の心に流れ込んできた。
……井上さん、夢主さん……どうしてあの時あそこへ現れて、私を止めてくれたのかしら……
……どうして私の名前をどうして知っていたの、何故、阿片の存在を知っていたのかしら……
……迷惑を掛けてしまうから、このまま会わない方がいいわね、どうしてだか知らないけど、気に掛けてくれてありがとう……
……素直に忠告を聞いておけば良かったわ……
「さようなら、本当にありがとう」
遠くに聞こえた声はやがて明瞭になり、語られている相手が自分だと感じた夢の中、夢主は飛び起きた。
「恵さん!!」
落ち着いた中に影を含む声はどこか苦しげにも聞こえる。
外を見れば青かった空がすっかり茜色に染まっていた。
胸騒ぎを感じた夢主は門の外へ飛び出した。
「あっ」
白い寝衣姿で飛び出して出くわしたのは、良く知る神谷道場縁の男衆三人組。
神谷道場居候の剣心、内弟子の弥彦、そして食事をたかるように通う左之助。
「夢主じゃねぇか、こんな所に住んでたのかよ」
「夢主殿……」
初めて住処を知った弥彦は素直に驚き、その場所を隠されていた剣心は気まずそうに立ち止まった。
左之助は口を一文字に引き締めて顔をしかめている。
「緋村さん……」
尾行しても毎回見事にまかれていた剣心も戸惑っていた。
一度だけこの道場に入る姿を見たことがあったが、人に言いたくない事情を抱えているならば聞きはしない。
自らも過去を語らず流れてきた剣心は優しく微笑んだ。
「井上……殿の道場でござったか。心配いらない、お主が望まないのなら不用意に訪れたりはしない」
そんな剣心達を見て左之助は自分一人が堂々とここを何度も訪れていた事実に驚いた。
……こいつら夢主がここにいるの知らなかったのか、それとも近付けなかったのか……
「緋村さん、恵さんの声が聞こえたんです、さようならって……」
恵の声が聞こえた。剣心は驚くが、すぐに相分かったと頷いた。
夢主なら聞こえるかもしれない。何しろ十字傷の秘密を知っていたくらいだ。
「安心してくれ、これから皆で恵殿を迎えに行くでござる」
「心配すんな、お前は休んでろ」
「左之助さん……」
黙っていた左之助が口を開いた。
恵の救出に乗り気ではなかったが、すっかり剣心に諭されたらしい。
頼もしく言うと案内役らしく「行くぞ」と剣心達を導き観柳邸を目指して行った。
「緋村さん達ですか」
「総司さん!」
食事の支度を一人引き受けていた沖田が顔を覗かせた。
「手が離せなくて遅くなっちゃったんですけど、これも必然かもしれませんね」
元宿敵の顔を久しぶりに見られると思ったが、先を急ぐ彼らは行ってしまった。
偶然か必然か、行き違いだ。
「さぁ食事が出来ましたよ。さっぱり出汁のたまご粥、三つ葉が美味しい季節ですね」
「総司さん……ふふっありがとうございます」
少し調子が悪いだけ、病人でもないのに過度に労わってくれる沖田の優しさは、これから何か事件が起こると察しての気遣いも含まれていた。
目覚めた夢主の尋常ではない様子と、緋村達三人の男が揃って観柳邸へ向かう行動。
偶然にしては出来過ぎている。五年前気に掛けていたあの女医者の身に何かが起こるのだ。
自分も力になりたいが、今すべきことは目の前のこの人を守ること。
飛び出して騒動に巻き込まれないよう見守る為に自分はここにいるはずだ。
「さぁ夢主ちゃん」
沖田は改めて微笑みかけ、夢主を安全な屋敷内へ導いた。
空を赤く染める陽が町の彼方へ消えようとしていた。
二人ですべき話を邪魔しないよう見守っていたのだ。
沖田は使いに出て受け取った妙の返事を夢主に伝えた。
しっかり痛みが治まるまで二、三日はお店に来てはいけない、気遣いの言葉だ。
皆の心配が夢主を休ませるきっかけをくれた。
食欲が戻り顔色が良くなるまでしっかり体を回復させる、それが周りの願いでもあった。
それから数日、斎藤は戻らず、沖田は引き続き寝床を貸していた。
腰の痛みはすっかり消えた。
それでも猛烈な眠気に襲われて夢主は昼寝についていた。
障子を開け放し心地よい風が流れ込む部屋で眠っている。
夢うつつ、聞き覚えのある声が夢主の心に流れ込んできた。
……井上さん、夢主さん……どうしてあの時あそこへ現れて、私を止めてくれたのかしら……
……どうして私の名前をどうして知っていたの、何故、阿片の存在を知っていたのかしら……
……迷惑を掛けてしまうから、このまま会わない方がいいわね、どうしてだか知らないけど、気に掛けてくれてありがとう……
……素直に忠告を聞いておけば良かったわ……
「さようなら、本当にありがとう」
遠くに聞こえた声はやがて明瞭になり、語られている相手が自分だと感じた夢の中、夢主は飛び起きた。
「恵さん!!」
落ち着いた中に影を含む声はどこか苦しげにも聞こえる。
外を見れば青かった空がすっかり茜色に染まっていた。
胸騒ぎを感じた夢主は門の外へ飛び出した。
「あっ」
白い寝衣姿で飛び出して出くわしたのは、良く知る神谷道場縁の男衆三人組。
神谷道場居候の剣心、内弟子の弥彦、そして食事をたかるように通う左之助。
「夢主じゃねぇか、こんな所に住んでたのかよ」
「夢主殿……」
初めて住処を知った弥彦は素直に驚き、その場所を隠されていた剣心は気まずそうに立ち止まった。
左之助は口を一文字に引き締めて顔をしかめている。
「緋村さん……」
尾行しても毎回見事にまかれていた剣心も戸惑っていた。
一度だけこの道場に入る姿を見たことがあったが、人に言いたくない事情を抱えているならば聞きはしない。
自らも過去を語らず流れてきた剣心は優しく微笑んだ。
「井上……殿の道場でござったか。心配いらない、お主が望まないのなら不用意に訪れたりはしない」
そんな剣心達を見て左之助は自分一人が堂々とここを何度も訪れていた事実に驚いた。
……こいつら夢主がここにいるの知らなかったのか、それとも近付けなかったのか……
「緋村さん、恵さんの声が聞こえたんです、さようならって……」
恵の声が聞こえた。剣心は驚くが、すぐに相分かったと頷いた。
夢主なら聞こえるかもしれない。何しろ十字傷の秘密を知っていたくらいだ。
「安心してくれ、これから皆で恵殿を迎えに行くでござる」
「心配すんな、お前は休んでろ」
「左之助さん……」
黙っていた左之助が口を開いた。
恵の救出に乗り気ではなかったが、すっかり剣心に諭されたらしい。
頼もしく言うと案内役らしく「行くぞ」と剣心達を導き観柳邸を目指して行った。
「緋村さん達ですか」
「総司さん!」
食事の支度を一人引き受けていた沖田が顔を覗かせた。
「手が離せなくて遅くなっちゃったんですけど、これも必然かもしれませんね」
元宿敵の顔を久しぶりに見られると思ったが、先を急ぐ彼らは行ってしまった。
偶然か必然か、行き違いだ。
「さぁ食事が出来ましたよ。さっぱり出汁のたまご粥、三つ葉が美味しい季節ですね」
「総司さん……ふふっありがとうございます」
少し調子が悪いだけ、病人でもないのに過度に労わってくれる沖田の優しさは、これから何か事件が起こると察しての気遣いも含まれていた。
目覚めた夢主の尋常ではない様子と、緋村達三人の男が揃って観柳邸へ向かう行動。
偶然にしては出来過ぎている。五年前気に掛けていたあの女医者の身に何かが起こるのだ。
自分も力になりたいが、今すべきことは目の前のこの人を守ること。
飛び出して騒動に巻き込まれないよう見守る為に自分はここにいるはずだ。
「さぁ夢主ちゃん」
沖田は改めて微笑みかけ、夢主を安全な屋敷内へ導いた。
空を赤く染める陽が町の彼方へ消えようとしていた。