54.伝言
夢主名前設定
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数日間、斎藤に与えられた吸い痕を隠すように夢主は髪を下ろして過ごした。
手伝い先で妙に不審がられるが、髪を結ぶ代わりに付けた髪飾りが好評で詮索を逃れた。
下を向くと垂れる横髪を押さえる為にリボンを巻いたのだ。西洋の使用人が身に付ける髪飾りに似ている。
「可愛いやん!」とはしゃぐ妙は、首の痕が消えて再び髪を一纏めにした夢主を「もったいない」と残念がった。
夢主にとって赤べこはすっかり社交場だ。
斎藤からの印がすっかり消えたこの日、顔を合わせたのは神谷薫。
薫は刃衛の事件以降も店を訪れて無事な姿を見せてくれていた。今まで通りの関係が続いている。
今日の薫は機嫌を損ねているようで開口一番、愚痴が飛び出した。
「もーーまた剣心たら急に出かけちゃって!」
「薫さん大丈夫ですか、緋村さん、そんなに家を空けるんですか」
先日の様子では夕餉の食材を大事に抱え、道場へ戻ることを急いで見えた。
薫や弥彦との時間を大切にしている、そう感じられた。
「そんなこともないけど、最近妙に左之助とつるんでるのよね、左之助のやつ剣心を変なことに巻き込んでなきゃいいんだけど」
「左之助さんが」
「夢主さんも左之助を知ってるのね」
「えぇ、左之助さんは……」
そういえば金に困った左之助が剣心を賭場に連れて行ってたなぁ……
軽い気持ちで呟きそうになるが、深い溜息を目の前にして思いとどまった。
賭場にしろ何にしろ、薫は自分に無断で出て行き、置いて行かれた事に腹を立てているのだ。
何も言わない方が良いだろう。
「しかも左之助ったら最近毎日のようにウチにたかりに来るのよ!そりゃあ剣心の唯一の友達みたいなものだし困ってるのに無碍にも出来ないけど」
「うっ、左之助さんそんなに……」
実は数日前、左之助が赤べこの暖簾をまたもや無銭でくぐろうとしているのを見つけ、ツケを増やさぬ為に余計な助言をしてしまったのだ。
「神谷道場に行ってみたらどうですか、緋村さんもいるしきっと皆で美味しいご飯作っていますよ」と。
食欲に対して単純な左之助は「成る程!」と素直に神谷道場へ向かったのだ。
……薫さんごめんなさい!でも左之助さんが神谷道場でご馳走になってたのは事実だから……遅かれ早かれ……
夢主は心の中で薫に何度も手を合わせた。
「だ、大丈夫ですよ!緋村さんは遊び回るようなお方じゃないですし、左之助さんの仕事探しでも手伝ってるのかも!それか人助けですよきっと!」
「そうですか、夢主さんが言うならそうなのかな、私よりよっぽど剣心を知ってるものね……あぁっ!もう今日は頭がこんがらかっちゃって!ごめんなさい!お腹が空いてるせいだわ!焼き魚定食お願いします!」
迫力ある注文をした薫。
食事を済ませると突然立ち上がり、机に叩きつける勢いで勘定を置いた。
皿や湯飲みが小さく揺れる。
「帰って稽古に打ち込むわ、そうすれば気も晴れるし!またね、夢主さん!来ないと思うけど、剣心と左之助が来たら晩ご飯が欲しいなら早く帰れって伝えてください」
「はっ、はい。それはもちろん……あの薫さん、落ち着いてね」
「私は大丈夫よ、ご馳走様でした!」
腹を満たして元気を取り戻すと共に怒りを増したのか、薫は荷物を持って足早に店を出て行った。
「薫ちゃん随分な勢いやったなぁ、大丈夫やろか」
「元気は出たみたいですね、きっと大丈夫です、薫さんなら」
「せやなぁ、悩み多き年頃やねぇ、ふふっ」
あれは恋の悩みやないかしらと、妙は笑いながら店の奥へ入っていった。
薫の怒りは半分が剣心のせいで残り半分は左之助のせい、その原因の半分はきっと自分のせい。
夢主は苦笑いで机の上を片付け始めた。
そのうちに薫の苦労に恵の存在も加わるのだろう。ますます神谷道場は賑やかになっていく。
手伝い先で妙に不審がられるが、髪を結ぶ代わりに付けた髪飾りが好評で詮索を逃れた。
下を向くと垂れる横髪を押さえる為にリボンを巻いたのだ。西洋の使用人が身に付ける髪飾りに似ている。
「可愛いやん!」とはしゃぐ妙は、首の痕が消えて再び髪を一纏めにした夢主を「もったいない」と残念がった。
夢主にとって赤べこはすっかり社交場だ。
斎藤からの印がすっかり消えたこの日、顔を合わせたのは神谷薫。
薫は刃衛の事件以降も店を訪れて無事な姿を見せてくれていた。今まで通りの関係が続いている。
今日の薫は機嫌を損ねているようで開口一番、愚痴が飛び出した。
「もーーまた剣心たら急に出かけちゃって!」
「薫さん大丈夫ですか、緋村さん、そんなに家を空けるんですか」
先日の様子では夕餉の食材を大事に抱え、道場へ戻ることを急いで見えた。
薫や弥彦との時間を大切にしている、そう感じられた。
「そんなこともないけど、最近妙に左之助とつるんでるのよね、左之助のやつ剣心を変なことに巻き込んでなきゃいいんだけど」
「左之助さんが」
「夢主さんも左之助を知ってるのね」
「えぇ、左之助さんは……」
そういえば金に困った左之助が剣心を賭場に連れて行ってたなぁ……
軽い気持ちで呟きそうになるが、深い溜息を目の前にして思いとどまった。
賭場にしろ何にしろ、薫は自分に無断で出て行き、置いて行かれた事に腹を立てているのだ。
何も言わない方が良いだろう。
「しかも左之助ったら最近毎日のようにウチにたかりに来るのよ!そりゃあ剣心の唯一の友達みたいなものだし困ってるのに無碍にも出来ないけど」
「うっ、左之助さんそんなに……」
実は数日前、左之助が赤べこの暖簾をまたもや無銭でくぐろうとしているのを見つけ、ツケを増やさぬ為に余計な助言をしてしまったのだ。
「神谷道場に行ってみたらどうですか、緋村さんもいるしきっと皆で美味しいご飯作っていますよ」と。
食欲に対して単純な左之助は「成る程!」と素直に神谷道場へ向かったのだ。
……薫さんごめんなさい!でも左之助さんが神谷道場でご馳走になってたのは事実だから……遅かれ早かれ……
夢主は心の中で薫に何度も手を合わせた。
「だ、大丈夫ですよ!緋村さんは遊び回るようなお方じゃないですし、左之助さんの仕事探しでも手伝ってるのかも!それか人助けですよきっと!」
「そうですか、夢主さんが言うならそうなのかな、私よりよっぽど剣心を知ってるものね……あぁっ!もう今日は頭がこんがらかっちゃって!ごめんなさい!お腹が空いてるせいだわ!焼き魚定食お願いします!」
迫力ある注文をした薫。
食事を済ませると突然立ち上がり、机に叩きつける勢いで勘定を置いた。
皿や湯飲みが小さく揺れる。
「帰って稽古に打ち込むわ、そうすれば気も晴れるし!またね、夢主さん!来ないと思うけど、剣心と左之助が来たら晩ご飯が欲しいなら早く帰れって伝えてください」
「はっ、はい。それはもちろん……あの薫さん、落ち着いてね」
「私は大丈夫よ、ご馳走様でした!」
腹を満たして元気を取り戻すと共に怒りを増したのか、薫は荷物を持って足早に店を出て行った。
「薫ちゃん随分な勢いやったなぁ、大丈夫やろか」
「元気は出たみたいですね、きっと大丈夫です、薫さんなら」
「せやなぁ、悩み多き年頃やねぇ、ふふっ」
あれは恋の悩みやないかしらと、妙は笑いながら店の奥へ入っていった。
薫の怒りは半分が剣心のせいで残り半分は左之助のせい、その原因の半分はきっと自分のせい。
夢主は苦笑いで机の上を片付け始めた。
そのうちに薫の苦労に恵の存在も加わるのだろう。ますます神谷道場は賑やかになっていく。