54.伝言
夢主名前設定
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夢主が家に辿り着く頃、空は茜色に変わっていた。
まるで先程まで見ていた剣心の髪のよう。空を見上げて顔を綻ばせていたが、意識を引き戻す存在が突然現れた。
「楽しそうだな」
「ひぁっ!一さん!」
景色と同化していた人物が急に動きを見せた。
待ち伏せのごとく門前で夢主を待っていた斎藤だ。
「今日は帰らないんじゃ……」
「そのつもりだ。もう行くさ。楽しそうなお前を見かけたんでな」
「そんなに……楽しそうでしたか」
「あぁ。単純なお前そのものだ。いい事でもあったか」
「いい事……」
ぬっと近付くと何故か怖さを感じる。
まさか剣心と話す姿を目撃して後をつけて来たのか。威圧的に見つめてくるのは、やきもちからか。
だが問いに応えようと今しがたの会話を思い出せば、夢主に微笑みが戻ってきた。
剣心が自分を取り戻しつつあると感じたのが嬉しかったのだ。
「一さん……大当たりです、ふふっ」
決して機嫌が良くなかった斎藤だが毒気を抜かれてしまった。
単純と言われ怒ると思った妻の反応は微笑みだった。
少々威圧したものの効果なし。それはそれで構わないのだが。
実は夢主が気に掛けていた武田邸に動きがあった。告げるか否か考え続けたが今その答えが決まった。
能天気なまま笑っていれば良い。
青年実業家の武田観柳に阿片密造の疑いが有り、密かに捜査が続いていた。
疑いがいよいよ確定に代わりそうだ。警察が屋敷に踏み込む日は近い。
ひとつ、警視庁の密偵達も掴んでいない動きがあるとすれば、その屋敷に住む女医師が逃亡を企てている事。
知っていれば逃亡を助け、証拠品と証言を担保に身柄を保証したのだが、双方の思惑が通じるはずもない。事態は別々に進んでいた。
「わざわざ立ち寄る必要もなかったな」
「一さん?」
「もう行くぞ。全く、お前というやつは」
斎藤がやれやれと首を倒す理由が分からず夢主はつられて首を傾げるが、その傾きはそのまま口づけに利用された。
唇が重なると同時に後頭部を押さえられ、口の中を熱い舌に這い回られる覚悟をした夢主だが、柔らかな唇に触れた感触は優しく短く、すぐに解放された。
「どうした」
「いえ……苛められるのかと思って」
優しい口吸いに頬が染まる。
勝手に乱暴な扱いを想像してしまった。他人に見られる可能性を忘れて望んでしまった。
夢主は恥じらって自分を戒めたが、その自省はすぐ無駄になった。
「ほぅ、大当たりだ」
お望み通りに与えるさ。
強い視線に捉われた瞬間、枯れ茶色の瞳がすっと消えて黒い髪が視界に入った。
張りのある髪が見えた途端、首筋に強い感覚を得た。
「っ痛!一さん噛んだ!」
「噛んじゃいない、吸っただけだ。強めにな」
「!!」
ジンジン響く刺激に手を当てる。
見えなくとも鮮やかな印を受けたと分かった。
「ま、二、三日で消えるだろ」
「もぉ一さんの意地悪!」
「じゃあな、戸締りしておけよ」
くっきり浮かぶ赤い痕。
斎藤は白い首筋に着けた色を「綺麗だ」と満足げに笑んで任務へ戻って行った。
まるで先程まで見ていた剣心の髪のよう。空を見上げて顔を綻ばせていたが、意識を引き戻す存在が突然現れた。
「楽しそうだな」
「ひぁっ!一さん!」
景色と同化していた人物が急に動きを見せた。
待ち伏せのごとく門前で夢主を待っていた斎藤だ。
「今日は帰らないんじゃ……」
「そのつもりだ。もう行くさ。楽しそうなお前を見かけたんでな」
「そんなに……楽しそうでしたか」
「あぁ。単純なお前そのものだ。いい事でもあったか」
「いい事……」
ぬっと近付くと何故か怖さを感じる。
まさか剣心と話す姿を目撃して後をつけて来たのか。威圧的に見つめてくるのは、やきもちからか。
だが問いに応えようと今しがたの会話を思い出せば、夢主に微笑みが戻ってきた。
剣心が自分を取り戻しつつあると感じたのが嬉しかったのだ。
「一さん……大当たりです、ふふっ」
決して機嫌が良くなかった斎藤だが毒気を抜かれてしまった。
単純と言われ怒ると思った妻の反応は微笑みだった。
少々威圧したものの効果なし。それはそれで構わないのだが。
実は夢主が気に掛けていた武田邸に動きがあった。告げるか否か考え続けたが今その答えが決まった。
能天気なまま笑っていれば良い。
青年実業家の武田観柳に阿片密造の疑いが有り、密かに捜査が続いていた。
疑いがいよいよ確定に代わりそうだ。警察が屋敷に踏み込む日は近い。
ひとつ、警視庁の密偵達も掴んでいない動きがあるとすれば、その屋敷に住む女医師が逃亡を企てている事。
知っていれば逃亡を助け、証拠品と証言を担保に身柄を保証したのだが、双方の思惑が通じるはずもない。事態は別々に進んでいた。
「わざわざ立ち寄る必要もなかったな」
「一さん?」
「もう行くぞ。全く、お前というやつは」
斎藤がやれやれと首を倒す理由が分からず夢主はつられて首を傾げるが、その傾きはそのまま口づけに利用された。
唇が重なると同時に後頭部を押さえられ、口の中を熱い舌に這い回られる覚悟をした夢主だが、柔らかな唇に触れた感触は優しく短く、すぐに解放された。
「どうした」
「いえ……苛められるのかと思って」
優しい口吸いに頬が染まる。
勝手に乱暴な扱いを想像してしまった。他人に見られる可能性を忘れて望んでしまった。
夢主は恥じらって自分を戒めたが、その自省はすぐ無駄になった。
「ほぅ、大当たりだ」
お望み通りに与えるさ。
強い視線に捉われた瞬間、枯れ茶色の瞳がすっと消えて黒い髪が視界に入った。
張りのある髪が見えた途端、首筋に強い感覚を得た。
「っ痛!一さん噛んだ!」
「噛んじゃいない、吸っただけだ。強めにな」
「!!」
ジンジン響く刺激に手を当てる。
見えなくとも鮮やかな印を受けたと分かった。
「ま、二、三日で消えるだろ」
「もぉ一さんの意地悪!」
「じゃあな、戸締りしておけよ」
くっきり浮かぶ赤い痕。
斎藤は白い首筋に着けた色を「綺麗だ」と満足げに笑んで任務へ戻って行った。