54.伝言
夢主名前設定
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「お主はこの傷のことを知っていたな」
「はぃ」
「一体どこまで知っているんだ。この先のことも知っているのか、夢主殿は……一体どこまで」
剣心は確かめるようにもう一度十字傷に触れて、独り言のように訊いた。
どこまで……
考えた夢主の心に見えた温かなもの、幻ではなくこれから確かに生まれるものだ。
「緋村さんが、心から笑える時までです」
「拙者が……笑う……まで」
「はい」
剣心は目を丸くした。
流浪を始めて今も今までも、努めて笑顔で過ごしてきた。
新時代、笑って生きるのが一番だと心掛けてみた。だがどうにも上手く笑えない。
笑顔でいても、傍からどれだけ笑って見えても、心からのものではなかった。
それでも形だけは笑っていたつもりだった。
剣心は驚きが過ぎて笑い出しそうになっていた。
これでも本音を偽るのは得意だ。剣術の上で感情を隠すのは一流の証。
それも夢主殿には見透かされているのか。
「参ったでござるな夢主殿、ははっ、本当に参ったよ」
「緋村さん……」
「拙者が笑える日など来るのでござろうか」
「来ますよ、大丈夫です。緋村さんにだって笑う資格はあるんです、幸せになる資格が。笑える日は必ずやってきます」
必ず……
先を見据えるお主がそう言ってくれるのなら、信じてみても良いかもしれない。
剣心は顔を伏せて零れそうな笑みを隠した。
「……あの日、あのまま小萩屋にお主が留まっていれば……どうなったでござろうな。今頃拙者はどうなって……」
「え……」
「いやぁ何でもない。独り言だ、はははっ」
「ふふっ、作り笑顔がお上手です」
剣心はいつもの悲しげな笑顔を大袈裟に作って夢主を笑わせた。
お主のご主人が少しだけ羨ましいでござるな、そんな言葉は重荷になるだけと飲み込んで。
「さて、夢主殿はもう帰るでござるよ。拙者ももう戻らないと薫殿が心配する」
「そうですね」
「今回は本当に不甲斐ない自分を薫殿に見せてしまったから、これ以上迷惑を掛ける訳には」
「薫さんはむしろ喜んでいるかもしれませんよ」
「まさか」
「驚いたでしょうけど……知らなかった姿を知るって、嬉しいです。理解に近付くって言うか……」
「そんなものでござるか」
「女心です!」
「ははっ、それは一番難しいでござるな」
先読みと心情を見抜くのが得意なのに女心は分からない。
二人は揃って笑った。
「帰り道お気をつけて」
「それは拙者の台詞でござる。どうあっても夢主殿は送らせてくれないからな」
「旦那様を怒らせたくありません。お願いですから」
本当は今夜斎藤は戻らないけれど。
斎藤に対しては吐けない嘘が緋村に吐けるのは奇妙なものだ。
一人で帰る為に夢主は自信を持って首を振った。
「分かっている、夢主殿は拙者が帰るまで神谷道場に着いてくる勢いだ」
以前こっそり後をつけて家まで送ろうとした剣心だが、見つかってしまい追跡に失敗した。
自分は気配を消すのは得意で夢主は気配を察する能力がないはずなのに、不思議でならない。
考えと行動を読まれているとしか思えず、剣心は平謝りで二度としないと許してもらったのだ。
「今日は会えて良かった。心の靄が少し晴れた気がするよ。ありがとう夢主殿」
夢主も剣心の無事な姿に安堵した。
偶然の出会いは互いの心を晴れやかにした。
再び一人で歩き出した剣心の腕の中、豆腐が水と共に揺れている。
その小さな動きは何か楽しい夕餉を期待させた。
「楽しそう……か」
剣心は呟いて、くすりと笑った。
「はぃ」
「一体どこまで知っているんだ。この先のことも知っているのか、夢主殿は……一体どこまで」
剣心は確かめるようにもう一度十字傷に触れて、独り言のように訊いた。
どこまで……
考えた夢主の心に見えた温かなもの、幻ではなくこれから確かに生まれるものだ。
「緋村さんが、心から笑える時までです」
「拙者が……笑う……まで」
「はい」
剣心は目を丸くした。
流浪を始めて今も今までも、努めて笑顔で過ごしてきた。
新時代、笑って生きるのが一番だと心掛けてみた。だがどうにも上手く笑えない。
笑顔でいても、傍からどれだけ笑って見えても、心からのものではなかった。
それでも形だけは笑っていたつもりだった。
剣心は驚きが過ぎて笑い出しそうになっていた。
これでも本音を偽るのは得意だ。剣術の上で感情を隠すのは一流の証。
それも夢主殿には見透かされているのか。
「参ったでござるな夢主殿、ははっ、本当に参ったよ」
「緋村さん……」
「拙者が笑える日など来るのでござろうか」
「来ますよ、大丈夫です。緋村さんにだって笑う資格はあるんです、幸せになる資格が。笑える日は必ずやってきます」
必ず……
先を見据えるお主がそう言ってくれるのなら、信じてみても良いかもしれない。
剣心は顔を伏せて零れそうな笑みを隠した。
「……あの日、あのまま小萩屋にお主が留まっていれば……どうなったでござろうな。今頃拙者はどうなって……」
「え……」
「いやぁ何でもない。独り言だ、はははっ」
「ふふっ、作り笑顔がお上手です」
剣心はいつもの悲しげな笑顔を大袈裟に作って夢主を笑わせた。
お主のご主人が少しだけ羨ましいでござるな、そんな言葉は重荷になるだけと飲み込んで。
「さて、夢主殿はもう帰るでござるよ。拙者ももう戻らないと薫殿が心配する」
「そうですね」
「今回は本当に不甲斐ない自分を薫殿に見せてしまったから、これ以上迷惑を掛ける訳には」
「薫さんはむしろ喜んでいるかもしれませんよ」
「まさか」
「驚いたでしょうけど……知らなかった姿を知るって、嬉しいです。理解に近付くって言うか……」
「そんなものでござるか」
「女心です!」
「ははっ、それは一番難しいでござるな」
先読みと心情を見抜くのが得意なのに女心は分からない。
二人は揃って笑った。
「帰り道お気をつけて」
「それは拙者の台詞でござる。どうあっても夢主殿は送らせてくれないからな」
「旦那様を怒らせたくありません。お願いですから」
本当は今夜斎藤は戻らないけれど。
斎藤に対しては吐けない嘘が緋村に吐けるのは奇妙なものだ。
一人で帰る為に夢主は自信を持って首を振った。
「分かっている、夢主殿は拙者が帰るまで神谷道場に着いてくる勢いだ」
以前こっそり後をつけて家まで送ろうとした剣心だが、見つかってしまい追跡に失敗した。
自分は気配を消すのは得意で夢主は気配を察する能力がないはずなのに、不思議でならない。
考えと行動を読まれているとしか思えず、剣心は平謝りで二度としないと許してもらったのだ。
「今日は会えて良かった。心の靄が少し晴れた気がするよ。ありがとう夢主殿」
夢主も剣心の無事な姿に安堵した。
偶然の出会いは互いの心を晴れやかにした。
再び一人で歩き出した剣心の腕の中、豆腐が水と共に揺れている。
その小さな動きは何か楽しい夕餉を期待させた。
「楽しそう……か」
剣心は呟いて、くすりと笑った。