51.お前の中に映るもの
夢主名前設定
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「背中の悪一文字は俺に喧嘩を売ってるんじゃないのか、俺が悪を斬る男と知っての挑発か」
「そんなつもりありませんよ、左之助さんは……」
「だろうな、向こうは俺の存在など知らんだろう」
顔を合わせたことも話した事もない。
夫の存在を知っていればもう少し距離を取るはず。常識ある男ならば。
……俺が一方的に存在を把握している、それだけだ……
斎藤は伏した目で何かを睨みつけ、心の中で舌打ちをした。
「そうですよ、左之助さんは……」
夢主はそんな舌打ちを露程も知らず、追い打ちをかけるように呟いた。
途端に何かを感じて顔を上げれば、離れていたはずの斎藤が近づいていた。
口吸いを求めるような甘い空気は感じられない。瞳に浮かぶのは情欲の熱とは違う何か。
「一……さん……?」
「いや、何でもないさ。俺はもう一度行かねばならん」
「はぃ……」
言葉とは裏腹に立ち上がろうとせず、斎藤が迫ってくる。
その動きは息を殺して獲物との距離をじっくり詰める獣のよう。
静かにゆっくり近づく顏、瞬きせずに徐々に細まる目。瞳は不思議な色に染まったまま、瞼が覆い見えなくなった。
夢主は顔に触れた斎藤の前髪をくすぐったいと感じる間もなく、背中を壁に押し付けられて唇を塞がれた。
突然口の中深く斎藤の舌が侵入してきた。滑らかに動くものを感じる。
驚いて口内で浮いた夢主の舌はすぐさま捕われて否応なしに絡め合いを求められる。
夢主はいつしか目を閉じていた。斎藤は閉じていた目を薄ら開いて燃えるような強い瞳を覗かせている。
貪るように口吸いをする斎藤の呼吸は荒く、溜まった唾液が濡れた音を鳴らし、狼が獲物を喰むような音が小さな玄関に響いた。
……夢主、俺を求め、俺を待つ女、俺だけを想う夢主……
「俺だけでは……ないか」
「一、さんっ…」
誰をも慈しんでしまう、お前の中にいるのは俺だけではない。
少し悔しいがそれがお前の優しさだったな。
斎藤の呟きの意味を理解できず、夢主は蕩けた瞳で見上げている。背筋が震えてようやく口吸いから許されたのだ、体はすっかり火照っていた。
そんな上気した夢主の姿に、斎藤はこれから家を出る自分を申し訳なく思った。
開いたまま閉じない濡れた唇に触れたのは白い布に包まれたままの指先。
唇の端から垂れそうな雫を拭うと水気を含み、指先に僅かな冷感を生じた。
「夢主、苦しかったな。すまん、少々……荒くなった」
「いえ……大丈夫です」
続きを求めたいほど体が疼く口づけでしたとは言えずに、夢主は熱くなった自分を隠した。
控えめに微笑みかけ首を傾げると、目が合った斎藤が僅かに照れて見えた。
「ふふっ、お仕事大丈夫ですか」
「あ、あぁもう行くさ。もう……行かんとな」
ニッと細くなった目は捕食する狼のものではなく、普段の色に戻っていた。
斎藤は健気に見上げてくる愛らしい瞳を見つめるうち、もう一度顔を寄せていた。
……それでもお前は俺の……
「行ってくる」
「ふぁ……はぃ……」
耳元で囁かれた後、夢主は首筋に小さな痛みを感じた。
痛みの元を確かめるつもりが、すぐに忘れてしまった。離れた顔がいつもより切なく笑ったように見えたからだ。
夢主は下腹部にきゅぅと熱が集まるのを感じながら、出て行く斎藤を見送った。
「そんなつもりありませんよ、左之助さんは……」
「だろうな、向こうは俺の存在など知らんだろう」
顔を合わせたことも話した事もない。
夫の存在を知っていればもう少し距離を取るはず。常識ある男ならば。
……俺が一方的に存在を把握している、それだけだ……
斎藤は伏した目で何かを睨みつけ、心の中で舌打ちをした。
「そうですよ、左之助さんは……」
夢主はそんな舌打ちを露程も知らず、追い打ちをかけるように呟いた。
途端に何かを感じて顔を上げれば、離れていたはずの斎藤が近づいていた。
口吸いを求めるような甘い空気は感じられない。瞳に浮かぶのは情欲の熱とは違う何か。
「一……さん……?」
「いや、何でもないさ。俺はもう一度行かねばならん」
「はぃ……」
言葉とは裏腹に立ち上がろうとせず、斎藤が迫ってくる。
その動きは息を殺して獲物との距離をじっくり詰める獣のよう。
静かにゆっくり近づく顏、瞬きせずに徐々に細まる目。瞳は不思議な色に染まったまま、瞼が覆い見えなくなった。
夢主は顔に触れた斎藤の前髪をくすぐったいと感じる間もなく、背中を壁に押し付けられて唇を塞がれた。
突然口の中深く斎藤の舌が侵入してきた。滑らかに動くものを感じる。
驚いて口内で浮いた夢主の舌はすぐさま捕われて否応なしに絡め合いを求められる。
夢主はいつしか目を閉じていた。斎藤は閉じていた目を薄ら開いて燃えるような強い瞳を覗かせている。
貪るように口吸いをする斎藤の呼吸は荒く、溜まった唾液が濡れた音を鳴らし、狼が獲物を喰むような音が小さな玄関に響いた。
……夢主、俺を求め、俺を待つ女、俺だけを想う夢主……
「俺だけでは……ないか」
「一、さんっ…」
誰をも慈しんでしまう、お前の中にいるのは俺だけではない。
少し悔しいがそれがお前の優しさだったな。
斎藤の呟きの意味を理解できず、夢主は蕩けた瞳で見上げている。背筋が震えてようやく口吸いから許されたのだ、体はすっかり火照っていた。
そんな上気した夢主の姿に、斎藤はこれから家を出る自分を申し訳なく思った。
開いたまま閉じない濡れた唇に触れたのは白い布に包まれたままの指先。
唇の端から垂れそうな雫を拭うと水気を含み、指先に僅かな冷感を生じた。
「夢主、苦しかったな。すまん、少々……荒くなった」
「いえ……大丈夫です」
続きを求めたいほど体が疼く口づけでしたとは言えずに、夢主は熱くなった自分を隠した。
控えめに微笑みかけ首を傾げると、目が合った斎藤が僅かに照れて見えた。
「ふふっ、お仕事大丈夫ですか」
「あ、あぁもう行くさ。もう……行かんとな」
ニッと細くなった目は捕食する狼のものではなく、普段の色に戻っていた。
斎藤は健気に見上げてくる愛らしい瞳を見つめるうち、もう一度顔を寄せていた。
……それでもお前は俺の……
「行ってくる」
「ふぁ……はぃ……」
耳元で囁かれた後、夢主は首筋に小さな痛みを感じた。
痛みの元を確かめるつもりが、すぐに忘れてしまった。離れた顔がいつもより切なく笑ったように見えたからだ。
夢主は下腹部にきゅぅと熱が集まるのを感じながら、出て行く斎藤を見送った。