50.一繋がりの
夢主名前設定
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「薫殿のことなんだが……」
言いかけて剣心は僅かに顔を落とした。水面の揺れを見つめているのだろうか。日差しが強ければ銀色に輝く水面も今日は穏やかだ。
夢主が河原を歩くのは夕暮れ時が多い。
赤べこ帰りや買い出しの後、だが今はまだ青い空に所々で白い雲がすじになって広がっている。
剣心はそんな空を一瞬見上げて微笑んだ。
「薫殿が夢主殿の友人であったとは」
初めから全てを知っている夢主は気まずさで小さく顎を引いた。
二人が出会うことを見越して薫との距離に気を付けていた。無事に出会いを果たした今、そっと見守れたらと願っている。
「……その、拙者の我儘なのだが」
「大丈夫ですよ、薫さんには何も話しません。話していませんし話す気も……私が新選組と関わりあるの、薫さんは知りません」
「そうでござるか……」
「だから緋村さんに助けてもらったあの夜も、京から逃げた時の事も仙台から戻る時の出来事も、何も伝えていません。これからも伝える気は……」
「言い難いでござるよな。薫殿は何も知らない、戊辰の頃には幼く、西南戦争で父上を失っているが戦の本当の恐ろしさは何も知らない」
「それでいいんだと思います。薫さんは……今のままで」
「夢主殿……」
幕末の混沌を知る者同士、薫に対して同じ想いを抱いていた。
純真な心を守りたい。
「緋村さんは神谷道場にお世話になっているんですよね」
「あぁ、薫殿が引き留めてくれてな。正直戸惑ったが嬉しくもある。複雑でござるな」
ははっと笑う顔に確かに戸惑いが滲んでいる。
このまま流浪を終えるかまた流れるか、いずれにしても贖罪は続けたい。そんな己に静かな日々が許されるのか。剣心は迷っていた。
「甘えてしまっていいのだろうか」
「いいと思います……薫さんも甘えたいんじゃないでしょうか。居場所が出来るの嬉しくありませんか、私も居場所がなくてずっと居候の身だったから思うんです」
「居場所……か」
「自分の居場所って……待っててくれる人、帰って来てくれる人がいるって嬉しいですよ」
「居候……新選組の頃か。夢主は奴らの居候でござったな、おかしなものだ」
「ふふっ、緋村さんだっておかしいですよ。維新志士で……でも戊辰戦争を途中で抜け出して、官職を断ってずっと人助けの旅をしていたんでしょう」
「そう言われると言い返せないでござるな」
「それでこの町でも人助け。薫さんを助けてあげて……優しくて可愛いらしい方でしょう」
「それは……まぁ」
「とても強がりで淋しがり屋さんなんですよ」
「人はみな、淋しいのかもしれぬ」
「えっ」
「いやぁ何でもない、ふと思っただけだ。そう言えば以前話していた男とは再会出来たでござるか」
剣心は夢主が東京で会いたい人がいると語っていた話を覚えていた。
男女の仲を誓った者がいるのだと思っていた。
「はい、再会出来ました。おかげさまで今はとても幸せです」
「そうか……それは良かった。機会があれば是非挨拶をしたいものだ。夢主殿の夫とはどんな男かとても興味があるでござるよ」
「えっ、そうですね、それはまたっ機会があれば……」
「おろ?」
急に慌てる夢主を不思議に思い剣心は首を傾げた。
相手の男、師匠ではなく訊ねられて慌てる男とは一体。ますます気になるが詮索は不躾だ。剣心はそれ以上の質問をやめた。
言いかけて剣心は僅かに顔を落とした。水面の揺れを見つめているのだろうか。日差しが強ければ銀色に輝く水面も今日は穏やかだ。
夢主が河原を歩くのは夕暮れ時が多い。
赤べこ帰りや買い出しの後、だが今はまだ青い空に所々で白い雲がすじになって広がっている。
剣心はそんな空を一瞬見上げて微笑んだ。
「薫殿が夢主殿の友人であったとは」
初めから全てを知っている夢主は気まずさで小さく顎を引いた。
二人が出会うことを見越して薫との距離に気を付けていた。無事に出会いを果たした今、そっと見守れたらと願っている。
「……その、拙者の我儘なのだが」
「大丈夫ですよ、薫さんには何も話しません。話していませんし話す気も……私が新選組と関わりあるの、薫さんは知りません」
「そうでござるか……」
「だから緋村さんに助けてもらったあの夜も、京から逃げた時の事も仙台から戻る時の出来事も、何も伝えていません。これからも伝える気は……」
「言い難いでござるよな。薫殿は何も知らない、戊辰の頃には幼く、西南戦争で父上を失っているが戦の本当の恐ろしさは何も知らない」
「それでいいんだと思います。薫さんは……今のままで」
「夢主殿……」
幕末の混沌を知る者同士、薫に対して同じ想いを抱いていた。
純真な心を守りたい。
「緋村さんは神谷道場にお世話になっているんですよね」
「あぁ、薫殿が引き留めてくれてな。正直戸惑ったが嬉しくもある。複雑でござるな」
ははっと笑う顔に確かに戸惑いが滲んでいる。
このまま流浪を終えるかまた流れるか、いずれにしても贖罪は続けたい。そんな己に静かな日々が許されるのか。剣心は迷っていた。
「甘えてしまっていいのだろうか」
「いいと思います……薫さんも甘えたいんじゃないでしょうか。居場所が出来るの嬉しくありませんか、私も居場所がなくてずっと居候の身だったから思うんです」
「居場所……か」
「自分の居場所って……待っててくれる人、帰って来てくれる人がいるって嬉しいですよ」
「居候……新選組の頃か。夢主は奴らの居候でござったな、おかしなものだ」
「ふふっ、緋村さんだっておかしいですよ。維新志士で……でも戊辰戦争を途中で抜け出して、官職を断ってずっと人助けの旅をしていたんでしょう」
「そう言われると言い返せないでござるな」
「それでこの町でも人助け。薫さんを助けてあげて……優しくて可愛いらしい方でしょう」
「それは……まぁ」
「とても強がりで淋しがり屋さんなんですよ」
「人はみな、淋しいのかもしれぬ」
「えっ」
「いやぁ何でもない、ふと思っただけだ。そう言えば以前話していた男とは再会出来たでござるか」
剣心は夢主が東京で会いたい人がいると語っていた話を覚えていた。
男女の仲を誓った者がいるのだと思っていた。
「はい、再会出来ました。おかげさまで今はとても幸せです」
「そうか……それは良かった。機会があれば是非挨拶をしたいものだ。夢主殿の夫とはどんな男かとても興味があるでござるよ」
「えっ、そうですね、それはまたっ機会があれば……」
「おろ?」
急に慌てる夢主を不思議に思い剣心は首を傾げた。
相手の男、師匠ではなく訊ねられて慌てる男とは一体。ますます気になるが詮索は不躾だ。剣心はそれ以上の質問をやめた。