50.一繋がりの
夢主名前設定
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店の目の前でちょうど道が分かれている。
町の南へ続く道、街道へ続く道、東海道の方角へは様々な服装の旅人が行く。
笠をかぶった者や頭巾をかぶった者、手拭いを巻いた者、中には旅に出るとは思えぬ者もいた。日除けになる笠やかぶり物は無し、頭には鉢巻き一つの男。
「え、左之助さん」
赤い鉢巻きをして小さな振り分け荷物を肩に掛けた身軽な旅人は相楽左之助だった。
夢主に気付いて駆け寄って来る。
「よう、朝から団子食って休憩か」
「左之助さん、こんな朝早くにどちらへ」
皆が働き始める時間に茶屋で団子とはなかなかいい身分だ。
左之助はハハッと笑いながら隣に座る沖田を一瞥した。
夢主とはすっかり馴染み、そんな空気を醸し出す小柄な男が気になる。
腰に木刀とは妙な姿、隙の無い佇まい、腕が立つと見える。喧嘩魂が疼くが今は先を急いでいた。
しかしどこか気に食わない。やり過ごすことも出来ず、左之助は不躾にも顎で沖田を指した。
「こいつが前に話した夫ってやつか、思ってたのと随分違うな」
「あ……いいえ、この方は兄のように慕っている方で」
「ふぅん。ハジメマシテ、よろしくよ」
「えぇと、初めまして」
夢主の言葉を遮って交わされたあまり友好的とは言えない左之助の挨拶。沖田も笑顔に棘を作った。
火花が散りそうな強い視線を交わしたのち、一瞬でいつもの穏やかな微笑みを取り戻した。
「夢主ちゃん、こちらの方は」
「さ、左之助さんです。以前助けてくださったんです」
刺々しい空気に肩を縮めた夢主が、場を和ませようと懸命に笑顔を振りまいている。
そんな痛々しい笑顔に、夢主を慕う二人は正気を取り戻した。
「そうでしたか、お世話になった方なんですね。失礼しました、僕は井上と申します。以後お見知りおきを。僕は夢主ちゃんの護衛みたいなものですよ。旦那さんの代わりにね」
「そうかい。俺ぁ相楽左之助、通称喧嘩屋斬左だ。俺こそぶっきらぼうに悪かったな、こいつが馬鹿どもに絡まれるのを何度も見てるからよ、つい」
「いえ、僕からもお礼を言わせてください。その節は本当にありがとうございました」
「いいって事よ、暴れられて楽しかったぜ」
不在の夫に代わって独り身の女を助けている。
兄のように慕うというなら夫とも縁ある男、だから夢主が身内のような信頼を持っている。左之助は納得して頷いた。
「左之助さんはどちらへ……」
ここは街道への分かれ道。
斬馬刀を持っていないので喧嘩ではなさそうだが、普段持ち歩かない荷物を抱えている。
「ちょっくら京都に行ってくるぜ、俺がいなくっても井上さんが一緒なら心配いらねぇな」
「京都へ」
「あぁ。喧嘩の下準備さ。ま、すぐに戻って来るからな」
「喧嘩、喧嘩って」
「気にするこたぁねぇ、俺の稼業さ」
「稼業って左之助さん」
「まぁ二週間で戻って来るさ」
「えっ、京都まで遠いですから行くだけでも一週間は……道中お気をつけてくださいね」
左之助は体力と脚力に自信があるようだ。東海道を行き京都へ向かい、滞在を含め二週間とはあまりに短い。
左之助が楽しみに待っているのは維新志士との喧嘩で、初めての敗北となる喧嘩。左之助にとって大事な経験となる。
心に棲む幕末の魔物に打ち勝つ為、乗り越え無ければならない悔しさを味わうだろう。
「おうよ、戻ったら京都の土産話を聞かせてやるぜ」
「はぃ……楽しみにしています」
「じゃあな!」
待ち受ける試練を知らず早く喧嘩がしたくて堪らない、そんな陽気な顔で街道を目指す左之助を夢主は見送った。
「それにしても原田さんにそっくりでしたね」
「総司さんも思いますか!私も思うんです!前に永倉さんも仰ってたんですよ」
「いやぁあれは似ていますよ。原田さんのほうがもう少し大人ですけどね、ははっ」
突然の喧嘩腰に驚いたが気を許せば爽やかで温かな好青年、真っすぐで少し短気そうな性格も似ている。
夢主と沖田は左之助と原田の姿を重ね、胸に沸き起こる温かさに身を委ねた。
町の南へ続く道、街道へ続く道、東海道の方角へは様々な服装の旅人が行く。
笠をかぶった者や頭巾をかぶった者、手拭いを巻いた者、中には旅に出るとは思えぬ者もいた。日除けになる笠やかぶり物は無し、頭には鉢巻き一つの男。
「え、左之助さん」
赤い鉢巻きをして小さな振り分け荷物を肩に掛けた身軽な旅人は相楽左之助だった。
夢主に気付いて駆け寄って来る。
「よう、朝から団子食って休憩か」
「左之助さん、こんな朝早くにどちらへ」
皆が働き始める時間に茶屋で団子とはなかなかいい身分だ。
左之助はハハッと笑いながら隣に座る沖田を一瞥した。
夢主とはすっかり馴染み、そんな空気を醸し出す小柄な男が気になる。
腰に木刀とは妙な姿、隙の無い佇まい、腕が立つと見える。喧嘩魂が疼くが今は先を急いでいた。
しかしどこか気に食わない。やり過ごすことも出来ず、左之助は不躾にも顎で沖田を指した。
「こいつが前に話した夫ってやつか、思ってたのと随分違うな」
「あ……いいえ、この方は兄のように慕っている方で」
「ふぅん。ハジメマシテ、よろしくよ」
「えぇと、初めまして」
夢主の言葉を遮って交わされたあまり友好的とは言えない左之助の挨拶。沖田も笑顔に棘を作った。
火花が散りそうな強い視線を交わしたのち、一瞬でいつもの穏やかな微笑みを取り戻した。
「夢主ちゃん、こちらの方は」
「さ、左之助さんです。以前助けてくださったんです」
刺々しい空気に肩を縮めた夢主が、場を和ませようと懸命に笑顔を振りまいている。
そんな痛々しい笑顔に、夢主を慕う二人は正気を取り戻した。
「そうでしたか、お世話になった方なんですね。失礼しました、僕は井上と申します。以後お見知りおきを。僕は夢主ちゃんの護衛みたいなものですよ。旦那さんの代わりにね」
「そうかい。俺ぁ相楽左之助、通称喧嘩屋斬左だ。俺こそぶっきらぼうに悪かったな、こいつが馬鹿どもに絡まれるのを何度も見てるからよ、つい」
「いえ、僕からもお礼を言わせてください。その節は本当にありがとうございました」
「いいって事よ、暴れられて楽しかったぜ」
不在の夫に代わって独り身の女を助けている。
兄のように慕うというなら夫とも縁ある男、だから夢主が身内のような信頼を持っている。左之助は納得して頷いた。
「左之助さんはどちらへ……」
ここは街道への分かれ道。
斬馬刀を持っていないので喧嘩ではなさそうだが、普段持ち歩かない荷物を抱えている。
「ちょっくら京都に行ってくるぜ、俺がいなくっても井上さんが一緒なら心配いらねぇな」
「京都へ」
「あぁ。喧嘩の下準備さ。ま、すぐに戻って来るからな」
「喧嘩、喧嘩って」
「気にするこたぁねぇ、俺の稼業さ」
「稼業って左之助さん」
「まぁ二週間で戻って来るさ」
「えっ、京都まで遠いですから行くだけでも一週間は……道中お気をつけてくださいね」
左之助は体力と脚力に自信があるようだ。東海道を行き京都へ向かい、滞在を含め二週間とはあまりに短い。
左之助が楽しみに待っているのは維新志士との喧嘩で、初めての敗北となる喧嘩。左之助にとって大事な経験となる。
心に棲む幕末の魔物に打ち勝つ為、乗り越え無ければならない悔しさを味わうだろう。
「おうよ、戻ったら京都の土産話を聞かせてやるぜ」
「はぃ……楽しみにしています」
「じゃあな!」
待ち受ける試練を知らず早く喧嘩がしたくて堪らない、そんな陽気な顔で街道を目指す左之助を夢主は見送った。
「それにしても原田さんにそっくりでしたね」
「総司さんも思いますか!私も思うんです!前に永倉さんも仰ってたんですよ」
「いやぁあれは似ていますよ。原田さんのほうがもう少し大人ですけどね、ははっ」
突然の喧嘩腰に驚いたが気を許せば爽やかで温かな好青年、真っすぐで少し短気そうな性格も似ている。
夢主と沖田は左之助と原田の姿を重ね、胸に沸き起こる温かさに身を委ねた。