48.小高い社
夢主名前設定
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この日、夢主は休日を満喫していた。
日はまだ高い。外での用事を終え、穏やかな陽気に誘われて土手道を歩いていた。
河原にはまだ草木が少なく舞う蝶もいないが、水面の輝きと控えめに響く川のせせらぎが心地よい。
疲れも悩みも消してくれる美しい景色を楽しんで歩き、家を目指して橋を渡っていると後ろから小さな衝撃を受けた。
子供がぶつかって来た。
衝撃をそう感じて振り返ると夢主の脇を少年がすり抜ける。
弥彦……、その動きが異様にゆっくりと見えた。
スリを働こうというのか、身構えると目が合った弥彦は伸ばしかけた手を引っ込めてそのまま橋を駆けていく。
「待って!」
「うるせーな、今日は盗ってねーよ!あっ」
立ち止まった弥彦は振り返り、しまったと体を強張らせた。
うっかり口を滑らせて先日のスリを認めてしまい、決まり悪そうに顔を逸らした。
「この前は財布を忘れちゃってたから、だから盗れなかったんでしょ」
「なっ、何言ってんだよ!盗ったよ、お前から盗ったよ、こんなもん返してやる!」
「ぁ……」
離れた場所から夢主に投げつけられたのは先日弥彦にスラれた財布だ。
足元に落ちた財布に中身は無い。想像は付く。ヤクザ連中に奪われてしまったのだ。
「中身は……いつか返すから。今はそれだけだ」
「弥彦君……」
「何で俺の名前を」
「あっ……」
「スリで名前が知られちまうなんて情けねぇな……俺……」
「違うの、そうじゃないの……たまたま聞いちゃったんだ、弥彦君が名前を呼ばれているの……」
「なんだ、そういう事か。同情はいらねぇからな、警察に言いたいなら言えよ、俺は捕まらねぇから」
ヤクザ連中にボコられている姿を見られたのか。スリだけでも情けないのにそんな姿まで見られたのか。
もうどうでもいいと弥彦はヤケになって強がり、悲しい顔で走り出した。
「弥彦……」
名前を知ってる理由を言い訳出来ず、いらない嘘を吐いてしまった。
小さな士の大きな誇りを傷付けてしまった。
夢主は肩を落として家路を行った。
不貞腐れた弥彦は橋から河原へ降りた。
腰を下ろすと、待ってましたとばかりに見覚えるある男がやって来る。
「よぉ、弥彦"君"」
「なっテメェら見てたのかよ!」
目付け役のヤクザだ。弥彦にとって集金役でもある。
去って行く夢主をちらりと振り返ってから男は続けた。
「優しいなぁ弥彦"君"は。あの女から盗らなかったのかよ」
「盗ろうとしたよ、持ってなかったんだ、盗ったら空だったんだ」
見ていたのなら空の財布を叩き付けたのも知っているはず。
弥彦は嘘がばれないか緊張しながら男を睨みつけた。
「そいつはついてねぇな、ならさっさと次の獲物を探すんだな、払うモノはきっちり払えよ、今月の上納金がまだだろう」
「うるせぇ!スリなんてもう!」
「スリなんてしねぇってか、あぁそうか、金以外に納めるもんがあるってんだなぁ、あの姉ちゃん別嬪さんだもんなぁ~連れて来てくれるんならスリは勘弁してやるぜ、どうする」
「そんな事っ、卑怯だぞ!」
「どうせ赤の他人だろう、どうすんだよ」
「……持ってこりゃあいいんだろう、金は今日中に払うから、あの女は関係ねぇからな」
土手を歩いて行く夢主の姿が見えなくなり弥彦は胸を撫でおろした。
この町には貧乏人が山といるが金持ちも意外といるもんだ。阿漕な商売人や人から奪った金で贅沢している奴らから奪えばいい。
弥彦は再びスリを働く為に橋へ戻って行った。
日はまだ高い。外での用事を終え、穏やかな陽気に誘われて土手道を歩いていた。
河原にはまだ草木が少なく舞う蝶もいないが、水面の輝きと控えめに響く川のせせらぎが心地よい。
疲れも悩みも消してくれる美しい景色を楽しんで歩き、家を目指して橋を渡っていると後ろから小さな衝撃を受けた。
子供がぶつかって来た。
衝撃をそう感じて振り返ると夢主の脇を少年がすり抜ける。
弥彦……、その動きが異様にゆっくりと見えた。
スリを働こうというのか、身構えると目が合った弥彦は伸ばしかけた手を引っ込めてそのまま橋を駆けていく。
「待って!」
「うるせーな、今日は盗ってねーよ!あっ」
立ち止まった弥彦は振り返り、しまったと体を強張らせた。
うっかり口を滑らせて先日のスリを認めてしまい、決まり悪そうに顔を逸らした。
「この前は財布を忘れちゃってたから、だから盗れなかったんでしょ」
「なっ、何言ってんだよ!盗ったよ、お前から盗ったよ、こんなもん返してやる!」
「ぁ……」
離れた場所から夢主に投げつけられたのは先日弥彦にスラれた財布だ。
足元に落ちた財布に中身は無い。想像は付く。ヤクザ連中に奪われてしまったのだ。
「中身は……いつか返すから。今はそれだけだ」
「弥彦君……」
「何で俺の名前を」
「あっ……」
「スリで名前が知られちまうなんて情けねぇな……俺……」
「違うの、そうじゃないの……たまたま聞いちゃったんだ、弥彦君が名前を呼ばれているの……」
「なんだ、そういう事か。同情はいらねぇからな、警察に言いたいなら言えよ、俺は捕まらねぇから」
ヤクザ連中にボコられている姿を見られたのか。スリだけでも情けないのにそんな姿まで見られたのか。
もうどうでもいいと弥彦はヤケになって強がり、悲しい顔で走り出した。
「弥彦……」
名前を知ってる理由を言い訳出来ず、いらない嘘を吐いてしまった。
小さな士の大きな誇りを傷付けてしまった。
夢主は肩を落として家路を行った。
不貞腐れた弥彦は橋から河原へ降りた。
腰を下ろすと、待ってましたとばかりに見覚えるある男がやって来る。
「よぉ、弥彦"君"」
「なっテメェら見てたのかよ!」
目付け役のヤクザだ。弥彦にとって集金役でもある。
去って行く夢主をちらりと振り返ってから男は続けた。
「優しいなぁ弥彦"君"は。あの女から盗らなかったのかよ」
「盗ろうとしたよ、持ってなかったんだ、盗ったら空だったんだ」
見ていたのなら空の財布を叩き付けたのも知っているはず。
弥彦は嘘がばれないか緊張しながら男を睨みつけた。
「そいつはついてねぇな、ならさっさと次の獲物を探すんだな、払うモノはきっちり払えよ、今月の上納金がまだだろう」
「うるせぇ!スリなんてもう!」
「スリなんてしねぇってか、あぁそうか、金以外に納めるもんがあるってんだなぁ、あの姉ちゃん別嬪さんだもんなぁ~連れて来てくれるんならスリは勘弁してやるぜ、どうする」
「そんな事っ、卑怯だぞ!」
「どうせ赤の他人だろう、どうすんだよ」
「……持ってこりゃあいいんだろう、金は今日中に払うから、あの女は関係ねぇからな」
土手を歩いて行く夢主の姿が見えなくなり弥彦は胸を撫でおろした。
この町には貧乏人が山といるが金持ちも意外といるもんだ。阿漕な商売人や人から奪った金で贅沢している奴らから奪えばいい。
弥彦は再びスリを働く為に橋へ戻って行った。