46.お願い
夢主名前設定
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「ご存知だったんですね」
「だてに警官はしてないさ」
「ちょっと怖い人に絡まれて……」
「喧嘩屋、斬左か」
左之助に助けられたと話す前に出てきた名前。
さすがは情報に通じた密偵と言うべきか、全て見ていたとばかりに言い当てる。
夢主は大きな目を丸くして瞬いた。
「そんなに驚くな、最近破落戸共がまとめてぶっとばされる事件が多くてな。やられた奴らはただの喧嘩だと言うが揃って相手は喧嘩屋斬左と話すんだよ」
「喧嘩屋……斬左」
「あまり関わるなよ、面倒そうな男だ」
先日、斎藤は町外れで喧嘩屋がやりあっている現場に出くわした。
驚いた。いつかの河原で虚勢を張っていたガキだ。何度か姿を見たがその記憶とは全く違う、すっかり大人の体格をしていた。
繰り出す拳も悪くない。
「悪い方に転ぶなよ」
熱い気持ちがそのまま拳に乗っている。
鬱憤を抱えているな、喧嘩の仕方で見抜いた斎藤は、声が届かぬ距離で喧嘩に熱中する若い男に呟いてその場を去ったのだ。
「斬左さん……」
夢主の呟きで斎藤の意識は今に戻って来た。
「もう充分関わっちゃってるかもしれません……」
一緒に晩酌をしたことがあるなど口が裂けても言えない。
充分すぎる関わりがあると告げると、助けられた事実を知る斎藤は渋面をしている。
「これ以上は深入りするな」
「……努力します」
どちらとも取れる返事に斎藤のこめかみに筋が浮き出た。
斎藤が左之助をどれほど知っているのか夢主には分からない。
これからぶつかる二人なのだから自分が左之助と親しくなるのは望ましくない。
だが優しく懐かしい人物を思い出させてくれるあの人には会いたい。そうも願ってしまう。
「どうなっちゃうんだろう……」
「んっ」
「いえ、薫さんに喧嘩屋さん……いろんな方に出会ったなって思っただけです……」
「そうか」
斎藤もこの先、大きな混乱が待ち受けるだろうと予感していた。
偽抜刀斎、他にも厄介な話が全国から届く。
何より望むのは本物の人斬り抜刀斎、早くその姿をこの目に収めたいと願っていた。
「さて」
「っ、もう行っちゃうんですか」
「お前の顔を見に来ただけだ」
ふぅと息を吐いて立ち上がる斎藤。
自分のせいで任務の中断をと夢主がしょげる姿に、フッと笑いを堪えた息音が聞こえた。
「今回お前はまるっきりのとばっちりだろう、何も悪くない。怒っちゃいないさ」
「本当に怒っていませんか、わざわざ家に寄らせてしまって……」
「あぁ怒ってないさ。お前を襲った奴らをけしかけた男に目星は付いている。俺達は奴を監視しているから心配しなくていい」
「はい」
「よし……じゃあな」
「あぁぁっあの」
「どうした」
改めて出て行こうとすると袖口を掴まれた。
夢主はまだ俺を離したくないのか、いや、さすがに自惚れた考えだ。
困り事かと顔を覗けば頬をほんのり赤らめている。もじもじ言い難そうにしているが悪い事ではないと見える。
「あの……またこんな風に顔を見せてくださいね、一瞬で構いませんから。一さんの顔を見ると心が落ち着くので……ほんの少しでも……」
呼び止められた理由があまりに可愛らしく、斎藤はククッと喉を鳴らした。
「分かったよ」
口吸いをする前に力強く体を引き寄せた。
きつい抱擁が残り香を与えるとは知らず抱きしめる。
夢主は苦手な香りでも構わないと大きな胸に顔を埋めた。
「分かった、何とかなるだろう。だがあまり期待するなよ」
「はいっ」
期待しているじゃないか。
満面の笑みで首を傾げる夢主に、斎藤は出際の口づけを残して家を出た。
「だてに警官はしてないさ」
「ちょっと怖い人に絡まれて……」
「喧嘩屋、斬左か」
左之助に助けられたと話す前に出てきた名前。
さすがは情報に通じた密偵と言うべきか、全て見ていたとばかりに言い当てる。
夢主は大きな目を丸くして瞬いた。
「そんなに驚くな、最近破落戸共がまとめてぶっとばされる事件が多くてな。やられた奴らはただの喧嘩だと言うが揃って相手は喧嘩屋斬左と話すんだよ」
「喧嘩屋……斬左」
「あまり関わるなよ、面倒そうな男だ」
先日、斎藤は町外れで喧嘩屋がやりあっている現場に出くわした。
驚いた。いつかの河原で虚勢を張っていたガキだ。何度か姿を見たがその記憶とは全く違う、すっかり大人の体格をしていた。
繰り出す拳も悪くない。
「悪い方に転ぶなよ」
熱い気持ちがそのまま拳に乗っている。
鬱憤を抱えているな、喧嘩の仕方で見抜いた斎藤は、声が届かぬ距離で喧嘩に熱中する若い男に呟いてその場を去ったのだ。
「斬左さん……」
夢主の呟きで斎藤の意識は今に戻って来た。
「もう充分関わっちゃってるかもしれません……」
一緒に晩酌をしたことがあるなど口が裂けても言えない。
充分すぎる関わりがあると告げると、助けられた事実を知る斎藤は渋面をしている。
「これ以上は深入りするな」
「……努力します」
どちらとも取れる返事に斎藤のこめかみに筋が浮き出た。
斎藤が左之助をどれほど知っているのか夢主には分からない。
これからぶつかる二人なのだから自分が左之助と親しくなるのは望ましくない。
だが優しく懐かしい人物を思い出させてくれるあの人には会いたい。そうも願ってしまう。
「どうなっちゃうんだろう……」
「んっ」
「いえ、薫さんに喧嘩屋さん……いろんな方に出会ったなって思っただけです……」
「そうか」
斎藤もこの先、大きな混乱が待ち受けるだろうと予感していた。
偽抜刀斎、他にも厄介な話が全国から届く。
何より望むのは本物の人斬り抜刀斎、早くその姿をこの目に収めたいと願っていた。
「さて」
「っ、もう行っちゃうんですか」
「お前の顔を見に来ただけだ」
ふぅと息を吐いて立ち上がる斎藤。
自分のせいで任務の中断をと夢主がしょげる姿に、フッと笑いを堪えた息音が聞こえた。
「今回お前はまるっきりのとばっちりだろう、何も悪くない。怒っちゃいないさ」
「本当に怒っていませんか、わざわざ家に寄らせてしまって……」
「あぁ怒ってないさ。お前を襲った奴らをけしかけた男に目星は付いている。俺達は奴を監視しているから心配しなくていい」
「はい」
「よし……じゃあな」
「あぁぁっあの」
「どうした」
改めて出て行こうとすると袖口を掴まれた。
夢主はまだ俺を離したくないのか、いや、さすがに自惚れた考えだ。
困り事かと顔を覗けば頬をほんのり赤らめている。もじもじ言い難そうにしているが悪い事ではないと見える。
「あの……またこんな風に顔を見せてくださいね、一瞬で構いませんから。一さんの顔を見ると心が落ち着くので……ほんの少しでも……」
呼び止められた理由があまりに可愛らしく、斎藤はククッと喉を鳴らした。
「分かったよ」
口吸いをする前に力強く体を引き寄せた。
きつい抱擁が残り香を与えるとは知らず抱きしめる。
夢主は苦手な香りでも構わないと大きな胸に顔を埋めた。
「分かった、何とかなるだろう。だがあまり期待するなよ」
「はいっ」
期待しているじゃないか。
満面の笑みで首を傾げる夢主に、斎藤は出際の口づけを残して家を出た。