46.お願い
夢主名前設定
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人々が行き交う往来で一人立ち止まっている男がいた。
騒がしい周りと異なる静かな空気を漂わせている。
赤べこ帰りの夢主がやって来るのを待ち構えていた男は、通りを来るの見つけると行く手を塞ぐように姿を見せた。
「貴方は喜兵衛……さん……」
友人の家に住み込む奉公人なら怯える必要は無い。後退いて体を遠ざけ、相手を探るように視線を動かしている。
夢主の不用意な態度に喜兵衛の穏やかな顔の中で、微笑む瞳が小さく歪んだ。
「貴女は薫さんのご友人」
「はぃ……」
「お出掛けですか」
「え、いえ……仕事が終わって……」
「そうですか。すぐに暗くなりますからお気を付けて」
夢主の泳いだ目をじっと見つめた喜兵衛、にこりと微笑んで去って行った。
……間違いない、あの娘何か掴んでおる……
「さて、急ぐ必要がありそうだ」
喜兵衛は早足で遠ざかる夢主を見ながら路地に消えた。
逃げるように先を急ぐ夢主は不安で激しくなる鼓動を感じていた。
「どうしよう……どうしよう……」
大人しくしていると斎藤に約束したばかりだ。
この騒ぎは薫と緋村の出会いにも繋がる。関わってはならない。
神谷道場への危機を知っていても今は見守るのが最善。
「でも……」
先程の喜兵衛の表情。
夢主が薫と親しいと知り、様子を探ったのかもしれない。一見優しい微笑み顔には裏心が見えた。関わらずに過ごせるのだろうか。
「すみません、大川に出たいのですが」
考え事を遮って急に道を尋ねられた。
振り返ると人の好さそうな男が申し訳なさそうに立っている。
頭に手を置き、へこへこと腰が低い。
動きやすく端折った着物の裾からは股引が見えており脚絆を巻いている。旅人のようで荷物は無い。
夢主は不思議に感じながらもそう遠くない川までの道を思い浮かべた。
「大川……この道を真っ直ぐ行けばわかると思うんですが」
「あぁすぃやせんねぇ、儂らこの辺りの者じゃねぇんで詳しく教えて欲ぃんですよ」
「いいでしょうお嬢さん」
「え……」
気付けば一人だと思った迷い人が五人に増えている。全員が男、どう見ても好意的ではない。
男達は拳を鳴らして夢主を威嚇して見下ろした。
「さぁご案内願えますかね」
周囲を距離無く囲まれて、川に向かい歩くしか選択肢が見つからない。
男達が何者で目的は何なのか、夢主は逃げる隙を窺いながら考えた。
やがて川に辿り着いても解放されず、夢主は広い河原まで歩かされた。
土手を下り切ってようやく男達は詰めていた距離を解いた。夢主が人目から隠す為に取り囲んでいたのだ。
「さて、あんたは運が悪いな」
斎藤絡みの男達なのか、夢主は黙って睨みつけた。
「おぉ怖ぇ目だ。俺達はあんたに頼みがあるんだ」
「頼み……」
「あぁ。あんた道場って言ったらどこが思い浮かぶ」
「道場……」
沖田の道場と神谷道場。
この男達が誰の指示で動いているか察した夢主は、意を決して男達の輪から逃げ出した。
走って逃げるが、すぐに荒れた大きな手に掴まれて、その場に突っ伏した。
倒れた状態で腕を引っ張られて体が捻じれる。容赦ない扱いに夢主の顔が歪んだ。
「痛っ」
「思い浮かんだんだろう、そこで頼みなんだよ」
夢主が思い切り男の手を振り払うと、予想に反して男は素直に握りを解いた。
目の前にしゃがみ、余裕を見せる笑いをにやにやと浮かべている。
「ちょいとそこの土地の売買の書類に小娘の捺印を取ってきてくれよ」
「そんなこと」
「友達なんだろう、懐柔が無理なら多少強引でいい、友達なら許してくれるだろ」
「そんなこと出来ません!絶対にお断りです!」
「ほぉ、じゃあこのままは帰せねぇな」
「何を……」
「誰かに告げ口されちゃあ堪らねぇからな、喋れない体になるか、俺達に逆らえなくなるか、どっちかしかねぇなぁ」
町で取り囲んだ時と同様、一斉に拳を鳴らす男達。
力で黙らされるのが嫌なら分かるだろうと、卑しい笑いを浮かべている。
「俺達に奉仕しろ」
舌なめずりをした男が望みを言い終えたところで、突然その体が吹っ飛んでいった。
夢主は何が起きたか理解できずに座り込んでいる。
男達が焦った顔で同じ方角へ顔を向け、夢主もつられて顔を動かした。
騒がしい周りと異なる静かな空気を漂わせている。
赤べこ帰りの夢主がやって来るのを待ち構えていた男は、通りを来るの見つけると行く手を塞ぐように姿を見せた。
「貴方は喜兵衛……さん……」
友人の家に住み込む奉公人なら怯える必要は無い。後退いて体を遠ざけ、相手を探るように視線を動かしている。
夢主の不用意な態度に喜兵衛の穏やかな顔の中で、微笑む瞳が小さく歪んだ。
「貴女は薫さんのご友人」
「はぃ……」
「お出掛けですか」
「え、いえ……仕事が終わって……」
「そうですか。すぐに暗くなりますからお気を付けて」
夢主の泳いだ目をじっと見つめた喜兵衛、にこりと微笑んで去って行った。
……間違いない、あの娘何か掴んでおる……
「さて、急ぐ必要がありそうだ」
喜兵衛は早足で遠ざかる夢主を見ながら路地に消えた。
逃げるように先を急ぐ夢主は不安で激しくなる鼓動を感じていた。
「どうしよう……どうしよう……」
大人しくしていると斎藤に約束したばかりだ。
この騒ぎは薫と緋村の出会いにも繋がる。関わってはならない。
神谷道場への危機を知っていても今は見守るのが最善。
「でも……」
先程の喜兵衛の表情。
夢主が薫と親しいと知り、様子を探ったのかもしれない。一見優しい微笑み顔には裏心が見えた。関わらずに過ごせるのだろうか。
「すみません、大川に出たいのですが」
考え事を遮って急に道を尋ねられた。
振り返ると人の好さそうな男が申し訳なさそうに立っている。
頭に手を置き、へこへこと腰が低い。
動きやすく端折った着物の裾からは股引が見えており脚絆を巻いている。旅人のようで荷物は無い。
夢主は不思議に感じながらもそう遠くない川までの道を思い浮かべた。
「大川……この道を真っ直ぐ行けばわかると思うんですが」
「あぁすぃやせんねぇ、儂らこの辺りの者じゃねぇんで詳しく教えて欲ぃんですよ」
「いいでしょうお嬢さん」
「え……」
気付けば一人だと思った迷い人が五人に増えている。全員が男、どう見ても好意的ではない。
男達は拳を鳴らして夢主を威嚇して見下ろした。
「さぁご案内願えますかね」
周囲を距離無く囲まれて、川に向かい歩くしか選択肢が見つからない。
男達が何者で目的は何なのか、夢主は逃げる隙を窺いながら考えた。
やがて川に辿り着いても解放されず、夢主は広い河原まで歩かされた。
土手を下り切ってようやく男達は詰めていた距離を解いた。夢主が人目から隠す為に取り囲んでいたのだ。
「さて、あんたは運が悪いな」
斎藤絡みの男達なのか、夢主は黙って睨みつけた。
「おぉ怖ぇ目だ。俺達はあんたに頼みがあるんだ」
「頼み……」
「あぁ。あんた道場って言ったらどこが思い浮かぶ」
「道場……」
沖田の道場と神谷道場。
この男達が誰の指示で動いているか察した夢主は、意を決して男達の輪から逃げ出した。
走って逃げるが、すぐに荒れた大きな手に掴まれて、その場に突っ伏した。
倒れた状態で腕を引っ張られて体が捻じれる。容赦ない扱いに夢主の顔が歪んだ。
「痛っ」
「思い浮かんだんだろう、そこで頼みなんだよ」
夢主が思い切り男の手を振り払うと、予想に反して男は素直に握りを解いた。
目の前にしゃがみ、余裕を見せる笑いをにやにやと浮かべている。
「ちょいとそこの土地の売買の書類に小娘の捺印を取ってきてくれよ」
「そんなこと」
「友達なんだろう、懐柔が無理なら多少強引でいい、友達なら許してくれるだろ」
「そんなこと出来ません!絶対にお断りです!」
「ほぉ、じゃあこのままは帰せねぇな」
「何を……」
「誰かに告げ口されちゃあ堪らねぇからな、喋れない体になるか、俺達に逆らえなくなるか、どっちかしかねぇなぁ」
町で取り囲んだ時と同様、一斉に拳を鳴らす男達。
力で黙らされるのが嫌なら分かるだろうと、卑しい笑いを浮かべている。
「俺達に奉仕しろ」
舌なめずりをした男が望みを言い終えたところで、突然その体が吹っ飛んでいった。
夢主は何が起きたか理解できずに座り込んでいる。
男達が焦った顔で同じ方角へ顔を向け、夢主もつられて顔を動かした。