46.お願い
夢主名前設定
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「あの、町で聞いたんです。人斬り抜刀斎が出たって……」
正確に言えば知らずにいた自分に薫が教えてくれた。
どう考えても偽物の人斬り抜刀斎が辻斬りをして死傷者を出している。
斎藤が事件を追っていないはずがない。
そっと見上げると、渋い顔で垂れた前髪の向こうに深い皺を刻んでいた。
「そんな顔しなくっても……」
「噂通りだ。人斬り抜刀斎と名乗る辻斬りが出ている。それだけだ」
「そうですよね、偽物……ですよね」
俺は何も言っていない。
強く睨まれ、夢主はしゅんと肩を落とした。
「ま、どうせお前の考え通りだ。だから近付くなと言った。その意味も分かるだろう」
こくんと頷くしかない。
妻の頭が小さく動くのを見て、斎藤は小さな溜め息を漏らした。
「ちゃんと監視下にある。あの娘の事は心配いらん」
「はぃ……あの、それが理由で帰れないんですよね、一さん体に気を付けてください」
「阿呆、俺の体は丈夫だ。自分で管理できるから案ずるな」
「はい」
これからいろんな事が続くんだ……
夢主は斎藤の顔を見上げながら、走馬灯のように記憶を辿った。
「またどこかで顔を見せる。今までのように帰れずとも心配無用だ」
「はい、ちゃんと迷惑にならないように私も大人しくしています」
「あぁ、頼んだぞ」
いい子だ……
まるでそう言うように斎藤は夢主の頭を撫でて、そのまま顔を近付け唇を合わせた。
「少し休んでから出る」
「はい」
警視庁の一室で休むこともできるのにわざわざ家に戻ってくれるなんて。
夢主は廊下を行く背中に「ふふっ」と微笑みかけた。
一時間ほど過ごして出て行くのだろうか。
考えていると斎藤はベルトを外し上着を脱いで、置いてあった長着に手を掛けた。
「着替えるんですか」
「少し休むといっただろう。さすがに制服で横にはならん」
「休むって寝るって事だったんですね」
真っ昼間、警官、それも密偵が家に帰って仮眠とはなかなか面白い。警視庁には立派な長椅子があり、いくらでも休める。
夢主は余計なことを言わぬよう、にやつきながら口元を引き締めた。
「小一時間ほどで起こしてくれ」
「そんなに短くていいんですか」
「あぁ。頼んだぞ」
「はい、必ず起こしますから任せてください!」
起こされなくとも起きる自信はあるが、斎藤は言い終えるとすぐに手枕で転がった。
布団敷くのに……夢主は部屋の隅の布団に目をやった。熟睡しては困るからこうやって寝るのかもしれない。
夢主は久しぶりの寝顔のそばに腰を下ろした。
すぐに浅い眠りに入ってしまった斎藤。
凛々しい顔が目を閉じている珍しい眺め。
……見ててもいいよね……
寝息が聞けるなんていつ以来か、耳を澄ませば単調な時計の振り子の音が聞こえてきた。
同じ調子で繰り返される音は心地良くもある。
……綺麗だな、一さん……
美しい寝顔を見つめる夢主の目も細くなっている。
嬉しさで細くなった目が、いつしか眠気に襲われて細くなっていた。
気付けばうつらうつらと舟をこぎ始め、斎藤が自ら目覚めた時には夢主は畳の上に横たわっていた。
正確に言えば知らずにいた自分に薫が教えてくれた。
どう考えても偽物の人斬り抜刀斎が辻斬りをして死傷者を出している。
斎藤が事件を追っていないはずがない。
そっと見上げると、渋い顔で垂れた前髪の向こうに深い皺を刻んでいた。
「そんな顔しなくっても……」
「噂通りだ。人斬り抜刀斎と名乗る辻斬りが出ている。それだけだ」
「そうですよね、偽物……ですよね」
俺は何も言っていない。
強く睨まれ、夢主はしゅんと肩を落とした。
「ま、どうせお前の考え通りだ。だから近付くなと言った。その意味も分かるだろう」
こくんと頷くしかない。
妻の頭が小さく動くのを見て、斎藤は小さな溜め息を漏らした。
「ちゃんと監視下にある。あの娘の事は心配いらん」
「はぃ……あの、それが理由で帰れないんですよね、一さん体に気を付けてください」
「阿呆、俺の体は丈夫だ。自分で管理できるから案ずるな」
「はい」
これからいろんな事が続くんだ……
夢主は斎藤の顔を見上げながら、走馬灯のように記憶を辿った。
「またどこかで顔を見せる。今までのように帰れずとも心配無用だ」
「はい、ちゃんと迷惑にならないように私も大人しくしています」
「あぁ、頼んだぞ」
いい子だ……
まるでそう言うように斎藤は夢主の頭を撫でて、そのまま顔を近付け唇を合わせた。
「少し休んでから出る」
「はい」
警視庁の一室で休むこともできるのにわざわざ家に戻ってくれるなんて。
夢主は廊下を行く背中に「ふふっ」と微笑みかけた。
一時間ほど過ごして出て行くのだろうか。
考えていると斎藤はベルトを外し上着を脱いで、置いてあった長着に手を掛けた。
「着替えるんですか」
「少し休むといっただろう。さすがに制服で横にはならん」
「休むって寝るって事だったんですね」
真っ昼間、警官、それも密偵が家に帰って仮眠とはなかなか面白い。警視庁には立派な長椅子があり、いくらでも休める。
夢主は余計なことを言わぬよう、にやつきながら口元を引き締めた。
「小一時間ほどで起こしてくれ」
「そんなに短くていいんですか」
「あぁ。頼んだぞ」
「はい、必ず起こしますから任せてください!」
起こされなくとも起きる自信はあるが、斎藤は言い終えるとすぐに手枕で転がった。
布団敷くのに……夢主は部屋の隅の布団に目をやった。熟睡しては困るからこうやって寝るのかもしれない。
夢主は久しぶりの寝顔のそばに腰を下ろした。
すぐに浅い眠りに入ってしまった斎藤。
凛々しい顔が目を閉じている珍しい眺め。
……見ててもいいよね……
寝息が聞けるなんていつ以来か、耳を澄ませば単調な時計の振り子の音が聞こえてきた。
同じ調子で繰り返される音は心地良くもある。
……綺麗だな、一さん……
美しい寝顔を見つめる夢主の目も細くなっている。
嬉しさで細くなった目が、いつしか眠気に襲われて細くなっていた。
気付けばうつらうつらと舟をこぎ始め、斎藤が自ら目覚めた時には夢主は畳の上に横たわっていた。