46.お願い
夢主名前設定
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「薫さん、こちらの方は」
「夢主さんです。私の友人よ。父とも面識があったの」
「ほぉ、そうですか御父上の。よろしくお願いします、夢主さん」
にっと弓なりに細くなる目に、夢主は悪寒を感じた。
はたから見れば全く失礼な初見の挨拶だろう。
強張った顔で黙って会釈を返すのが精一杯だった。
……この娘……
奸知に長けた喜兵衛は妙な感覚を素直に疑った。
神谷の小娘にやっと取り入ったばかりだ。この娘は邪魔になるかもしれない。
顔を強張らせて足早に去る夢主を細い目で睨みつけた。
「薫さん、申し訳ないのですがもうひとつ用事を忘れていました。先に戻っていただけますか」
「えっ、えぇもちろんよ。気を付けてね」
喜兵衛は視線の先の娘が消えないうちに薫に別れを告げた。
人ごみの中を急ぐ夢主の後をつけ、住処を突き止めようとしている。
「ふむ、神谷道場からそう遠くないですね」
やがて人けのない道に出て、夢主はいつも通り近道をしようと沖田屋敷の門をくぐった。
門前で立ち止まった喜兵衛は入口の看板を見上げた。
「こんな所にも道場が。これは覚えておきましょう」
看板をしっかり目に焼き付け、好々爺の顔のまま喜兵衛は帰って行った。
夢主は最近斎藤の帰りが遅くなったことを気にしていた。
家に戻った形跡はあるが、顔を見ない朝が増えていた。
薫の同居人の事もある。少しでいいから話がしたい。
「今夜もきっと遅いんだろうな。薫さんの事を見てくれているのかな……」
それはそれで、寝ずの番を心配してしまう。
その夜も夫と顔を合わせることなく、ひとり布団に身を滑らせた。
翌朝、帰宅した形跡すら感じられない。
全ての物が変わらぬ場所に置かれ、衝立に掛けた斎藤の寝巻もそのままだ。
不安に思っていると昼間、突然玄関を開く音が聞こえた。
「一さん!」
「久しぶりだな、すまん」
夫婦なのになと自嘲する顔がとても愛おしく見える。
夢主は首を振って微笑んだ。
「顔を見せに帰ってくれたんですか」
「まぁそんなトコだな」
フッと笑う斎藤、本当にそうなのかもしれない。
飛びつくように抱き着いて、ぎゅっと腕を回した。
「実は少し寂しかったんです。不安と言うか……気になる事がいくつかあって……」
薫とその住み込み人について話せば、近付くなと言っただろうと怒られるだろうか。
それでも疑問が多すぎる夢主は一つくらい減らしたいと思い切った。
「夢主さんです。私の友人よ。父とも面識があったの」
「ほぉ、そうですか御父上の。よろしくお願いします、夢主さん」
にっと弓なりに細くなる目に、夢主は悪寒を感じた。
はたから見れば全く失礼な初見の挨拶だろう。
強張った顔で黙って会釈を返すのが精一杯だった。
……この娘……
奸知に長けた喜兵衛は妙な感覚を素直に疑った。
神谷の小娘にやっと取り入ったばかりだ。この娘は邪魔になるかもしれない。
顔を強張らせて足早に去る夢主を細い目で睨みつけた。
「薫さん、申し訳ないのですがもうひとつ用事を忘れていました。先に戻っていただけますか」
「えっ、えぇもちろんよ。気を付けてね」
喜兵衛は視線の先の娘が消えないうちに薫に別れを告げた。
人ごみの中を急ぐ夢主の後をつけ、住処を突き止めようとしている。
「ふむ、神谷道場からそう遠くないですね」
やがて人けのない道に出て、夢主はいつも通り近道をしようと沖田屋敷の門をくぐった。
門前で立ち止まった喜兵衛は入口の看板を見上げた。
「こんな所にも道場が。これは覚えておきましょう」
看板をしっかり目に焼き付け、好々爺の顔のまま喜兵衛は帰って行った。
夢主は最近斎藤の帰りが遅くなったことを気にしていた。
家に戻った形跡はあるが、顔を見ない朝が増えていた。
薫の同居人の事もある。少しでいいから話がしたい。
「今夜もきっと遅いんだろうな。薫さんの事を見てくれているのかな……」
それはそれで、寝ずの番を心配してしまう。
その夜も夫と顔を合わせることなく、ひとり布団に身を滑らせた。
翌朝、帰宅した形跡すら感じられない。
全ての物が変わらぬ場所に置かれ、衝立に掛けた斎藤の寝巻もそのままだ。
不安に思っていると昼間、突然玄関を開く音が聞こえた。
「一さん!」
「久しぶりだな、すまん」
夫婦なのになと自嘲する顔がとても愛おしく見える。
夢主は首を振って微笑んだ。
「顔を見せに帰ってくれたんですか」
「まぁそんなトコだな」
フッと笑う斎藤、本当にそうなのかもしれない。
飛びつくように抱き着いて、ぎゅっと腕を回した。
「実は少し寂しかったんです。不安と言うか……気になる事がいくつかあって……」
薫とその住み込み人について話せば、近付くなと言っただろうと怒られるだろうか。
それでも疑問が多すぎる夢主は一つくらい減らしたいと思い切った。