46.お願い
夢主名前設定
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薫と笑顔で向き合ってから暫く経ったある夜の辻。
酔い心地で歩く男達が突如現れた大男に襲われていた。
「ひぎぁあああ!」
悲鳴を上げて倒れる男。
一人二人と斬り殺されて残った男が死を覚悟した時、二の腕に激痛が走った。
触れると痛みの元に血のぬめり。命は取られていなかった。
「我は抜刀斎!神谷活心流、緋村抜刀斎!!人呼んで人斬り抜刀斎!!」
男はそれ以上斬られず、大男の言葉を最後まで聞かされた。
辻斬りは名乗りを残して消えた。
冷たい土の上には、今の今まで楽しく笑っていた連れが転がっている。
傷口を押さえた男は慌てて医者へ駆け込んだ。
事件はすぐに警察にも伝わった。
「人斬り抜刀斎だと」
情報は話を聞いた巡査から、帰り支度をしている斎藤のもとへ届けられた。
「神谷活心流、緋村抜刀斎。馬鹿な」
本音を口にしていた。
すぐさま当直の巡査達に指示を出し、市中警戒にあたらせた。
自身も疑問を抱いて夜の街を巡察する。
この夜以降、似たような辻斬りが度々発生し、奇妙なことに必ず生存者がおり、彼らは揃って辻斬りの名乗りを訴えた。
神谷活心流は人斬りの流派。
今まで町で評判だった神谷の名は一気に地に落ち、門人達はあっという間に姿を消した。
人の心は無情なのか。
噂を耳にした斎藤は時折市中警邏を装って神谷の娘の無事を確かめていた。
越路郎に似て随分真っ直ぐな性格をしているらしい。無茶をしそうだが、噂を苦に自ら命を絶つ危険は感じない。
辻斬りの件は観察下に置く良い名目だ。
斎藤は部下に指示し付近を警戒させた。ただし手を下すのは娘に命の危機が真に迫った時のみ。
危うい程度で手出しは無用と伝えられた。
事件が続き川路へ報告が届くと政府高官にも話が伝わり、幕末の抜刀斎を知る者達がざわついた。
大久保は川路と連絡を取り、現れた緋村が本物かどうか確認し、本物ならば説得して会う段取りをつけろと指示をした。
斎藤は改めて「辻斬り抜刀斎」の捜索を任じられた。
夢主は神谷道場を訪れるのは控えていた。
斎藤との約束を守っている。
偽抜刀斎が神谷活心流を名乗る事件のせいで、神谷道場は存続の危機に陥っていた。
稽古代が入らなくなった今、薫は僅かに残った財産を売り払って食べ繋いでいた。
赤べこに顔を出したくても先行き不安な今は少しでも節約したい。
店の前でうろうろしていると、会いたい人物が戸を開けて暖簾をくぐり笑顔を見せた。
「夢主さん」
「薫さん!これからお食事ですか」
「いえ、今日はちょっと……実は今節約してて」
「そうなんですか……」
夢主は家と赤べこの行き来で忙しく、偽抜刀斎の騒動を知らない。
辻斬りが恐ろしい、その程度の噂しか耳にしていなかった。
「道場を売って悠々自適の生活をしてはどうかって勧めてくれるんだけどやっぱりね、道場は続けたいから。食事は家で済ませるわ」
「道場を、売れと言う人がいるんですか」
「うん。優しさからなんだと思うけど……それに父が起こした流派を汚されたまま逃げ出すなんて出来ないわ」
「汚されたまま……」
「夢主さん知らないの、最近うちの流派を名乗る辻斬りがいるのよ!いい迷惑だわ、なんの恨みがあるのか知らないけど、こっちは恨まれる覚えなんて一つもないんだから!」
「薫さん、それって……」
偽抜刀斎による神谷道場の乗っ取り事件。
すぐに比留間兄弟による騒動が思い浮かんだ。
「薫さん、もしかして家に住み込んでる人がいるんじゃ……」
詳しく語れば薫を救えるかもしれない。だが斎藤との約束を反故にしてしまう。
言葉に詰まると薫は笑顔で誰かに手を振った。
「住み込み人いるわよ、あの人。喜兵衛って言うの。とっても面倒見がいいのよ」
「どうも薫さん、お待たせしました」
人の好い好々爺の仮面で夢主に会釈をする白髪の男。
男が誰か、一瞬で判別した夢主は顔が強張った。
酔い心地で歩く男達が突如現れた大男に襲われていた。
「ひぎぁあああ!」
悲鳴を上げて倒れる男。
一人二人と斬り殺されて残った男が死を覚悟した時、二の腕に激痛が走った。
触れると痛みの元に血のぬめり。命は取られていなかった。
「我は抜刀斎!神谷活心流、緋村抜刀斎!!人呼んで人斬り抜刀斎!!」
男はそれ以上斬られず、大男の言葉を最後まで聞かされた。
辻斬りは名乗りを残して消えた。
冷たい土の上には、今の今まで楽しく笑っていた連れが転がっている。
傷口を押さえた男は慌てて医者へ駆け込んだ。
事件はすぐに警察にも伝わった。
「人斬り抜刀斎だと」
情報は話を聞いた巡査から、帰り支度をしている斎藤のもとへ届けられた。
「神谷活心流、緋村抜刀斎。馬鹿な」
本音を口にしていた。
すぐさま当直の巡査達に指示を出し、市中警戒にあたらせた。
自身も疑問を抱いて夜の街を巡察する。
この夜以降、似たような辻斬りが度々発生し、奇妙なことに必ず生存者がおり、彼らは揃って辻斬りの名乗りを訴えた。
神谷活心流は人斬りの流派。
今まで町で評判だった神谷の名は一気に地に落ち、門人達はあっという間に姿を消した。
人の心は無情なのか。
噂を耳にした斎藤は時折市中警邏を装って神谷の娘の無事を確かめていた。
越路郎に似て随分真っ直ぐな性格をしているらしい。無茶をしそうだが、噂を苦に自ら命を絶つ危険は感じない。
辻斬りの件は観察下に置く良い名目だ。
斎藤は部下に指示し付近を警戒させた。ただし手を下すのは娘に命の危機が真に迫った時のみ。
危うい程度で手出しは無用と伝えられた。
事件が続き川路へ報告が届くと政府高官にも話が伝わり、幕末の抜刀斎を知る者達がざわついた。
大久保は川路と連絡を取り、現れた緋村が本物かどうか確認し、本物ならば説得して会う段取りをつけろと指示をした。
斎藤は改めて「辻斬り抜刀斎」の捜索を任じられた。
夢主は神谷道場を訪れるのは控えていた。
斎藤との約束を守っている。
偽抜刀斎が神谷活心流を名乗る事件のせいで、神谷道場は存続の危機に陥っていた。
稽古代が入らなくなった今、薫は僅かに残った財産を売り払って食べ繋いでいた。
赤べこに顔を出したくても先行き不安な今は少しでも節約したい。
店の前でうろうろしていると、会いたい人物が戸を開けて暖簾をくぐり笑顔を見せた。
「夢主さん」
「薫さん!これからお食事ですか」
「いえ、今日はちょっと……実は今節約してて」
「そうなんですか……」
夢主は家と赤べこの行き来で忙しく、偽抜刀斎の騒動を知らない。
辻斬りが恐ろしい、その程度の噂しか耳にしていなかった。
「道場を売って悠々自適の生活をしてはどうかって勧めてくれるんだけどやっぱりね、道場は続けたいから。食事は家で済ませるわ」
「道場を、売れと言う人がいるんですか」
「うん。優しさからなんだと思うけど……それに父が起こした流派を汚されたまま逃げ出すなんて出来ないわ」
「汚されたまま……」
「夢主さん知らないの、最近うちの流派を名乗る辻斬りがいるのよ!いい迷惑だわ、なんの恨みがあるのか知らないけど、こっちは恨まれる覚えなんて一つもないんだから!」
「薫さん、それって……」
偽抜刀斎による神谷道場の乗っ取り事件。
すぐに比留間兄弟による騒動が思い浮かんだ。
「薫さん、もしかして家に住み込んでる人がいるんじゃ……」
詳しく語れば薫を救えるかもしれない。だが斎藤との約束を反故にしてしまう。
言葉に詰まると薫は笑顔で誰かに手を振った。
「住み込み人いるわよ、あの人。喜兵衛って言うの。とっても面倒見がいいのよ」
「どうも薫さん、お待たせしました」
人の好い好々爺の仮面で夢主に会釈をする白髪の男。
男が誰か、一瞬で判別した夢主は顔が強張った。