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夜、斎藤が落ち着くのを待ち、上機嫌で錦絵を差し出した。
「何だこれは」
「中島登さんの絵です。見つけたんですよ!」
「山口二郎、享年二十七歳……おい、お前」
手にした絵に添えられた文字を読み進めるうち、みるみる眉間に皺が寄っていく。
夢主は怯むどころか笑顔を弾けさせた。
「怒らないでください、凄いですよ、中島さんの絵です!探したんですから!……探してもらったんですけど」
「前に話したお前が俺に言えないってのはこの事か、何だこれは」
「違いますよ、そうでは……でも嬉しくありませんか、凛々しいお姿です。中島さんにはこう見えていたんですね」
「似とらん。俺は死んじゃいない。そもそも」
品がない。
中島は勇ましく描きたかったのだろうが、敵首を持つ描写に斎藤は険しい顔を見せた。
文句を言いたいが夢主に向けても意味が無い。
夢主を一瞥するが、絵に戻って己を偲ぶ文章に目を走らせた。
……撃剣ヲ能クシ柔ニシテ能ク剛ヲ制スノ器アリ……后会津ニ来テ縷々戦功アルニヨリ昇任シテ終ニ隊長トナリ……
紙上には斎藤を褒め湛える言葉が並んでいる。
阿呆が……斎藤は懐かしい男を思い浮かべ、胸の中で遠いあの日に微笑みかけた。
「中島さんもご存命なんですよね、お会いになっていないんですか」
「機会がない。俺は忙しい。永倉さんを通して俺の存在は伝っているだろう」
碑の建立に飛び回っていた永倉。
中島の存命も知っており連絡を取ったとすれば、斎藤の生存も伝わっているはず。
絵が描かれたのが箱館戦争終了直後なのだから仕方ないと言えばそれまで。
斎藤は結成間近から終焉の時まで新選組に身を賭した男に免じて、絵の存在を諦めた。
絵を信じる者もいるだろうが、死んだと思わせておけば密偵としては楽である。
「この絵も総司さんの部屋に貼ってもらいますね」
絵の存在を渋々ながら受け入れたばかりの斎藤、夢主の一言で再び青筋が浮いた。
「貼るな。貼ったら俺は破くぞ」
「えぇー何でですか!」
「取っておきたいなら上に片付けておけ」
そう言って斎藤は絵を突き返した。
「もう、貴重な一枚なのに。一さんが嫌って言うなら無理にとは言いませんけど……」
「嫌だ」
「……」
斎藤が素っ気なく言い捨てた一言が夢主には珍しく、夫に対し思いがけない感情を抱いた。
「可愛い……一さんが嫌だだなんて……」
「んんっ!」
斎藤は大きな咳払いと共に顔を背けた。
夢主は堪らず「ふふふっ」と肩を揺らす。
「ごめんなさい、今日の一さん可愛いです……ふふっ」
「お前に言われたくない」
お前が可愛いと言わんばかりの一言。ちょっとした惑乱状態だ。
それでも一切紅潮しないのは流石としか言えない。
ふぅ、と大きく息を吐いた斎藤。
おもむろに部屋を出て、すぐに戻ってきた。
「何だこれは」
「中島登さんの絵です。見つけたんですよ!」
「山口二郎、享年二十七歳……おい、お前」
手にした絵に添えられた文字を読み進めるうち、みるみる眉間に皺が寄っていく。
夢主は怯むどころか笑顔を弾けさせた。
「怒らないでください、凄いですよ、中島さんの絵です!探したんですから!……探してもらったんですけど」
「前に話したお前が俺に言えないってのはこの事か、何だこれは」
「違いますよ、そうでは……でも嬉しくありませんか、凛々しいお姿です。中島さんにはこう見えていたんですね」
「似とらん。俺は死んじゃいない。そもそも」
品がない。
中島は勇ましく描きたかったのだろうが、敵首を持つ描写に斎藤は険しい顔を見せた。
文句を言いたいが夢主に向けても意味が無い。
夢主を一瞥するが、絵に戻って己を偲ぶ文章に目を走らせた。
……撃剣ヲ能クシ柔ニシテ能ク剛ヲ制スノ器アリ……后会津ニ来テ縷々戦功アルニヨリ昇任シテ終ニ隊長トナリ……
紙上には斎藤を褒め湛える言葉が並んでいる。
阿呆が……斎藤は懐かしい男を思い浮かべ、胸の中で遠いあの日に微笑みかけた。
「中島さんもご存命なんですよね、お会いになっていないんですか」
「機会がない。俺は忙しい。永倉さんを通して俺の存在は伝っているだろう」
碑の建立に飛び回っていた永倉。
中島の存命も知っており連絡を取ったとすれば、斎藤の生存も伝わっているはず。
絵が描かれたのが箱館戦争終了直後なのだから仕方ないと言えばそれまで。
斎藤は結成間近から終焉の時まで新選組に身を賭した男に免じて、絵の存在を諦めた。
絵を信じる者もいるだろうが、死んだと思わせておけば密偵としては楽である。
「この絵も総司さんの部屋に貼ってもらいますね」
絵の存在を渋々ながら受け入れたばかりの斎藤、夢主の一言で再び青筋が浮いた。
「貼るな。貼ったら俺は破くぞ」
「えぇー何でですか!」
「取っておきたいなら上に片付けておけ」
そう言って斎藤は絵を突き返した。
「もう、貴重な一枚なのに。一さんが嫌って言うなら無理にとは言いませんけど……」
「嫌だ」
「……」
斎藤が素っ気なく言い捨てた一言が夢主には珍しく、夫に対し思いがけない感情を抱いた。
「可愛い……一さんが嫌だだなんて……」
「んんっ!」
斎藤は大きな咳払いと共に顔を背けた。
夢主は堪らず「ふふふっ」と肩を揺らす。
「ごめんなさい、今日の一さん可愛いです……ふふっ」
「お前に言われたくない」
お前が可愛いと言わんばかりの一言。ちょっとした惑乱状態だ。
それでも一切紅潮しないのは流石としか言えない。
ふぅ、と大きく息を吐いた斎藤。
おもむろに部屋を出て、すぐに戻ってきた。