44.静観
夢主名前設定
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「あの……」
「いえ、ごめんなさい、大丈夫ですから!私も道場を盛り上げるのに忙しいんです!夢主さんと一緒、忙しいの!」
あからさまな拒みの笑顔を向けられ、夢主は凍り付いた。
今なら夕べの斎藤の言葉の意味がよく分かる。
近ければ近いほど互いを傷つけてしまう。距離が必要な時もあるから、時を待てと言いたかったのだろう。
「大丈夫ですよ、心配しないでください!私は大丈夫です。それじゃ、稽古がありますのでこれで!失礼します!」
「薫さん……」
神谷道場の門下生はまだ欠けることなく竹刀を振っているのだろうか。
一人踏ん張る薫の力になりたいと願うが、「それじゃあ!」と言い切り背中を向ける姿に、伸ばしかけた手を引いた。
今は関わりたくないと楚々とした背中から伝わってくる。
夢主を見れば父を思い出し、自分だけ大切な人が戻らない理不尽を感じてしまう。
……少し、距離を置いた方がいいのかもしれない……
闇雲に手を伸ばしても、求めない者にとっては煩わしいだけ。
自分の為ではいけない、薫の為になる行動を取らなければ。
夢主は引いた手で拳を作って決心した。
「あの、私……神谷道場には行きませんから!」
「……」
何を言うんですか……。
今度は薫が凍るように立ち止まった。
急ぎ足で去ろうとしたはずが立ち止まり、目を丸くして振り返れずにいる。
「でも、もしお手伝いが要るなら言ってください!薫さんが落ち着いたら赤べこに来てください!私ずっと待ってます、ずっと働いてますから、いつでも来てください!」
「夢主……さん……」
懸命に叫ぶ夢主の声が背中に届く。
自分を気遣う声に、薫はゆっくり振り返った。
必死に気を張って過ごす毎日。思いがけない優しさに薫は奥歯を噛みしめた。
込み上げる熱いものに負けないよう、密かに耐えていた。
「ゆっくり休んで……いつか、赤べこに来てください」
「……」
「道場があって、お家のこともあって、大変だけど……ゆっくり休んで、もし助けて欲しい時はいつでも……私は、うぅん、みんな、みんな薫さんの味方だから」
振り向いた薫の姿を見て、夢主の声は小さくなっていった。
想いが伝わったのか、薫は黙って深く頭を下げた。そして背を向け歩いて行った。
泣きたいのは私より薫さん。
見送った夢主も込み上げる涙を必死に堪えていた。
……薫さんが辛いのは当然、私を見て辛く感じるのも当たり前。だから……気にしないで……心が落ち着くまで静かに過ごして、寂しくなったらいつでも会いに来てください……
どう接して良いのか正直分からない。
悲しみが増す今、距離を望む薫がいる。
悲しみを乗り越える方法も、心が癒える時間も人により異なる。頃合いが分からないなら待とう。
永久の別れを何度も味わい痛みが分かる自分だからこそ、薫の心の回復を待とうと、夢主は辛い選択を自らに課した。
「一さんに謝らないと……」
今朝の大人げない自分の振る舞い。
斎藤には見えていたのだ。これからを知っている自分より余程"今"が見えている。
素直に謝り、心砕いてくれた事に感謝しよう。
「一さん、ありがとうございます」
すっかり明るさを取り戻した顔で斎藤の顔を思い浮かべ、想いを溢した。
うじうじしても仕方ない、薫がいつでも飛び込んでこられるよう、笑顔で待っていよう。
「よしっ、大丈夫!」
夢主は晴れた空に向かい大きな伸びをした。
「いえ、ごめんなさい、大丈夫ですから!私も道場を盛り上げるのに忙しいんです!夢主さんと一緒、忙しいの!」
あからさまな拒みの笑顔を向けられ、夢主は凍り付いた。
今なら夕べの斎藤の言葉の意味がよく分かる。
近ければ近いほど互いを傷つけてしまう。距離が必要な時もあるから、時を待てと言いたかったのだろう。
「大丈夫ですよ、心配しないでください!私は大丈夫です。それじゃ、稽古がありますのでこれで!失礼します!」
「薫さん……」
神谷道場の門下生はまだ欠けることなく竹刀を振っているのだろうか。
一人踏ん張る薫の力になりたいと願うが、「それじゃあ!」と言い切り背中を向ける姿に、伸ばしかけた手を引いた。
今は関わりたくないと楚々とした背中から伝わってくる。
夢主を見れば父を思い出し、自分だけ大切な人が戻らない理不尽を感じてしまう。
……少し、距離を置いた方がいいのかもしれない……
闇雲に手を伸ばしても、求めない者にとっては煩わしいだけ。
自分の為ではいけない、薫の為になる行動を取らなければ。
夢主は引いた手で拳を作って決心した。
「あの、私……神谷道場には行きませんから!」
「……」
何を言うんですか……。
今度は薫が凍るように立ち止まった。
急ぎ足で去ろうとしたはずが立ち止まり、目を丸くして振り返れずにいる。
「でも、もしお手伝いが要るなら言ってください!薫さんが落ち着いたら赤べこに来てください!私ずっと待ってます、ずっと働いてますから、いつでも来てください!」
「夢主……さん……」
懸命に叫ぶ夢主の声が背中に届く。
自分を気遣う声に、薫はゆっくり振り返った。
必死に気を張って過ごす毎日。思いがけない優しさに薫は奥歯を噛みしめた。
込み上げる熱いものに負けないよう、密かに耐えていた。
「ゆっくり休んで……いつか、赤べこに来てください」
「……」
「道場があって、お家のこともあって、大変だけど……ゆっくり休んで、もし助けて欲しい時はいつでも……私は、うぅん、みんな、みんな薫さんの味方だから」
振り向いた薫の姿を見て、夢主の声は小さくなっていった。
想いが伝わったのか、薫は黙って深く頭を下げた。そして背を向け歩いて行った。
泣きたいのは私より薫さん。
見送った夢主も込み上げる涙を必死に堪えていた。
……薫さんが辛いのは当然、私を見て辛く感じるのも当たり前。だから……気にしないで……心が落ち着くまで静かに過ごして、寂しくなったらいつでも会いに来てください……
どう接して良いのか正直分からない。
悲しみが増す今、距離を望む薫がいる。
悲しみを乗り越える方法も、心が癒える時間も人により異なる。頃合いが分からないなら待とう。
永久の別れを何度も味わい痛みが分かる自分だからこそ、薫の心の回復を待とうと、夢主は辛い選択を自らに課した。
「一さんに謝らないと……」
今朝の大人げない自分の振る舞い。
斎藤には見えていたのだ。これからを知っている自分より余程"今"が見えている。
素直に謝り、心砕いてくれた事に感謝しよう。
「一さん、ありがとうございます」
すっかり明るさを取り戻した顔で斎藤の顔を思い浮かべ、想いを溢した。
うじうじしても仕方ない、薫がいつでも飛び込んでこられるよう、笑顔で待っていよう。
「よしっ、大丈夫!」
夢主は晴れた空に向かい大きな伸びをした。