44.静観
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日が昇りきった真昼間、東京の下町では夢主が絵草子屋にいた。
夕べは止められたが、中島登の他の絵を見たかったのだ。
記憶通りならば中島作の斎藤一が存在する。もしかしたら歴史に埋もれてしまった幻の一枚だって出てくるかもしれない。
斎藤が嫌がると思えば少し罪悪感があるが、店先で錦絵の並びに目を動かした。
「おや、あんたは先日の。赤報隊の絵を買ったお嬢さんじゃないか」
「こんにちは、先日はありがとうございました」
こっそり探して帰るつもりだったが、店の作り上、店主の目からは逃れられない。
夢主は照れ笑いか苦笑いか分からぬ笑みを見せた。店主は自分と新選組の関わりを知らないが、どうにも気恥かしい。
「赤報隊の絵は珍しくて……大切にします。土方さんの絵、友人もとても喜んでくれました」
「そうかい、そいつぁ俺としても嬉しいねぇ」
「それで……中島登さんの絵って他にはありませんか、他に新選組の方の絵があれば欲しいんです」
夢主は無意識に声を潜めていた。
店主もつられてひそひそ話し始めた。はたから見れば恥ずかしい絵でも探しているようだ。
「新選組ねぇ、あるって聞いたけどうちの店に入ったのは土方歳三だけだな。そんなに欲しいなら探してみるけどどうするかい」
「本当ですか、お願いします」
「分かったよ。あんた相当好きなんだねぇ。ま、徳川様が治めた頃はなんだかんだで平和だったからなぁ、中でも新選組は幕府側で一二を争う人気だ。しかし最近の政はどうだい、目も当てられねぇな」
「そうですね……もう何も無いよう願います……」
「全くさ」
戊辰の折に江戸の町は無事だったものの、東京に変わってからは仕事を失った者が町に溢れた。
事件が多く、商売で成功しても強盗、中でも一家皆殺しにされる畜生働きに怯えなければならなかった。
少しは治安が良くなったと思ったら今度は維新者同士で戦争。明治政府に対する東京庶民の評判は悪かった。
暗い話になってしまったが中島登の絵探しを頼み、夢主は店を後にした。
どうすれば明るい時代がやって来るのだろう。
未来の知識をもって考えても方法は見つからない。
政治を行う一部の者達が多くを握りすぎている。夢主一人が考えた所でどうにも出来ない。
「はぁ……」
これから大きな事件も起きる。
志々雄真実が動き出す頃だ。また斎藤が危険な目に、近しい人々が巻き込まれていく。
長く深い溜め息が立て続けに漏れる。
頭を垂れて「はぁ」と息を吐いた時、曲がり角で神谷薫に出会った。
以前ぶつかりそうになった日と同じ場所で、同じように出くわした。
「薫さん」
「夢主さん……こんにちは」
小さく頭を下げた薫、上がった顔には僅かに戸惑いが感じられる。
「すいません、これから稽古なので!」
薫は目を逸らしたままもう一度頭を下げ、夢主の横を走り抜けた。
薫が見せた違和感は何だったのか、訊ねる前に走り去ってしまった。
夕べは止められたが、中島登の他の絵を見たかったのだ。
記憶通りならば中島作の斎藤一が存在する。もしかしたら歴史に埋もれてしまった幻の一枚だって出てくるかもしれない。
斎藤が嫌がると思えば少し罪悪感があるが、店先で錦絵の並びに目を動かした。
「おや、あんたは先日の。赤報隊の絵を買ったお嬢さんじゃないか」
「こんにちは、先日はありがとうございました」
こっそり探して帰るつもりだったが、店の作り上、店主の目からは逃れられない。
夢主は照れ笑いか苦笑いか分からぬ笑みを見せた。店主は自分と新選組の関わりを知らないが、どうにも気恥かしい。
「赤報隊の絵は珍しくて……大切にします。土方さんの絵、友人もとても喜んでくれました」
「そうかい、そいつぁ俺としても嬉しいねぇ」
「それで……中島登さんの絵って他にはありませんか、他に新選組の方の絵があれば欲しいんです」
夢主は無意識に声を潜めていた。
店主もつられてひそひそ話し始めた。はたから見れば恥ずかしい絵でも探しているようだ。
「新選組ねぇ、あるって聞いたけどうちの店に入ったのは土方歳三だけだな。そんなに欲しいなら探してみるけどどうするかい」
「本当ですか、お願いします」
「分かったよ。あんた相当好きなんだねぇ。ま、徳川様が治めた頃はなんだかんだで平和だったからなぁ、中でも新選組は幕府側で一二を争う人気だ。しかし最近の政はどうだい、目も当てられねぇな」
「そうですね……もう何も無いよう願います……」
「全くさ」
戊辰の折に江戸の町は無事だったものの、東京に変わってからは仕事を失った者が町に溢れた。
事件が多く、商売で成功しても強盗、中でも一家皆殺しにされる畜生働きに怯えなければならなかった。
少しは治安が良くなったと思ったら今度は維新者同士で戦争。明治政府に対する東京庶民の評判は悪かった。
暗い話になってしまったが中島登の絵探しを頼み、夢主は店を後にした。
どうすれば明るい時代がやって来るのだろう。
未来の知識をもって考えても方法は見つからない。
政治を行う一部の者達が多くを握りすぎている。夢主一人が考えた所でどうにも出来ない。
「はぁ……」
これから大きな事件も起きる。
志々雄真実が動き出す頃だ。また斎藤が危険な目に、近しい人々が巻き込まれていく。
長く深い溜め息が立て続けに漏れる。
頭を垂れて「はぁ」と息を吐いた時、曲がり角で神谷薫に出会った。
以前ぶつかりそうになった日と同じ場所で、同じように出くわした。
「薫さん」
「夢主さん……こんにちは」
小さく頭を下げた薫、上がった顔には僅かに戸惑いが感じられる。
「すいません、これから稽古なので!」
薫は目を逸らしたままもう一度頭を下げ、夢主の横を走り抜けた。
薫が見せた違和感は何だったのか、訊ねる前に走り去ってしまった。