44.静観
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「そいつは本当か、菊一文字をあいつから貰ったのか」
「えぇ、間違ってお腹を刺してしまったのでもう死んだと思ったんですけど、生きてたんですね」
そういえば生きていたのか、すっかり忘れていた、刺したんだっけ、あぁ道場へ入ったんだ。
記憶を辿って「あはは」と笑う宗次郎に罪の意識は感じられない。
ただ、あの時あの場所から去る時に呼ばれた気がした、僕の名前を呼んだ人、あの人の事は不思議と忘れない。
「おかしいな」
「どうした宗次郎」
「いいえ、何でもありません。死んだ人って志々雄さんのご友人ですか」
「ハハッ、まさか。俺に友なんざ必要ねェ。要るのは同志、俺の為に動いてくれる者だけだ」
そうですよね、疑いのない笑顔で宗次郎は頷いた。
二人の視線の先で沖田は首を振って通りを確認し、再び妓楼に姿を消した。
「誰なんですか、確か井上って名乗ってた気がするんですけど」
「井上か。俺が知っている名は沖田総司。新選組幹部を務め、菊一文字を持っていた男だ」
「あの刀を……じゃあ、あの人が」
「分からねぇ」
もう一度姿を現すか、志々雄は男が消えた入り口を監視するが、もう現れそうにない。
死んだ男が蘇る、名前を変えて生きている、どちらも幕末にはよくあった話だ。
「ねぇ、確かめて来ましょうか志々雄さん。僕の刀を見せて沖田総司の刀だったのか、あの人が当人なのか確かめて来ますよ」
「待て、お前刀持ってねェだろう」
すっくと立ちあがる宗次郎をすぐさま制した。
宗次郎なら一足飛びに行き兼ねない。その前に落ち着けと宥めた。
「あ……新しいアジトの部屋に置いてきちゃったんだ」
「ったく、だいたいお前はいつも丸腰だろう」
「忘れていました。志々雄さんの脇差も大切にしまってありますよ、あの部屋本当にいいですよね。僕、気に入っているんです」
「そいつは良かったな。まぁお前は短い刀一つで仕事が出来るからな。普段は邪魔な刀を持ち歩く必要はねェ。ここぞって時まで置いておけ」
「じゃあどうしましょう、行って聞いてきましょうか」
「いやいい。今は十本刀が無事集まることが先決だ。無駄な騒動は目立つ。今は人目を引いちゃいられねぇ」
「あははっ、吉原を集合場所に選んでおいて良く言いますね」
「ククッ、悪いかよ」
「いいえ、僕、志々雄さんのそういう所が大好きです」
満面の笑みで首を傾げる宗次郎に志々雄の毒気も抜かれ、やれやれと一息ついて再び向かいの妓楼に目を向けた。
変化があれば見守るだけだ。今はそれだけでいい。
だがもし本当にあの男が沖田総司なら、いずれ接触を試みて損はないだろう。
志々雄は忘れていた煙管に火をつけ、長く白い匂いを漂わせた。
「えぇ、間違ってお腹を刺してしまったのでもう死んだと思ったんですけど、生きてたんですね」
そういえば生きていたのか、すっかり忘れていた、刺したんだっけ、あぁ道場へ入ったんだ。
記憶を辿って「あはは」と笑う宗次郎に罪の意識は感じられない。
ただ、あの時あの場所から去る時に呼ばれた気がした、僕の名前を呼んだ人、あの人の事は不思議と忘れない。
「おかしいな」
「どうした宗次郎」
「いいえ、何でもありません。死んだ人って志々雄さんのご友人ですか」
「ハハッ、まさか。俺に友なんざ必要ねェ。要るのは同志、俺の為に動いてくれる者だけだ」
そうですよね、疑いのない笑顔で宗次郎は頷いた。
二人の視線の先で沖田は首を振って通りを確認し、再び妓楼に姿を消した。
「誰なんですか、確か井上って名乗ってた気がするんですけど」
「井上か。俺が知っている名は沖田総司。新選組幹部を務め、菊一文字を持っていた男だ」
「あの刀を……じゃあ、あの人が」
「分からねぇ」
もう一度姿を現すか、志々雄は男が消えた入り口を監視するが、もう現れそうにない。
死んだ男が蘇る、名前を変えて生きている、どちらも幕末にはよくあった話だ。
「ねぇ、確かめて来ましょうか志々雄さん。僕の刀を見せて沖田総司の刀だったのか、あの人が当人なのか確かめて来ますよ」
「待て、お前刀持ってねェだろう」
すっくと立ちあがる宗次郎をすぐさま制した。
宗次郎なら一足飛びに行き兼ねない。その前に落ち着けと宥めた。
「あ……新しいアジトの部屋に置いてきちゃったんだ」
「ったく、だいたいお前はいつも丸腰だろう」
「忘れていました。志々雄さんの脇差も大切にしまってありますよ、あの部屋本当にいいですよね。僕、気に入っているんです」
「そいつは良かったな。まぁお前は短い刀一つで仕事が出来るからな。普段は邪魔な刀を持ち歩く必要はねェ。ここぞって時まで置いておけ」
「じゃあどうしましょう、行って聞いてきましょうか」
「いやいい。今は十本刀が無事集まることが先決だ。無駄な騒動は目立つ。今は人目を引いちゃいられねぇ」
「あははっ、吉原を集合場所に選んでおいて良く言いますね」
「ククッ、悪いかよ」
「いいえ、僕、志々雄さんのそういう所が大好きです」
満面の笑みで首を傾げる宗次郎に志々雄の毒気も抜かれ、やれやれと一息ついて再び向かいの妓楼に目を向けた。
変化があれば見守るだけだ。今はそれだけでいい。
だがもし本当にあの男が沖田総司なら、いずれ接触を試みて損はないだろう。
志々雄は忘れていた煙管に火をつけ、長く白い匂いを漂わせた。