4.上野の山
夢主名前設定
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斎藤が戻った頃にはすっかり夜が更け、辺りはしんと静まり返っていた。
中に沖田がいた昨夜と違い、今宵は何の異変も感じ無い。門を開けて中に入り玄関脇の押し戸に触れるが、しっかり閂がかけられている。
安心して家に上がり、帽子と上着を脱ぎ廊下に出ると、雨戸もしっかり閉じていた。
「起きていたのか」
気配も薄く、寝ているものと決めてそっと障子を開くと、薄っすら目を開いた妻がこちらを窺っていた。
暗闇で斎藤の姿は見えていないだろうが、眠たげな笑みを浮かべている。
夢主は今の今まで眠りの中にいたのか、ゆったりと小さな声で話した。
「すみません、うとうとしてたんですけど」
「起こしちまったか、悪かったな」
「いえ……」
部屋に入り夢主が用意しておいた寝巻に着替え始める斎藤の横で、そっと体を起こした。
「構うな、そのままでいろ」
「でも……」
「すぐに俺も布団に入る」
すぐに隣へ……ぽっと頬を染めるが、薄暗い部屋では気付かれていないはず。
夢主は静かに布団の中に体を戻した。
「あの……」
「なんだ」
斎藤は寝巻の紐を巻きながら応えた。
「永倉さんにお会いしました……」
「永倉さんに」
まだ東京にいると情報は掴んでいたが、夢主に接触してくるとは。
斎藤は捉え切れていなかった事態に驚いた。
「はい、今朝の桜の騒ぎの後に声を掛けてくださったんです」
「あの時か。さすがは永倉さんだな、綺麗に気配を消したもんだ」
「いろんな人がいましたしね……それで、お祝いのお酒を頂いたんですよ」
二人の話し声と、斎藤が着替える動きで起こる衣擦れの音だけが、静まり返った家の中で響いている。
隣室の時計の音も今は耳に届かない。
「祝いの酒か」
「はい、祝言を挙げるんだろうって……聞きつけたみたいで……」
「ほぅ、耳聡いな。礼をせんといかんな」
腰の紐を縛り上げた斎藤が夢主を見つめると、夢主も暗さに目が慣れたのか、二人の目がはたと合った。
「どうした」
「永倉さん、北海道に行かれるんです。一さんにも総司さんにも会えないって……私、何も気にしなくて大丈夫ですってお話したんですよ、でも駄目だってそればかりで……」
「仕方が無いさ。永倉さんにも考えがあって、生き方がある」
「総司さんも同じような事を……」
「そうか、なら沖田君も思ったよりは大人だって事だな」
「ぅうん……」
「ははっ、納得いかんって顔だな」
ニッと笑んで布団に腰を下ろすと、爪で撫でるように布団でほかほかと温まった夢主の頬に触れた。
そしてにこりと返ってくる笑顔に満足し、手を離した。
「もう気にするな。また会えるさ」
夢主が頷くと、斎藤も同じように顎を引いて「そうだ、それでいい」と無言で応えた。
揃って暖かい布団の中に身を滑らせると、斎藤は改まって口を開いた。
「今朝はすまなかったな」
中に沖田がいた昨夜と違い、今宵は何の異変も感じ無い。門を開けて中に入り玄関脇の押し戸に触れるが、しっかり閂がかけられている。
安心して家に上がり、帽子と上着を脱ぎ廊下に出ると、雨戸もしっかり閉じていた。
「起きていたのか」
気配も薄く、寝ているものと決めてそっと障子を開くと、薄っすら目を開いた妻がこちらを窺っていた。
暗闇で斎藤の姿は見えていないだろうが、眠たげな笑みを浮かべている。
夢主は今の今まで眠りの中にいたのか、ゆったりと小さな声で話した。
「すみません、うとうとしてたんですけど」
「起こしちまったか、悪かったな」
「いえ……」
部屋に入り夢主が用意しておいた寝巻に着替え始める斎藤の横で、そっと体を起こした。
「構うな、そのままでいろ」
「でも……」
「すぐに俺も布団に入る」
すぐに隣へ……ぽっと頬を染めるが、薄暗い部屋では気付かれていないはず。
夢主は静かに布団の中に体を戻した。
「あの……」
「なんだ」
斎藤は寝巻の紐を巻きながら応えた。
「永倉さんにお会いしました……」
「永倉さんに」
まだ東京にいると情報は掴んでいたが、夢主に接触してくるとは。
斎藤は捉え切れていなかった事態に驚いた。
「はい、今朝の桜の騒ぎの後に声を掛けてくださったんです」
「あの時か。さすがは永倉さんだな、綺麗に気配を消したもんだ」
「いろんな人がいましたしね……それで、お祝いのお酒を頂いたんですよ」
二人の話し声と、斎藤が着替える動きで起こる衣擦れの音だけが、静まり返った家の中で響いている。
隣室の時計の音も今は耳に届かない。
「祝いの酒か」
「はい、祝言を挙げるんだろうって……聞きつけたみたいで……」
「ほぅ、耳聡いな。礼をせんといかんな」
腰の紐を縛り上げた斎藤が夢主を見つめると、夢主も暗さに目が慣れたのか、二人の目がはたと合った。
「どうした」
「永倉さん、北海道に行かれるんです。一さんにも総司さんにも会えないって……私、何も気にしなくて大丈夫ですってお話したんですよ、でも駄目だってそればかりで……」
「仕方が無いさ。永倉さんにも考えがあって、生き方がある」
「総司さんも同じような事を……」
「そうか、なら沖田君も思ったよりは大人だって事だな」
「ぅうん……」
「ははっ、納得いかんって顔だな」
ニッと笑んで布団に腰を下ろすと、爪で撫でるように布団でほかほかと温まった夢主の頬に触れた。
そしてにこりと返ってくる笑顔に満足し、手を離した。
「もう気にするな。また会えるさ」
夢主が頷くと、斎藤も同じように顎を引いて「そうだ、それでいい」と無言で応えた。
揃って暖かい布団の中に身を滑らせると、斎藤は改まって口を開いた。
「今朝はすまなかったな」