44.静観
夢主名前設定
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赤猫楼向かいの妓楼では沖田が機嫌良く楼主に挨拶をしていた。
「今日はあの騒々しい一団もいないようですね」
「私共にとっては良いお客さんですけども」
「それはそれは、いつもお気遣いいただいて申し訳ありません。申し訳ありませんから今日はお暇致しましょうか」
「待ってください!」
いつも気遣いされている。
小金しか使わない自分は大網元の軍属連中より良い客とは言えない。
これからやって来るかもしれない金払いの良い客の為に部屋を開けておこうと帰る素振りを見せると、楼主が慌てて引き留めた。
「どうしたんですか、お店も潤ってるし僕は必要ないでしょう」
「お待ちください、それが大ありなんです。数日前から向かいの赤猫楼になんやら物騒な人達が泊まっておりましてな井上はん」
「あー……分かりました」
「助かります!いつもいつもおおきに」
「持ちつ持たれつ、仕方がありませんね」
沖田は用心棒として妓楼に残るよう楼主に引き止められたのだ。
こんな日は度々あった。
楼主の鼻はとても良く利き、危険を察しては沖田を引き留めるのだった。
「念の為に通りを見てみましょう」
「おおきに、頼みます!」
楼主が番をする内所から土間に降りた沖田は、草履に足を入れてにこりと会釈してから襟巻を引き上げた。
人ごみを行く際は未だに顔は隠している。口が隠れるまで布を引っ張り上げて通りに顔を出した。
その姿をたまたま向かいの妓楼二階で見つけた志々雄が僅かに身を乗り出した。
「あいつは」
「あれっ、僕あの人知っていますよ」
廊下で禿と遊んでいたはずの宗次郎が、開けっ放しの襖の向こうからやって来た。
志々雄が振り向くまでもなく、一瞬で隣に移動して笑っている。何に気を取られたのか気になったのだ。
志々雄の興味を辿り、見えた男に覚えがあった。
「知り合いか、宗次郎」
「いいえ、僕の知り合いなんて志々雄さんの周り以外にいませんよ」
「じゃあ誰だあいつは。俺の知ってる男によく似てるがそいつはとっくに死んでいる」
「へぇ、おかしな話ですね死人の知り合いだなんて。あの人は僕が刀を貰った人ですよ」
「何だと」
「菊一文字ですよ、綺麗な白い刀。僕のお気に入りです」
宗次郎の話に志々雄の顔がみるみる歪んでいく。
笑っているのだ。
「今日はあの騒々しい一団もいないようですね」
「私共にとっては良いお客さんですけども」
「それはそれは、いつもお気遣いいただいて申し訳ありません。申し訳ありませんから今日はお暇致しましょうか」
「待ってください!」
いつも気遣いされている。
小金しか使わない自分は大網元の軍属連中より良い客とは言えない。
これからやって来るかもしれない金払いの良い客の為に部屋を開けておこうと帰る素振りを見せると、楼主が慌てて引き留めた。
「どうしたんですか、お店も潤ってるし僕は必要ないでしょう」
「お待ちください、それが大ありなんです。数日前から向かいの赤猫楼になんやら物騒な人達が泊まっておりましてな井上はん」
「あー……分かりました」
「助かります!いつもいつもおおきに」
「持ちつ持たれつ、仕方がありませんね」
沖田は用心棒として妓楼に残るよう楼主に引き止められたのだ。
こんな日は度々あった。
楼主の鼻はとても良く利き、危険を察しては沖田を引き留めるのだった。
「念の為に通りを見てみましょう」
「おおきに、頼みます!」
楼主が番をする内所から土間に降りた沖田は、草履に足を入れてにこりと会釈してから襟巻を引き上げた。
人ごみを行く際は未だに顔は隠している。口が隠れるまで布を引っ張り上げて通りに顔を出した。
その姿をたまたま向かいの妓楼二階で見つけた志々雄が僅かに身を乗り出した。
「あいつは」
「あれっ、僕あの人知っていますよ」
廊下で禿と遊んでいたはずの宗次郎が、開けっ放しの襖の向こうからやって来た。
志々雄が振り向くまでもなく、一瞬で隣に移動して笑っている。何に気を取られたのか気になったのだ。
志々雄の興味を辿り、見えた男に覚えがあった。
「知り合いか、宗次郎」
「いいえ、僕の知り合いなんて志々雄さんの周り以外にいませんよ」
「じゃあ誰だあいつは。俺の知ってる男によく似てるがそいつはとっくに死んでいる」
「へぇ、おかしな話ですね死人の知り合いだなんて。あの人は僕が刀を貰った人ですよ」
「何だと」
「菊一文字ですよ、綺麗な白い刀。僕のお気に入りです」
宗次郎の話に志々雄の顔がみるみる歪んでいく。
笑っているのだ。